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乳がんになって入院手術した話-2(覚悟と仕事の調整編)

乳がんになって入院手術した話-1(発見と病院探し編)の続きです。

2020年8月5日
針生検の日。私は今まで大きな病気をしたことなく、点滴以外の傷を体につけたことないので、生検は結構怖い。胸に針を刺して、細胞を抜き取る。
麻酔をするので痛くはないけれど、なんだか怖い。
怖いので直視はしてないけれど、たぶん大きなピアッサーのようなものを胸に刺してた。痛くはないけど、音と衝撃がすごい。ホチキスとピアッサーを足したような音。「バチーン!」と音がするたびに、検査のための細胞が取れる。10回くらい取った。終わった後に撮った部分を見せてもらったら、フィルムケースに肉片のようなものが浮いてた。
胸は大きなガーゼで固定してもらった。今思うと全然小さな傷なのだけど、麻酔をして、針を刺し、見慣れた胸を傷口として扱うことは、手術の予行練習としてすごくよかった。いきなり手術だったら結構怖かった。

2020年8月21日
針生検とエコーを合わせて病気の結果を受け取り、手術の相談する日。
エコーと針生検で、良性のしこりという希望は消えて、やはり非浸潤ガンとのこと。でも針生検を行ったことで、はっきりと勘違いではなく、病気ということがわかってよかった。

非浸潤ガンは、もしかしたらそのままでも大丈夫かもしれないが、消えることは消してない。運がよくて、そのままか、大体は大きくなる可能性のみ。研究でも、非浸潤ガンをほっておいたらどうなるかの実験は行えないために、そこから命に関わる形に発展するかどうかの確率は正しく知ることができてない。なので、リスクを減らすためには、腫瘍の切除以外に選択肢はないと聞く。

なにかしら手術を行うことは決定した。だけど、この日に、具体的な方法はまだ決まらない。9月11日に手術方法を決めるためのMRIを撮影する。その後、形成の先生と乳腺科の先生で相談したあとに、9月17日に手術方法を提案するとのこと。予測される手術方法はたぶん2つだと言われた。

■部分切除
→胸のしこりの部分とその周辺を切り取る
■全摘出+再建
→胸の膨らみを全部取って、背中やお腹から肉を移植して元に戻す

値段は高くても自己負担は12万くらい。
どちらの方法にせよガンの位置が乳首に近いので、乳首も切除範囲になる可能性が高いと主治医は言う。

この時なんとなく頭に浮かんだ映像は映画アウトレイジ。小指をつめるより、乳首を取るってなんか怖くない...?なんのケジメですか...?真面目に日常生活を送ってたはずなのに、突然、ヤクザ映画のように体のカタチが変わるかもしれない状況に動揺する。だけど、もしかしたら命がなくなってたかもしれない未来を想像することで、こんなこと何でもないと思いなおし生きられる選択肢のある状況に感謝。だけど、何かのカタをつける義理もないのに何故私が...。とぐるぐる。

日常の風景にいる感覚のギアを、あらゆる映画で見た九死に一生の瞬間の感覚にズラして命の儚さについて想像するのだけど、油断すると、どうしてもいつもの煩悩にまみれた我儘な日常の感覚で考えてしまう。温泉の時どうするの?ドレスは着られるの?彼はどう思うの? そんな風に当たり前の風景が奪われることに納得行かない気持ちが浮かび上がる。その都度、死んでたかもしれない様々な自分を想像して、今回の手術を納得させる。そのループでグルグル。

体のカタチが変わることについて、伊藤亜紗先生の多様な手と足のアーカイブのインタビューをグラフィックレコーディングでお手伝いしていた時のことを思い出す。たくさんの声を聞いている自分だから冷静でいられる自信もあったけど、当事者になって初めて流れ込んでくる感覚がたくさんある。また他者には決して伝えられないストーリーもあることがわかる。いろいろなことを考える。

スクリーンショット 2020-10-31 午後2.04.31

帰宅する頃には、ぐるぐるは落ち着いた。しかし、今度は、見た目が変わることで、しゅんくんが私に見向きもしなくなり、おっパブの常連さんになってしまったらどうしよう...という何だかよくわからないシナリオの不安に変わってた。帰宅してしゅんくんに報告。彼は繊細でナイーブなタイプなはずなのに、この件に関しては始まりからずっと冷静に話を受け止めてた。(そうやって見せてただけで、実はたくさんの葛藤があったことは後から彼の日記で知ることになる)  

▼夫 a.k.a しゅんくんの日記▼

(一緒に暮らしていても、全部の気持ちを共有できないことがわかるので、
それぞれが日記を書くのはとても面白いと思った。)

