ウサギちゃん(ショートショート)
(498字)
「ねえ、アラームがセット出来ないのよ」
ウサギちゃんが困った顔をして、僕の膝に乗った。“ウサギちゃん”というのは、本当のウサギちゃんではなく、人間の女の子の名前。ウサギちゃんはショッキングピンクのネイルをした爪を持つ右手で、手のひらサイズの小さな目覚まし時計をぶんぶん振り回す。
もちろん、僕の膝の上で。
「ウサギちゃん、アラームがセット出来ないって、何で?」
「知らないわよ! うわーん!!」
「泣かないで、ウサギちゃん」
「うわーん!!」
「時間が必要ない生活を、これからずっと僕がウサギちゃんに贈り続けるよ」
ウサギちゃんは泣き止み、僕の膝の上で時計を握り潰した。
バキッ! ゴリゴリ!! ポロッ。
カーン。
「ウサギちゃん、時計を壊したら元も子もないよ」
「まさか、いらないわよ」
「ええ~?」
「時間なんて、ないわよ。元々」
「ええ~? えええ~? ウサギちゃん……」
ウサギちゃんは僕の膝の上から離れ、すくっと立ち上がる。
「ウサギちゃんタイム終了。あなたとは、さよなら」
「じゃ、じゃあ、次はモンシロチョウちゃんで……」
「長い。五文字以下でお願い。次にあなたに“時間”があったならね」
カーン。
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