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銀河フェニックス物語<出会い編> 第十三話(1) 人生にトラブルはつきものだけど

第一話のスタート版
第十二話「恋バナが咲き乱れる頃に」
第一話から連載をまとめたマガジン 
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 研究所のジョン先輩が真っ青な顔をしていた。
「ティリーさん、リコールが決まったよ」

n50プーあわてる

「えっ?」
 わたしは驚いて思わず立ち上がった。

 小型船『ザガ』のブレーキに不具合が見つかった、とは聞いていたのだけれど・・・。
「でも、ブレーキの効きが悪くなるのは法定速度を超える高速で、右側だけ噴射を連続するような危険操縦を繰り返しているときだけで、乗り方の問題って判断になったんじゃないんですか?」

 きのうの会議で報告された時はユーザー側に問題がある、という話だった。

「そうなんだけどさ。いかんせん問題の部分がブレーキだし、お客様ファーストってことでエース専務がリコール対象とすることを決めたんだ。ロン星系で先行販売した分が全て対象だ」

 ショックだ。
 『ザガ』には思い入れがある。


 ザガのCMにはロン星系出身の女性ミュージシャン、ザガート・リンが起用された。

n180ザガート

 ザガートはクールでかっこよくって、わたしは学生時代からよく聞いていた。
 その雰囲気が船のイメージにあって爆発的に売れたのだ。

 三か月ほど前のことだった。
 若い世代を対象にした、ちょっと尖った感じの新型船が社内発表された。

 まだ、名前も決まっていない試作段階。
 外装も内装もデザインが凝っていて、わたしが見てもかっこいいと思う船だった。

 船を見ながら同期のベルと、
「この船、ザガート聞きながら乗りたい感じじゃない?」とおしゃべりしていた。
 それを、横で聞いていたフレッド先輩が
「ふむ。それはなかなかいいアイデアだね」とつぶやいた。

n75フレッド逆

 その翌日には、フレッド先輩はザガート・リンをイメージキャラクターとして起用する企画書を提出したらしい。
 翌週には幹部会議を通り、気がつけば船の名前はザガートから取った『ザガ』に決定していた。

 フレッド先輩から何の話も聞いていなかったわたしとベルはびっくりして顔を見合わせた。

 その後、フレッド先輩が中心となってザガートプロジェクトが動き始めた。


 ザガートの新曲『スタンドアローン』とコラボした。
「一人で立ってる、一人で待ってる、一人で生きてる、さあ、一人でさようなら」
 ザガを操縦しながらアップテンポの曲を歌うザガートの超かっこいいプロモーションビデオ。CMらしさがまるでない。

『スタンドアローン』の再生ランキングが一位を取ったところで、ザガート・リンの地元であるロン星系でザガの先行予約を開始した。
 あっと言う間に予約受付台数を突破した。

 ザガに乗ってデートをすると二人はうまくいく、というわたしたちに好都合の噂が流れた。(フレッド先輩が仕込んだという説もある)

 発売開始がうまく行けば、他の星系もつられるように売れていく。
 そしてフレッド先輩は営業部長賞を獲得した。

 わたしとベルは何だか狐につままれたようだった。
 もともとはわたしたちのアイデアなのだ。

s12ティリーとベルむ

 フレッド先輩はわたしたちのことを上司にも誰にも話さず、わたしとベルはプロジェクトのメンバーに入れてもらえなかった。

 アイデアに著作権はないそうだ。 

 ベルは「私たちに主導権を握られるのをフレッド先輩が嫌がったに違いない」と憤慨し、「あれは元々私たちのアイデアだ」と友人たちに言い触らした。

 その努力の成果かどうかはわからないけれど、わたしは一度だけフレッド先輩と一緒にロン星系にあるザガートの事務所へ出かけた。

 もしかしてザガートに会えるかも、と期待した。
 けれど、世の中はそんなに甘くない。
 マネージャーと撮影のスケジュールを調整して帰ってきた。

 ザガート本人が登場したスタンドアローンのPV収録には、フレッド先輩が立ち会い、わたしは呼ばれもしなかった。

 いずれにせよ、ザガートの起用を形にしたのはフレッド先輩だ。
 会社の売り上げに貢献したのだから、よしとしよう、と思っていた矢先のリコールだった。     (2)へ続く

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」