【映画館】天外者(てんがらもん)
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【映画館】天外者(てんがらもん)

 走る浪人風の侍。それを追う大勢の侍。
 もう一人走る浪人風の侍。それを追う大勢の侍。
 追手から逃げるように走る侍は、走っている最中に万華鏡を除く武士とぶつかり、その武士は万華鏡を落として壊してしまう。ぶつかった武士は壊れた万華鏡を覗いて呆然とする。
 万華鏡の武士に気づかずに走り続ける侍が角を曲がるとそこでもう一人の逃げる浪人風の侍とばったりと出会い、同じ方向に走っていく。並んで走っている最中にお互いが相手よりも先に行こうと張り合い始める。
 この二人こそが、あの坂本龍馬とこの物語の主人公である五代才助、のちの五代友厚であった。

 長崎海軍伝習所の勝海舟のところに、坂本龍馬がひょっこり顔を出した。坂本龍馬は日本の未来を憂いながらも、伝習生に骨のあるやつがいるのかと気になって窓から訓練を覗いてみる。
 勝海舟は「お前と似たやつがいる」と龍馬に気骨のある伝習生のことを教えた。
 その伝習生こそ、薩摩より派遣されてきた五代才助だった。
「こんな訓練より俺を学ばせろ!俺に学ばせるということは、この日本が一日早く進歩することだ!」
 こう叫んで槍の訓練の最中に教官に食ってかかっていた。坂本龍馬はその姿を面白そうに笑って眺めていた。
 訓練の休みの時に、五代は自作の軍艦模型を川に浮かべて子供たちを楽しませていた。子供たちと川を流れる軍艦模型を追っていくと、橋の上で身を乗りだそうとしていた遊女がいた。
 とっさに五代は駆け寄り、飛び降りないように肩を掴むとその遊女は警戒の表情を浮かべて、「身体に触らないで。触りたければお店でお金を払いなさい」と五代を睨みつける。
 五代は身投げと勘違いしたと謝ると、その遊女「はる」は呆れたような顔をした。
「そんなわけないでしょ」
 五代は言葉に困って子供たちの方に目をやると、自信作の軍艦模型が沈んでいくのが見えた。五代は慌ててその模型を探そうと川に飛び込む。全身ずぶ濡れになって川の中を探すも自信作の軍艦模型は見つからない。その様子を見て、はるは橋の上から微笑むのだった。

 長崎を五代がぶらぶらしていると突然、「見つけたぞ!」と着ている着物を掴まれる。
 掴んだ相手は、前の逃走劇の時にぶつかり万華鏡を壊された武士だった。
「弁償してもらおうか!私の給金で二年分だったんだぞ。長崎中を探してやっと見つけたんだ!」
 ものすごい剣幕で壊れた万華鏡を五代に見せた。五代はそれを受け取り、中を覗いてみる。
「ずいぶんふっかけられたものだな。これはその三分の一くらいの値打ちしかない」
 五代は懐から工具の入った布を取り出し、工具を使って万華鏡を分解し始める。万華鏡の持ち主は突然始まった五代の作業を唖然として見ている。
 手際よく分解し、万華鏡の内部を修理して元通りに組み直して、持ち主に返した。
 持ち主は渡された万華鏡を覗いてみると、
「おお、前よりも綺麗だ!」
 と大喜びする。
「殿様に気に入られるための品か」
 五代は工具を元の布に収めると工具布を巻いて懐に戻した。
 図星をつかれた万華鏡の武士は言葉が出ない。しかし、その武士は言葉を絞り出した。
「イギリスに留学したいのだ」
 万華鏡を大事そうに抱えたその武士の名前は伊藤利助、のちの伊藤博文だった。

