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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話 最終回 大きなネズミは小さなネズミ

アーサーをかばってケガをしたレイターは医務室で寝ていた。
銀河フェニックス物語 総目次
「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版
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 僕は艦長室へと呼ばれた。
 姿勢を正して中へ入るとアレック艦長の横にモリノ副長が立っていた。

 艦長の真面目な顔を見たのは久しぶりだ。普段は陽気だがこの人の怒った時の怖さは尋常じゃない。
 強い口調で僕をとがめた。
「アーサー、レイターを置いてこいと命令したはずだ。聞こえていたな」

アレック横顔前目叫ぶ逆

「ハイッ」
「命令違反にはしかるべき罰が必要だ」
「ハイッ」
 理由はどうであれ上官の命令を無視したのだ。懲罰房だろうと何だろうと、甘んじて受ける。僕の中に後悔はない。

「トライムス少尉に命じる。あいつの、レイター・フェニックスの教育係をしろ」
「は?」

少年横顔 驚く

 間の抜けた声を出してしまった。
「返事はどうした、トライムス少尉」
「は、はい」

 アレック艦長が大きな口をにやりとさせた。
「四年後、地球に戻った時にハイスクールに入れる程度に勉強をみてやれ。家庭教師という奴だ。天才のお前だ、苦労はせんだろう。勤務時間にカウントしてやる」
 納得はしていない。懲罰房のほうがマシな気がする。だが、そんなことは口に出せない。これは上官の命令だ。僕に拒否権はない。

「わかりました」
「ただし、情を移すな。あいつは死人扱いだ。邪魔になればいつでも切る」
 艦長はレイターの住民登録を修正しないつもりだ。『緋の回状』のことを知っているのか? それとも、ただ面倒なだけなのか。この人の思考は本当に読みづらい。
「下がってよし」

* *

 上官に具申するのはためらわれたが、モリノ副長はアレック艦長に聞かずにいられなかった。
「レイターをこのまま連れて行って、大丈夫でしょうか?」

モリノ前目一文字

 戦闘機乗りのモリノは「銀河一の操縦士になりたい」というレイターをきちんと育ててやりたいと考えていた。レイターをどこかの星系で下ろして施設に預けるのが正しい対応だ。このふねは戦地へ向かっているのだ。生きて帰れる保証はない。

 心配性のモリノの意見を艦長のアレックは普段は重視している。だが、この件に迷いはなかった。
「アーサーのためだ」 
 モリノは思わず聞き返した。
「レイターではなくアーサーの?」

「俺はアーサーのことを生まれる前から知っている」
 アレックは長く将軍家付きの秘書官を務めていた。

 アーサーの母親は高知能民族のインタレス人だ。
 銀河系から離れたインタレス星は十五年前、星としての寿命を終え、高度な文明を誇った十八番惑星はホモ・サピエンスを含むすべての生物が滅亡した。その救出活動にあたったのが当時のジャック・トライムス次期将軍とアレック首席秘書官だった。
 救えたのはたった一人。ジャックは周りの猛反対を押し切ってそのインタレス人の女性と結婚した。世間では世紀のラブロマンスと騒がれた。

 モリノはアーサーが産まれた時の事を思い出した。
 十二年前、将軍家の跡取り誕生のニュースは銀河連邦中で伝えられ、基地では祝砲を鳴らした。

 妃はアーサーともう一人女の子を出産すると若くして亡くなった。
 将軍家の子どもがインタレス人最後の末裔であり天才的な頭脳の持ち主であることは銀河連邦に住む者にとっては常識だ。

少年アーサーとジャック

「アーサーは五歳の時には全ての星系の言語を自由に操り、高次方程式も解けた。あいつは天才だ。一度見たものは忘れない。何でもすぐに理解する。だが、一般人のことだけがよくわからない。同年代の友人もいない。上に立つために、勉強させるいい機会だ。実の親である将軍も、扱いに困って俺に押し付けたぐらいだからな」
 そう言ってアレック艦長はカラカラと笑った。

* *

 レイターの傷はすぐによくなり、僕の部屋へと戻ってきた。
「天才坊ちゃん、これからもよろしく頼むぜ」

 簡易ギプスも取れ、食堂でのアルバイトに復帰すると、次の射撃訓練で彼は本気を出した。

12レイター振り向きにやりカラー@

「おい、レイター凄いじゃないか命中率九十パーセントだぞ。この間、撃たれてどうかしたのか?」
 驚くアレック艦長に、彼はうれしそうに笑顔を見せた。
「えへへ。コツつかんだみたい」

 レイターの作戦にみんなが騙されている。彼が僕の方を見てにやりと笑った。目で「二人の約束を忘れるな」と言っている。

 僕は何も知らない振りをしてその場を立ち去った。               (おしまい)  第二話「家庭教師は天才少年」へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」