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銀河フェニックス物語 <恋愛編>ジョーカーは切られた(25)

敗北を認めたはずのジャイアントが背後からレイターに襲い掛かった。
銀河フェニックス物語 総目次 
<恋愛編>「ジョーカーは切られた」まとめ読み版①  

 ジムが叫んだ時には、ジャイアントが後ろから羽交い締めにしてレイターの首を絞めていた。
「悪いが、簡単に百億をあきらめるわけにはいかないぜ」
 馬鹿力だというジャイアント、手加減というものを知らない。

 まずい、このままじゃレイターが殺されてしまう。僕は拡声通信機のスイッチを入れた。
「ジャイアント、手を放したまえ」

マーシー横顔前目やや口怒り

 こちらは警察だ。と、名乗ろうとしたその時、
「う、うわあああぁぁぁぁぁ」
 ジャイアントの叫び声が聞こえ、レイターから身体を離した。

 一体何が起こったんだ? 画面を注視する。
「さっき言ったろ、俺は目が見えねぇから間違って切っても文句言うなって」
 レイターのレーザーナイフがジャイアントの呼吸用供給チューブを切り裂いていた。酸素が一気に漏れていく。

「バカな。レーザーナイフで呼吸用チューブが切れるわけがない」
 僕は信じられなかった。呼吸系システムはレーザー銃で撃っても貫通しない強度のはずだ。
「刑事さん、ブレイドはいつも切ってましたッスよ。角度と速度と何かがそろえば、レーザーナイフで切れないものないっつって。レイターもできるようになったんだ。かっけぇ」

 ブレイド、思い出した。ダグの用心棒だ。

「た、助けてくれぇ」
 ジャイアントの声が恐怖に震えていた。
「ったく、助かっただろが、切ったのが首じゃなくて」
 ジャイアントの手下があわてて酸素ボンベを抱えて飛んでいく。

「す、すみません、お許しください。ギャラクシー連合会に入ります」
 ジャイアントの巨体が空気の抜けた風船のように小さく見える。
「もう一つ、約束しろ」 
「は、はい」
「俺のこと、二度とチビって呼ぶな。わかったな」
 

 レイターが船に戻ってきた。
「レイターは、やっぱすごいッスよ」

ジム 横顔笑顔逆

 ジムが賞賛の声で迎えた。

 レイターの足取りがふらついていた。
「大丈夫かい?」
「ふぅぅ。お袋さん、少し重力軽くしてくれ」
 身体がふわっと浮き上がるような感覚に包まれる。

 レイターは大きく息を吐きながら崩れ落ちるようにソファーへ座り込んだ。疲れているのが一目でわかる。相当な集中力を使ったのだろう。

「すまなかった」
 僕は謝った。
「あん?」

殴られ@宇宙服やや口

「僕は君のナイフの前にひるんだ。君に信頼されないはずだ」
「よくわかんねぇな、あんたって。武器の前にひるまない奴は馬鹿だぜ。俺、警察サツの言うことは聞かねぇとは言ったが、あんたを信頼してねぇって言った覚えもねぇんだけど」

 その時、僕は気が付いた。僕はナイフにひるんだのではない。レイターに対してひるんだことに。

 ジムが眉間にしわを寄せながら言った。
「Nポイントから船が集まってきてるッス」
「お袋さん、識別信号を」
 機械音が船内に流れ出した。

 レイターは腕につけていた通信機のスイッチを入れた。
 目つきの悪い男の姿が浮き上がる。逆立った髪に、鋲のついた服。見るからに武闘派の暴走族だ。まずい、レイターがこの状態では戦えない。

「アギか?」
 レイターに名前を呼ばれた男は直立不動で最敬礼した。
「はっ、ギャラクシー連合会特攻隊長アギです。裏将軍。アレグロ総長の命で馳せ参じました」
 ギャラクシー連合会、つまりレイターにとって味方の船ということだ。

「勅令を出す。『ジャイアント』を傘下に入れたら、締め付けを厳しくしろ。鉄槌だ。この船がデリポリスに着くまで雑魚を一匹たりとも近づかせるな!」
 有無を言わせぬカリスマ性のある声。
「御意!」
 このレイターのどこが普通の社会人なのか。完全に裏将軍じゃないか。

「お袋さん、しばらく自動操縦で頼む。これで多少落ち着くはずだ。緊急時まで音声切ってくれ」

うつぶせレーシング紺

 それだけ言うと彼はゆっくりと目を閉じてソファーに寝転がった。

* *

 パリス警部の元に銀河警察から連絡が入った。
「ギャラクシー連合会から『裏将軍勅令』が出ました」

 わたしは『裏将軍』という聞きなれた言葉にハッとしながら、やり取りを聞いていた。

「裏将軍勅令だと。内容は?」

パリス警部口を開く逆

「『フェニックス号の進路を阻むもの全てに鉄槌を』となっています。また、裏将軍本人による直制裁で大規模暴走族のジャイアントがギャラクシー連合会の傘下に入ったと付記されています」      (26)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」