 この映画は五代友厚という今まで語られてこなかったものの、幕末から明治新政府時代にかけて、海外貿易による商業立国を説いた人物を描いています。
 五代友厚と坂本龍馬、伊藤博文に岩崎弥太郎の四人がつるんで、若い頃からことあるごとに牛鍋をつついてます。創作の風景でしょうが、志のある若者が集まったら、牛肉の取り合いをしながら酒を飲むのは自然な気もします。
 坂本龍馬が出てくると、倒幕だの新選組などの武力型志士との話が多いものですが、この映画では坂本龍馬の政治経済側の知人(五代、伊藤、岩崎)しか出てきません。後に亀山社中を作ることから、本当の坂本龍馬はむしろ商いの方に興味があったのかもしれません。
 さらに映画では大政奉還のアイデアも五代友厚からだとしています。個人的に剣の腕を磨き、脱藩までしてた坂本龍馬が日本を変えるだけのアイデアを一人で思いついたと思うのは難しいと思っていましたが、なるほど五代友厚という人物の存在があれば、合点がいきます。
 五代友厚は、幼名五代才助という名前で、その才助とは薩摩藩主よりその頭の良さから名付けられたほどです。映画内の逸話では、儒学者の父が島津斉興より地球儀を作れと言われ、世界地図を預かったものの、地球儀の意味すらわからず頭を抱えていました。それを子供だった五代才助は、雪洞にその地図を貼り付けて地球儀を作ってしまいました。
 他にも武器商人トーマス・グラバーと親交があったり、五代才助の上申書などを書いていたり、学んだり経済的な知識には貪欲で、それらをすぐに理解できる頭の良さがありました。
 もしかしたら開国よりの考えの持ち主の中では、桁違いに頭のいい人物だったのかもしれません。この人物がいたからこそ、坂本龍馬も政治的な活動ができたのではないかと思えてきます。
 幕末で天才といえば吉田松陰ですが、頭がよく世界に知識を求めた吉田松陰は結局それを叶えることが出来ませんでした。まさにその吉田松陰と同じくらい頭がよく、そして現実に世界を見て日本の進歩を追い求めた人物こそ、この五代友厚なのでしょう。
 今まで日本は、幕末といえば戦争での勝ち負けやそこでの英雄たちばかりにスポットライトを当ててきました。確かに過去の日本では頭の良さよりも刀の強いか弱いかの方が重要でした。実際当時の武士たちの価値観がそうだったのでしょう。そのために刀の腕も立つが、頭の良さにより、先を見通しすぎて他人からは売国奴や守銭奴のように見られてしまった五代友厚は、実は日本のことを誰よりも考え、日本のために生きた偉人だったのです。
 東の渋沢栄一、西の五代友厚と呼ばれる近代日本経済の礎を築いた五代友厚を故・三浦春馬さんが演じています。当然物語の終盤五代友厚の命が燃え尽きる展開になりますが、どこか三浦春馬さんと重なってしまってこみ上げてくるものがありました。
 俳優として好きだった三浦春馬さんが亡くなってしまったことは非常に残念ですが、五代友厚いう今まで評価されてこなかった幕末の偉人を三浦春馬さんが演じられたことは幸いなことでした。五代友厚という人物が、現代日本に最高のイメージで現代人の前に出現できたのですから。
 この三浦春馬さんが演じた五代友厚が映像世界に登場したことは、この先の幕末をテーマにしたドラマに大きな転換を求められることになるでしょう。
 幕末の偉人たちと交流があり、薩摩藩士にその才を認められ、グラバーに支援され、イギリスを見てきて、伊藤博文とも親交があり、明治政府の閣僚でもあり、関西の経済発展に尽くした人物です。今までの幕末のドラマに顔を出していなかったのがおかしいほど、日本に影響を与えている人物であり、それを故三浦春馬さんが最高の快男子として演じています。
 映画では坂本龍馬の知識と商いのライバル兼親友として描かれていますが、実際そうだったのではないでしょうか。行動力の坂本龍馬と知識の五代友厚がコンビとして動いていたとすれば、脱藩浪士の坂本龍馬が幕末の時代に名前を残す活躍ができたのではないかとこの映画を観て感じました。
 そう考えると薩摩は篤姫を徳川家に送り、武力の西郷隆盛と知識の五代友厚を排出しているわけです。当然、映画内でこの西郷隆盛と五代友厚が決別するシーンが描かれています。二人とも薩摩藩主に気に入られた人物ですが、まさに考え方が異なり、薩摩藩にいたときから、水と油ほど考え方が合いません。武士の代表西郷隆盛と知識と経済の代表五代友厚が、薩摩藩内にいたころから気が合わず、西郷隆盛が明治新政府に愛想をつかす時に説得するのも同じ薩摩藩で閣僚の五代友厚でした。きっと新たな西郷隆盛の物語を作るときにはこの五代友厚は登場させなければならない人物になるでしょう。
 幕末のミッシングリンクを埋める知の偉人である五代友厚の映画、きっと主演では最後になる三浦春馬さんの主演映画をぜひ劇場でごらんください。
 まさに幕末のビジネス本、自己啓発本といった映画になっています。

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