銀河フェニックス物語<裏将軍編>第一話(3) 涙と風の交差点
・銀河フェニックス物語 総目次
・<ハイスクール編>「花は咲き、花は散る」(1) ・<裏将軍編>第一話「涙と風の交差点」(1) (2)
将軍家侍従頭のバブは心配していた。
このところレイターの帰りが日に日に遅くなっている。
作って置いた夕飯はきちんと食べてあるし、洗濯物の作業着が油にまみれているから、夜遊びではなく工場でのバイトというのは嘘ではないのだろう。
それにしても、最近はほとんど明け方に帰ってくる。一体いつ寝ているのか。
* *
レイターは授業中、オレの隣でこれまで以上に寝ていた。
完全に熟睡している。
「レイター・フェニックス。この問題を解きなさい!」
あまりにあからさまに寝ているから、教師がたまに怒ってあてるが、レイターは「もう一度質問を教えてください」と聞いて正答した。
レイターはテストの点はよくないが、授業でやってることのほとんどをわかっている。
オレは休み時間も眠り続けるレイターを見て心配になった。
「おい、レイター大丈夫か?」
「あん?」
「顔色よくないぞ。体調悪いんじゃないのか?」
「ああ、きょうは朝までバイトでほとんど寝てねぇんだ」
「おまえ、いつから夜のバイトやってんだよ」
俺はからかうように言った。
「今は、女と寝るより船と寝てたい気分なんだ」
レイターの言葉からフローラが感じられた。
銀河一の操縦士になる。
あいつは船に触りながらフローラとの約束を果たそうとしてるのかも知れない。
しかし、あの爺さんのもとで徹夜だなんて、相当こき使われたに違いない。
「勤労少年もいいけど、体こわすなよ」
「ああ、サンキュー」
レイターはオレの顔を見た。
「ロッキー、俺、学校やめるかも知れねぇ」
それだけ言うとまた机に突っ伏して居眠りを始めた。学校をやめる、と聞いても俺は思ったより平静だった。オレは知っている。今のレイターにとって学校は何の興味もない場所だということを。
* *
月の御屋敷でアーサーは父であるジャック将軍に呼ばれた。
「おまえ、どう思う?」
父上から意見を求められた。レイターが学校をやめ、この家を出て住み込みで働きたいと言ったことだ。
あいつは学校とアルバイト。ほとんど昼夜逆転した二重生活を送り続けていた。そろそろ限界なのだろう。私たちと顔を合わせることもほとんどない。
「レイターにとって、ハイスクールの生活は船の免許が交付される十八歳になるまでの繋ぎでしかありません。学校で学ぶものはほとんど皇宮警備でおさめていますから。中途退学によって、学歴はともかく学力的な問題はないでしょうね」
「わしも、後で気付いたが、あいつはハイスクールじゃなく大学へ入れてやれば良かったかもしれん」
それがレイターのために良かったのかどうかわからない。少なくともレイターはハイスクール生活を楽しんでいた。ただ、もう我慢ができなくなったということだ。授業で時間を浪費していることに。
そして、もう一つ。
レイターにとって、この家にいるのは辛いのだろう。あいつが愛したフローラはもういない。ここにあるのは思い出だけだ。
父上もそのことをわかっている。
宇宙船の修理工場で働いていると言った。どんな仕事をしているのか詳しくは知らないが、あいつは船に触っているだけで幸せだ。傷ついた心を癒す場所として惹かれていくのはわかる気がした。
父上は静かに言った。
「あいつのしたいようにさせてやろうと思う」
「それがいいんじゃないでしょうか」
私も賛同した。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」