古十城一碑

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人魚の肉を食べた

数十年ほど前に人魚の青年が人間に殺された。 人間の使った刃物と共に夥しい数の彼の鱗と髪や表皮が漂って来たらしい。以来人魚たちはその浜に近づかないようにしていた。 しかし書物を持たない人魚たちは口伝えにそれを伝えたので、どの浜なのか正確なところがわからなくなり、全ての浜に上がることを控えるようになっていった。 なので無邪気な少女にすると、「その人間が恐ろしいだけで陸が全て忌むべきものではない」ことになり、あまり人間がうろついていなさそうな岩肌の海辺にこっそりと顔を出した。 「

    • 恋人が食生活を心配してごはんを作りに来てくれる話

      大好きだった彼女が死んだ。以来、私の口はまたしても味を感じることをやめてしまっている。  私の実家は共働きだったが、母だけが料理をしていた。母は非常にこだわりが強く、家族の誰も自分の管理するキッチンへ入れたがらなかった。そして週に一度だけ、大きな鍋に野菜も肉もぶつ切りに切って入れ、魚で出汁をとった熱湯で煮込んだ。それをタッパーに小分けして冷蔵庫へ入れており、家族はそれを随時加熱して食していた。いついかなる時であろうと、残すことも吐き戻すことも許されなかった。それが幼少の私に

      • ともに。

        草原のただなかにその男は一人立っていた。 細い枯れ木のような矮躯は今にも朽ちて斃れそうに見えたが、傍らに一頭の馬がおり、二人が睦まじく身を寄せるとしっかり一体の大木になったようにも見えた。私たちが一泊する場所を決めると、男はこちらに気付き快活に口を開いて大きく笑った。 「や 流浪の民か。一杯くれよ」 随分と馴れ合った態度だが 我々にとってこうした邂逅をもてなしで迎えることは常だった。当時少年だった私は力仕事を免ぜられ、仲間たちがテントを張る隙間で男を鞍に座らせ茶会をした。 「

        • 白い悪魔の願い

          あらすじ 「やあ。お兄さん 何か辛いことでもあったのかな」 声のした方を見上げれば、そこには白くて美しい 息を呑むような美少女がいた。 ふらふらと自殺しかけた主人公、彼を引き留めた彼女の声。 「死ぬ前に一度だけ、私に心を預けてみないか」と言われ、主人公はどうせなら……と彼女の手を取った。 イジメや家庭不和、会社の悩み 偽りや孤独ですり切れ疲れた人のところに、その白い影は現れ囁く 「私に心をくれるなら あなたの願いを叶えてあげるよ」 ”それ”の手を取った人々は 一体なに

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        人魚の肉を食べた

          恩返しのはなし

          魚心あれば水心とか申しますが、ご恩に報いたいと思うのは人も魚も変わらぬようでして 一席そのようなおはなしを。 むかしむかし。 在所のお堀近くの街にゴモチって男がいた。そいつは随分と不信心でやんちゃな輩で、人混みに紛れちゃスリをして、失敗して見つかりゃ喧嘩沙汰を起こした。警察のご厄介になったのも一度や二度じゃない。特に悪かったのは、大きな水害に見舞われた年のこと、街中水浸しの瓦礫まみれで大勢死人が出て、みんなして助け合わないことにゃどうもならん。それでもゴモチはその隙に不用

          恩返しのはなし

          無責任に好きでいて、別れのときに泣くだけさ。

          ポリアモリーっぽい恋愛観なんだよね、多分。佐藤さんを本当に好きなのも嘘じゃ無いんだよ、と彼は言った。 私は難しい言葉よくわからない、あんまり賢くないし、私の知らないことを教えてくれる彼をすなおに信じた。複数の人を同時に愛せる、そういうひとは身近に心当たりもあったし、だからなおさら。 疑うより信じたいにきまってる。好きなんだもの。 ピピピピピ、って電子音で意識を引き戻されて、スマホのアラームを止める。 午前5時。早すぎ、こんな時間にアラーム設定した記憶無いよ、って思ってから

          無責任に好きでいて、別れのときに泣くだけさ。

          放置中

          風呂場に居た虫を叩き潰して殺した。 自分は虫を絶対に触りたくないし何かを殺すのも嫌なはずで、そこそこ大きさを伴う物になればなるほど、殺したときしばらく手が震えて興奮状態に陥っているような自覚もある。でも風呂場は他の存在を許せない場所みたいで、殺すための道具もなくて、だから手で叩き潰した。それにぼくはどうしてか状況や暗示などでどうにでも自分の苦手をそうでもないことにしてしまえる傾向が幼い頃からあったから、この時もそうだったかも。 虫はいい塩梅に原型を留めたまま壁に張り付いて死ん