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銀河フェニックス物語<裏将軍編>第一話(2) 涙と風の交差点

銀河フェニックス物語 総目次
<ハイスクール編>「花は咲き、花は散る」(1) 
<出会い編>第三十九話「決別の儀式」① 
・<裏将軍編>第一話「涙と風の交差点」(1)

 オレとレイターは爺さんの後ろについていった。奥には部屋いっぱいに不釣り合いなぐらい立派なシミュレーターが置いてあった。
「これで操縦して見ろ」
「了解」
 レイターがシミュレーターに乗り込んだ。あいつはゲーセンで宇宙船レースのゲームをやると誰よりも強い。操縦はお手のもんだ。

 爺さんが嫌がらせのようにシミュレーターのモードを次々と変えていく。が、レイターは平気な顔で即座に対応している。
「ふむ。操縦できるというのはウソじゃないようじゃな」

老師前目逆

「嘘じゃねぇよ。俺は大型船だって動かせる。限定解除も筆記は通ってんだ」

 爺さんは値踏みをするようにレイターをじっと見た。

「わかった、採用しよう。わしはアレドラウシだ」
「ア、アレドラウシ!? まじ、本人かよ」
 レイターは興奮しているが、アレドラウシって一体誰だ?
「じいさん八十五歳か」
「よくわかったな」
 オレはレイターに聞いた。
「この爺さん、何者なんだよ?」
「伝説の宇宙船設計士の『老師』らしいぞ」
 オレには全然ピンと来ない。

「ロッキーおまえはどうする?」
「オレも暇だからバイトしよっかな」

 そんなわけで、オレたちは爺さんのもとで働くことになった。
 帰り道、レイターがオレに礼を言った。
「ロッキー、ありがとよ」

16振り向き後ろ目にやり逆

 久しぶりにレイターの明るい顔を見た。オレはそれがうれしかった。


 翌日、学校が終わるとレイターと二人で組立小屋に向かった。が、そこに小屋は無かった。
「引っ越しちまったのか?」
 オレはちょっとあきれた。レイターが地面にしゃがみこんだ。何か書いてある。
「また銀河座標か?」
「違う。これは船の型番だ。きのうこいつが捨ててあったのを見たぞ」
 そう言ってレイターはスクラップ場の東へと歩き出した。
「これだ」
 大型宇宙船の前でレイターは足を止めた。塗装が剥げてくず鉄にしか見えない船にエネルギーが通っていた。インターホンが生きている。
「レイターだけど」
「よく来たな。開いている。入ってこい」
 爺さんの声がした。

 仕事は結構大変だった。
 大型船のエンジンをレイターと二人でおろす。爺さんは横で茶を飲みながら見ている。
 ねじを一つずつ手ではずしてクレーンで持ち上げる。
 レイターはクレーンも上手に操作した。きっとゲーセンでクレーンゲームやっているおかげだ。
 爺さんは人使いが荒い。三時間働いたらへとへとになった。これで、時給五百リルは安すぎる。

 募集のチラシには修理工場と書いてあったが工場なんてない。毎日、行く先が変わった。
 前日の現場にヒントの数字や文字が書かれていた。それをレイターが解いて現場へ向かう。時折、レイターは数字を見て頭を抱えていた。

レイターとロッキー頭抱える

 相当難問なんだろう、オレにはちんぷんかんぷんだ。

 現場に着くと爺さんに言われた通りに船を解体していく。作業している間、レイターの顔に表情が戻っている。それを見られるのはうれしい。

 けど、オレは一週間も通ったら飽きちまった。っていうか、ここはブラック職場だ。オレは爺さんにしょっちゅう怒鳴られた。偏屈な爺さんは言ってることをすぐに変える。間違うのはそのせいだ。オレのせいじゃない。なのに間違うとバイト代から差っ引かれた。
 レイターは理不尽な仕打ちにも文句ひとつ言わず、黙々と手を動かしていた。


 その日、レイターと学校を出ようとしたところでオレは数学の教師に呼びとめられた。テストでヤバい点を取っていた。
 レイターが先に行ってるぞ、と言ってバイト先へ向かった。

 教師にこってり絞られ課題を出されたオレは、あいつを追っかけてスクラップ場へ行ったが、例の数字の問題が全然わからなかった。しかも通信機の電波状態が悪くて連絡も取れない。

 オレは一人家に帰った。
 教師に出された数学の課題にとりかかりながら、バイト先へたどり着けなくてほっとしている自分に気がついた。

 翌日、教室でレイターがオレに謝った。
「きのうは悪かったな。あんたスクラップ場まで来たんだろ」
 オレは正直に言った。
「それはいいんだけどさ。オレ、バイトやめよかなって思って」

n210少年ロッキー前目やや口逆2

 爺さんの相手に疲れたし、レイターがいないと現場に行けないようじゃ仕事にならない。
「そっか」
 レイターも薄々感じていたようだ。オレを引き留めようとはしなかった。
「ロッキー、俺はあんたに感謝してる。このバイト見つけてくれて。何だかやっと体が動き出した」    (3)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」