銀河フェニックス物語<出会い編> 第十三話(2) 人生にトラブルはつきものだけど
部長とフレッド先輩に呼ばれた。
フレッド先輩が眉間にしわを寄せながらわたしに話しかけた。
「ティリー君、君に頼みたいことがある。今回のリコール問題で僕は本社を離れることができない。そこで、ザガートの事務所へ行って、説明と謝罪をしてきて欲しいんだ。君はこのアイデアの発案者だしザガートのマネージャーと会ったこともあるから適任だ。ただ、下手をしたら裁判沙汰になるから気をつけて欲しい」
嫌な仕事だ、反射的に思った。
こういう時に、突然、発案者だって言われるのも不快だった。
リコールされた船のイメージが芸能人にとってプラスなはずがない。何らかの賠償を求められるかも知れないということだ。
「君にしか頼めないんだよ」
信頼されているようにも聞こえるけれど、実のところフレッド先輩が行きたくないのだろうと察せられた。
とにかく相手がどの程度怒るか、感触をつかんでこいということだ。
「急いであたってくれ。表に出る前に一刻も早く報告に上がったと誠意を示すことが大事なんだ」
部長に言われては仕方がない。
「はい」
仕事なのだ。文句は言えない。でも、理不尽な気がした。
*
ロン星系のザガートの事務所に連絡を入れた。
「重要なお話がございます。説明に上がりますので、お時間いただけますでしょうか」
明日の十三時なら時間が取れるという。
船を予約しようと急いで社内の配船室へ連絡を入れた。
「明日の昼到着でロン星へ出かけたいんですが」
「フェニックス号が空いとるぞ」
配船係のメルネさんがモニターの向こうでニヤリと笑った。
「他の船をお願いします」
このリコールの処理で船が一斉に動き出しているのだろう。
リコール処理に『厄病神』の船で行きたい人はいない。おそらくみんなが同じことを考えて避けている。
だからレイターの船が空いているのだ。
「ロン星系はこのところ入船が厳しいでなあ。今すぐ出るというなら何とかなるが」
「今すぐは無理です。一時間、いえ三十分待ってください」
まだ何の準備もできていない。
「じゃ、レイターの船ということで決まりじゃ。まあ、フェニックス号なら明日の朝出ても間に合うから大丈夫だ。はっはっは」
メルネさんは愉快そうに笑った。
『厄病神』だからと言ってフェニックス号を遊ばせておくわけにはいかない。メルネさんの仕事としてはうまくいったということだ。
ため息が出た。
気を取り直そう。
*
隣のデスクでベルが慌てていた。
ベルもロン星系の大手企業にザガを売り込んでいたのだ。小声でわたしに話しかけてきた。
「ティリー、聞いたわよ。フレッド先輩に嫌な仕事押しつけられたんだって」
ベルの言うとおりだけれど、一応先輩のことを悪く言うのははばかられた。
「今回の件じゃ楽しい仕事はないわよ」
「まあそうね。わたしも謝罪行脚よ。で、ティリーはロン星系にいつ行くの?」
「明日のお昼にアポイントが取れたわ」
ベルが驚いた顔をした。
「え? じゃあ何をのんびりしてるの? わたし、明日の夕方のアポだけど、すぐ出発しないと間に合わないって言われたよ。今週はロン星系は感謝祭で渋滞してて入るのが大変なんだって」
嫌な予感がしてきた。
「メルネさんはフェニックス号なら明日の朝出れば間に合うって言ってたけど・・・」
「ひぇええ、フェニックス号『厄病神』じゃん。気をつけなよ。これで遅刻したら、心象さらに悪くなるよ」
ベルの忠告でさらに気が重くなった。
* *
「どぉして、ティリーさんが一緒なんだよ!」
レイターがモニターに向かって怒鳴っていた。
連邦軍特命諜報部のアーサーは涼しい顔で答えた。
「運命の赤い糸じゃないのか?」
「てめぇ、絞め殺すぞ」
「冗談だ」 (3)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」