彼は真面目な顔をして、「僕は、じゅんこのカタチが変わることで、意味なくがっかりしたりなんかしない。中身が大好きだから、入れ物は別。きっと新しいカタチもかっこいいよ。そのカタチをふたりで受け入れていこうよ」みたいなことを言ってくれた。文学部出身で、今は編集者/文筆家/ラジオパーソナリティを職業とする彼の言葉は、もっと長くて複雑でお洒落な言い回しだったような気もしたけど、私の頭の中に残った言葉はこんな感じ。 シンプルに安心で嬉しい。

一通りの不安を想像の中で旅して、私たちなりの答えを仮置きして、安心した日。

▼この時期に読んだ本▼

初期の非浸潤がんについての体験記。早期発見した時の体験本は以外と見つからないのでとても参考になった。

壮絶な乳がん体験記を読んでいると、自分のがんはたいしたことない。悲しんだり凹んでたらダメなんだ、むしろ感謝しなくてはいけない....と知らず知らずの内にプレッシャーを感じてた。

確かに、乳がん患者業界(?)の中では、ステージ0の非浸潤がんの治療は負担が少なくシンプルだ。でもこの本を読んで、病気は他の人と大変度を競争するものではなく、自分の中での悲しみと苦しみのサイズがあるのだから、そのまま感情を感じてよい、と考えることができた。

2020年8月24日
職場の上司に相談。この時点で病気のシビアさは理解して覚悟を決めてたはずだけど、やはり正常性バイアスがあったように思う。入院手術は1週間で済むので、その間を休講にしていつも通り済まそうと思ってた。特に入院手術を体験したことないので軽く見積もっていたのだと思う。この提案に対して、上司は入院手術は想像以上に体力を消費するので、しっかり休んだ方がよい。またなるべく早く手術をした方がよいので、休めるタイミングを待たずに、最短で手術の予約をしなさいとアドバイス。
このアドバイスに対して、ありがたいと思いつつ、社会から置いて行かれそうな不安も感じる。私は今までの人生、いつも健康で社会活動に追いつけない体験をしたことなかった。なので誰かに「休んでいいよ」という側だったけど、ここで初めて置いて行かれそうな不安を感じる側になった。それはどんな立派な本を読むよりも重要な情報のように感じた。

2020年9月11日
もう一度MRI。前に一度撮ったのでそれじゃダメなのか?と思ってけど、もう一度必要らしい。MRIは2度目。最初は怖かったけど、2度目は慣れた感じ。MRIは宇宙船のような狭い空間で激しい音がする。それはまるでケチャのような不思議なリズム。またはメディアアートのような体験と思うと趣深い。

2020年9月17日
針生検とエコー、MRIの結果を合わせて、乳腺科の主治医から手術の方法が提案される日。この日は夫と一緒に向かう。がんの位置とサイズから全摘出ではなく、部分切除で進めたいとのこと。しかし、がんの位置が乳首と乳輪に近いので、乳首と乳輪は切除しかないと聞く。この時点で何度も脳内でアウトレイジ的に怖いことをシミュレーションしていたことと、主治医が様々な角度から真剣に手術方法を検討してくれてることが伝わってるので、疑うことなく、安心して受け入れられた。また乳首と乳輪も再建できる方法がたくさんあるらしいので、まずはがんを切除したあとにゆっくり考えることにした。

2020年9月23日
乳腺科の先生は、確実に胸からがんを取り除くプロフェッショナル。できる限り胸を綺麗に切って繋げるプロとして形成外科の先生も手術に参加すうことに。この日は形成の先生との初対面。どんな先生か不安も少しあったが、形成の先生も女性の先生。既に乳腺科の先生と打ち合わせ済みで、リスクについても色々と情報共有してるようで心強い。もしも組織的に仲悪かったりしたら、こういった手術に影響あるんだろうなぁと想像してしまう。横断した連携が風通しよくできてる病院でよかった。

資料として胸の写真を撮影する。手を腰に当てて前横斜め45度。裸の写真を撮られるのだけど、先生方のしっかりした態度で何も不安がない。胸の手術では治療の前にこういったことがあるので、最初に行った病院でのいらない会話や決めつけがある医者のところで掛からなくて本当によかったと思った。仮に凄く腕が良くても、ひとつひとつの体を介したコミュニケーションでストレスを感じてしまうところだった。

2020年9月25日
乳腺科の先生に手術前の最後の検診。
打ち合わせも済み、手術の日程も決まり、あとは入院するのみとなった。
診断書をもらう。

2020年10月1日
入院するに当たって、コロナのPCR検査が必要だということに。
待ち合わせ番号が49ですごい不吉だなぁ... と感じたが、結果は陰性。
無事に入院できることに。

この時期入院に向けて、仕事を前倒しで進める。どちらかというと、その忙しさの過労で入院になりそうという本末転倒、ギリギリの体調。

▼▼▼つづく▼▼▼




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