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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(17) 決別の儀式 レースの前に

第一話のスタート版
第三十九話 まとめ読み版①   (10)(11)(12)(13)(14)(15)(16

* *

 死に場所か。
 アラン・ガランの言うことは当たってるな、とレイターは思った。

 裏将軍のあの頃、とにかく俺は船で死にたかったからな。シートベルトもしなかった。小惑星に激突して死ねばフローラに会える。って、期待しながら飛ばしてた。

 バトルを生きて終えると俺は心底悲しかった。
「また、死にぞこなった」って。

壁ぎわ

 あれはギャラクシーフェニックスを解散する時だった

 俺は仲間のヘレンを助けるため、悪徳マフィアの事務所に宇宙船で突っ込んだ。本気で死ぬつもりだった。
 あの時、フローラが俺を呼んだ。
 爆発に巻き込まれて死の淵をさまよったのに、死ねなかった。

 あれからだな。どうせ、いつか死ぬんだ。慌てる必要もねぇって思ったのは。フローラはずっと俺を待っててくれる。

 けど、この間、ハールにメガマンモスのエンジンを積むってことを思いついた時、俺の心が久しぶりにゾクゾクした。

ピアノにやり

 アラン・ガランの言うとおりだ。

 死んでもいいや、って、確かに思ったな俺。
 いや、もうちょっと踏み込んだ。死ねたらいいや、死ねたらいいな、って。

 このS1は、ティリーさんと決別するための儀式だからな。

ティリーとエース デューガ色2

 ガキの頃から憧れてたS1で、火の玉になっておさらばする。理想的だ。
 このハールなら、加速すればいつでも死にたい時に死ねる。

 全知全能の『あの感覚』で無敗の貴公子を破る。
 燃えながらトップでゴールを切るイメージが、俺の中で固まっていく。ティリーさんのために祝福の花火を打ち上げてやるさ。

 フローラ、俺、あんたとの約束果たして『銀河一の操縦士』になったんだ。
 S1で優勝したら、もうそっちへ行っていいよな。

tハイスクール編

 フローラに会える。俺は楽しくなってきた。

* *


 ティリーはエースが操縦する小型機の助手席に座っていた。

 時々、エースはわたしを誘ってテストコースで船を飛ばす。
 エースは公道で法令違反をするわけにいかない。飛ばし屋のようにアステロイドで飛ばすことはしないのだ。

 ジェットコースターが好きなわたしのために、エースは小惑星帯コースを選択してくれる。
 上手い。安定感も抜群だ。でも、どこか物足りなさを感じた。レイターの飛ばしとは違う。一体何が違うのだろう。

横顔

 操縦席のエースがわたしに話しかけた。

「レイターの飛ばしと僕の飛ばしは違うかい?」

「違います」
 即答した。
「どう違う?」
 困った。全然違うのだけど口でうまく説明できない。
「エースの方が丁寧です」
「ありがとう」

 ふっと、フェニックス号の散らかったレイターの部屋が頭に浮かんだ。
「無敗の貴公子の操縦について、レイターと話したことがあります」

n14ティリー振り向き@少し口開くカラー逆

 大迫力の最新4DシステムでS1レースを見るのが楽しみだった。レイターは万年六位のチームスチュワートを応援していて、わたしは推しのエース一筋で、毎度口げんかしながらレースの感想を語り合った。

「ほう、何と?」
 エースが興味を持って聞く。

「レイターは言ってました。エースは強いけど速くない。S1は遅くても勝てばいいからって、ひどいですよね」 
 銀河最速のS1でコースレコードをたたき出しているエースのことを「遅い」と言われて腹を立て「レーシング免許もないくせに」と言い返したことを思い出す。

 ところがエースは納得したようにうなずいた。
「彼らしいな、的確な分析だ」
「的確ですか?」
「ああ。彼の言う通りだよ。S1はスピード記録を出すことより、ゆっくりでも相手に勝つことが求められるからね。速くなくてもいい」
 そういう意味だったのか。

「ティリーから見て、レイターの飛ばしが僕より優れているのはどんなところだい?」

 これは仕事だ。
 エースはレイターを攻略するヒントを知りたいと思っている。わたしは何度もレイターの船に乗ってバトルをした。

 レイターの飛ばしを思い浮かべる。興奮して胸がドキドキしてきた。

「本当にすごい時は、時が止まるんです」
「時が止まる?」       (18)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」