銀河フェニックス物語<出会い編> 第九話(5) 風の設計士団って何者よ?
<第九話のあらすじ>
レイターと設計士のチャムールは宇宙船を防護するシールドについて一晩中検討を続けた。レイターはチャムールに『風の設計士団』に入るには体力をつけろとアドバイスした。(1)~(4)
マザーがいれたモーニングコーヒーは相変わらずおいしい。一緒に出された甘いマフィンとよくあう。
チョコレートマフィンを口にほおばりながらレイターがチャムールに話しかけた。
「俺は『グラード』っていい船だと思うぜ」
「えっ?」
チャムールが真意を探るような目でレイターを見つめた。
「お世辞とかじゃねぇよ。ほんとにいいと思ったからスチュワートにも勧めたんだ」
レイターが「いい船だけど売れてねぇ」と言ってスチュワートさんに買わせたことを思い出した。
「あの船は居住空間性もいいけど、飛ばしもいい。絶妙のバランスで両立してる。あんた才能あるよ」
銀河一の操縦士に褒められて、チャムールは少しだけうれしそうな表情を見せた。
「グラードはわたしの自信作です。でも、いくらいいものを作っても売れなければ会社では評価されない」
そう言って深いため息をついた。
学生時代からその才能が認められていたチャムールは、大学や他社との争奪戦の末にクロノスに入社したという経緯がある。
そして、入社後すぐに新型船の設計責任者に抜擢された。その一隻目であるグラードは社内の注目度が高かった。
期待を集めた一方でやっかみも多かった。
若い女性の起用は話題作りだと。
だから、グラードの売り上げが伸び悩むと、手のひらを返したようにチャムールへの風当たりは強くなった。
わたしはチャムールに同情した。
「社内でいろいろ言う人がいるから、辞めたくなる気持ちはわかるけど・・・」
チャムールは小さく首を横に振った。
「ううん。会社のことはいいの。チャンスを与えてもらってクロノスには感謝しているわ」
チャムールはわたしの目を見て続けた。
「グラードの売れ行きは良くないけれど、実際に買って下さったユーザーの反応は悪くないのよ。だから私、大量生産の設計に向いてないんじゃないかと思って・・・。注文設計なら独立系の設計士という道があるし、それなら最高峰である風の設計士団を目指したらどうだろうかって」
わたしは、会社の対応が嫌で転職を考えたのだろう、って随分レベルの低いことを想像したと恥ずかしくなった。
「いや、あの船は売れる、月間一位だって取れる船だ。だけどプロモートや販売方法がが最低。だから売れねぇんだ」
レイターの言葉にむっとした。
「どういうこと?」
プロモートや販売方法ってわたしたち営業が悪いって言っているように聞こえる。
「あの船の良さは長距離を実際操縦しねぇとわかんねぇんだよ。あんな金かけたCM作るぐらいなら、取引先とかに一ヶ月無料でお貸しします、出張の際お使いください、って配って歩けば良かったんだ」
レイターの言うことはもっともだ。
船内の内覧会は各地でやったけれど、試乗は短距離しかやっていない。
「どうしてもっと早く言ってくれないのよ」
「そんなの知るかよ。俺の仕事じゃねぇ。あんたの仕事だろが」
「・・・・・・」
わたしは返す言葉が無かった。
*
朝食を終えると
「う~ん」
数式を書いた紙を手にレイターがうなった。
「あと五時間かけて計算するのめんどくさくなってきたなあ」
「マザーで計算できないの?」
コンピューターで計算した方が手計算より速いはず。
「排除の条件を入力するのが面倒なんだよな。しょうがねぇ奥の手使うか」
「奥の手?」
レイターは数式をコンピューターに読み込ませると、どこかへデータを転送した。そして、通信回線を開いた。
「おい、アーサー。メール開けろ」
モニターに現れたのは将軍家の御曹司で天才軍師のアーサー・トライムスさんだった。
「こちらは午前四時だぞ。何かあったのか?」
叩き起こされた、アーサーさんは不機嫌そうな顔をしていた。 (6)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」