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【日記 #2】クローズド・サークルって難しい

(この記事は【秘密の読書感想文 #1】の続報です)

「十角館の殺人」を読んだときに感じた違和感の正体が分かった。

それは「前提の裏切り」に対する悔しさだったようだ。

当の作品で、犯人は島と本土の行き来ができたという話があった。
そこに関して、謎解きの範囲が島の中で完結していないという部分に私はがっかりしていたらしい。

犯人と他では見えている全体が違う。
そのため、犯人だけ特別な行動がとれる構図になるのは当然であるが、置かれた状況だけは揺るがないものであってほしかった気持ちが大きいのだろう。
逆に言えば、そこさえ守られていれば、その上で犯人がどのような手段を取ろうと納得がいくほど私の中では重要視している部分だったようだ。

物語の本筋とは関係のないところで空間外の話があげられる分には問題ないが、前提のところで空間外の要素が入ってくると私は冷めるらしい。
どちらが良い悪いという話ではないが、私の好みははっきりした。

夢オチに近い感覚かもしれない。
これをありとしたら「犯人だけはこれができる」が大量発生して、なんでもありにならないだろうか。
その環境から出られるとなれば、全ての経緯が意味をなさなくなる。
犯行の手段となりえるものが途中でいきなり登場したり、いきなり消失したり、そんなことが可能な状況だと位置づけてしまっては推理も何もない。

クローズドサークルに対して、私は調べた知識で「外界との接触が断たれた状況を扱った作品」と認識していた。
ここが強く固定観念として付いてしまっていたのだろう。
私は、閉じられた空間、その環境下でいかにばれることなく、どのようにして犯行に及ぶかというところに期待を寄せていたのだと思う。
「十角館の殺人」において、それは無いものとされていた。
サークルがクローズされていない。
穴をつくどころの話ではない。穴すぎる。

完全にやられた。
そういう前提だと思い込んでしまっていたがゆえの、裏切られた感である。
私の思いなど「そういう設定だと言ったかい?浅はかだった君の負けだね」と鮮やかにかわされて終わりの事である。
悔しすぎる。
読了直後は余韻も何もない小説だと思っていたが、今こうして一つの記事として書いてしまうほど引きずっているではないか。なんてことだ。
まんまと作者に転がされたようなものだ。悔しいが、面白い。

しかし、やはり。これだけは言いたい。
いや、島の外出れたんかい!

ミステリー好きとしては、これを「騙された」「怪しいとは思っていたけどやっぱり」などと素直に受け入れ、楽しむべきなのだろうか。
だとしたら、私は相当プライドが高いのかもしれない。
自分の想像が至らなかっただけのことを、それはないだろうと頑なに認めない器の小ささである。
我ながら、笑ってしまう。

結局、クローズドサークルって何なんだ。解釈が難しすぎる。

密室殺人が起きて真相がわかったとき、当然のこと、密室ではなかったことが証明されるわけだが、そのとき私は悔しいという気持ちにはならない。
多分それは、密室だと認識しながらも、前提として本当は密室ではないと分かっているからだろう。

当の作品でも、もしかしたら、本当は島の外に出られると読み解ける描写があったのだろうか。
悔しい。本当に、悔しい。
何を必死になっているんだという話であるが、いま私は恥ずかしげもなく心の底から、推理力を高めたいと思っている。
もう二度とこの手の話には騙されない。
と言いたいところだが。
きっとまた騙されて盛大に悔しがっている自分が目に浮かぶ。
いやあ、ミステリー小説、面白い。

記事の中で何度悔しいと書いただろうか。
まったく、早く大人になってほしいものだ。

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