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銀河フェニックス物語<出会い編> 第五話(4/25) 今度はハイジャックですって?!

<第五話のあらすじ>ティリーは超豪華客船『カシオペア』に乗船し厄病神のレイターと出張先へと向かっていたのだが。毒物を手にした若者たちが客船をハイジャック。厄病神が発動した・・・。(1)~(3)

 マーク船長の話が続いていた。
「お客様の皆様におかれましては誠に申し訳ありませんが、中央船室にお集まりください。スタッフロボットも犯人の管理下に置かれております。犯人を刺激しないよう、ご協力よろしくお願いいたします」

 ハイジャック犯が入り口で大型のスプレー銃を構える中、中央船室に次々と人が集まってきた。
 見るからにお金持ち、という人がほとんどだ。子供連れの家族やドレスを着た女性、年輩のご夫婦・・・。こんな非常事態でも起きなくちゃこの人たちが中央船室に集まることはなかっただろうに。

 レイターがつぶやいた。
「身代金がたんまり取れそうだな」

n20レイター@

「あきれた。あなたってどうしてそうなの?」
 わたしはため息をついた。
「厄病神のせいだ」
 何度この人とこんな目に遭えば済むのだろう。今度はハイジャックだなんて。

「大丈夫さ」
 レイターののんきな言葉に余計に腹が立つ。
「何が大丈夫なのよ」
「カシオペアに乗ることは会社に伝えてある。このハイジャックのことはもうニュースで伝えてるだろうから、先方も打ち合わせに遅れても仕方がねぇってわかってくれるさ」
「そういう次元の話じゃないでしょうが。『反連邦スチューデント連盟』って一体何なの?」

「ほれ」
 レイターがシートの前のモニターを操作した。
 反連邦スチューデント連盟の犯行声明が載っていた。
『ソラ系を中心とする銀河連邦は地方からの搾取の上に成り立っている。連邦評議会の運営は純正地球人に牛耳られ、世襲という不自由なシステムが格差を産んでいる。この状況の打破を訴えてきた我々は新たな世界へ旅立つこととした』
 連邦評議会に反発している人は確かにいる。それにしても新たな世界へ旅立つってどういうことだろう。
 その時だった。

「レイター! レイターじゃないの」
 女性が近寄ってきた。ブルーの上質なドレスがよく似合う女性だった。三十代後半か四十代か。一目で富裕層だとわかる。

n120メルバ王妃

「マダム。お久しぶりです」
 レイターは立ち上がるとうやうやしく頭を下げた。
「ここであなたに会えるとは助かったわ。わたくしの警護をしてちょうだいな。お金はいくらでもはずむわ」

 彼女はレイターの手を握った。な、何なのこの人は。
 そりゃこの状況でレイターに警護を頼みたい気持ちはわかる。レイターはボディーガードとしては優秀だ。お金はいくらでもはずむ、って、まさかレイター、受けちゃうんじゃないでしょうね。

「マダム申し訳ございません。私は現在別の任務中ですのでマダムの警護をお受けすることはできません」
 驚いた。
 レイターが一人称を『俺』じゃなくて『私』で話している。わたしに対する態度と全然違う。
「こちらが?」
 マダムは不満げな顔でわたしの方をちらりと見た。
「ええ、私のクライアントです」
 マダムの目が切羽詰まっている。

「一億リル払うわ。今は五千万しか手元にないけれど星へ帰ったら成功報酬で残りを支払うからお願いできない?」
 一億リル! びっくりした。まずはその額に。
 それから、簡単にその額を口にできることに。
 そして、レイターの警護にそこまで信頼を置いていることに。

 生きて帰れるのなら一億リルはこのマダムにとっては安いのだ。レイターはどうするつもりだろう。
「申し訳ございませんが、お受けできません」
「そう、残念だわ。でも、できるだけあなたの近くにいることにするわ」
「御意」
 レイターは静かに頭を下げた。

* 

 マダムは通路を挟んですぐ隣の三等座席に腰掛けた。彼女に聞こえないよう小さな声で聞いた。
「ちょっとレイター、あの人誰なの?」
「あん? メルバ星系のルギーナ王妃だ」
「王妃?」
 わたしは目を見開いた。豪華客船ではあるけれど、そんな人が一人で乗ってるのに驚いた。
「お付きの人とかいないの?」
「あのマダムは皇宮警備泣かせで有名なんだ。どうせまた旦那と喧嘩して一人でぷらぷら旅してたんだろな」     (5)へ続く

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」