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女子小学生のダイエットブーム

私が通っていた小学校は給食がとてもおいしかった。
他の小学校では町や市の給食センターから配給されるらしいが、私の学校では校内に給食室があり、いわゆる給食のおばちゃんが全校生徒分の給食を作っていた。

毎年春になると、他校から赴任してきた先生は、「給食がおいしい!」と必ず言う。
しかし、生徒からすると他の味を知らないのだからなんとも思わない。

育ち盛りの男子は給食をおかわりする。
そして、休みの生徒がいるときは、ゼリーやプリン、ヨーグルト、チーズのような一品を手に入れるべく、男子の中で争奪戦になる。
命懸けのじゃんけんだ。

じゃんけんで負けた生徒の中には、女子に「ゼリーちょうだい!一生のお願い!!」と懇願する者もいた。
一生のお願いをこんなところで使った彼は今も元気にしているだろうか。

さて、私が5年生の頃、女子の間でダイエットブームが起きた。
おそらく一人が給食を少なめにしたことで、周りの女子もそうしなければいけないという雰囲気になったのだと思う。

給食の時間になると、先生が来るまでに給食係は皆の給食を盛り付けなければならない。
その日、給食の準備が終わる頃、友人は「ゼリーちょうだーい!」と叫んだ。
友人は、明るく活発でクラスの人気者だった。お笑いセンスも抜群だ。

ダイエットブームに乗っかって、約20人の女子が「ゼリーあげるー」と友人にゼリーを渡した。
更に女子たちは「パンもあげるー」「おかずもあげるー」「シチューもあげるー」「牛乳もあげるー」と、どんどん友人に給食を渡した。

友人の机はお皿で溢れていた。おぼんはとうに役割を果たしていない。
パンだけみても、通常1人2枚なのだが彼だけは30枚ほどある。
縦に積んでいるので、一斤丸々置いてあるほどの高さだ。

さすがに周りの皆は心配した。
「そんなに食べれるのかよー!」

「大丈夫、潰せば小さくなる!」
友人はそう言って、椅子の上にのぼり、高く積まれたパンの中心めがけてパンチを繰り出した。何度も何度もパンチする。
すると、パンの中心からどんどん潰れていき、少し小さくなった。

中心だけでなくパンの耳の方もどんどんパンチしていった。
すると半分以下のサイズになったパンの塊ができた。
もはやパンと呼べるのだろうか。カチコチの塊である。
小さくなったといっても、高さはまだ10センチほどある。

いよいよ、いただきますの時間だ。
先生が教室に入ってきた。
先生は、給食が何十皿も並べられている友人の机を見るなり激怒した。
「なんですかこれは!皆に返しなさい!!」

ついさっきまで、あんなに嬉しそうに意気揚々とパンにパンチを繰り出していた友人は目に見えて落ち込んでいた。
給食を皆に返すことになり、何十皿も並べられていた給食は全て女子に返された。
しかし、パンは一つの塊になってしまっている。
パンを返せない分、元々自分のものであったはずのおかずやシチューやゼリーまでも全て女子に提供することになった。

その日、いつも一番大きな声で「いただきます!」を叫ぶ友人の声は聞こえなかった。

パンの塊を悲しそうにかじる友人を眺めつつ、昼休みに彼と何を話そうか考えながら私はゼリーを食べた。

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