賢い洋服の買物をする条件 〜モノ編〜

皆さんは買物をする時に頭を悩ませる。

「この洋服を本当に買っていいのか?」

洋服に対して大事な資産を投資する訳で、その悩みは当然だ。投資額に見合った満足度や実用性、利便性、ステータスなど求める価値観は様々ある。投資する洋服に対して求める価値観は1つでは無いだろう。人間は欲張りなので、損はしたくない。限りなく少ない投資額で多くのリターンを求める。それは当然の事だ。

価格(投資額)は需要と供給で決まる。つまり買い手が多く品薄な物の価格は本来の価値以上の値段が付く場合があるのはマーケットの原則だ。つまり、トレンドやステータスを満たす物は価格が高く、一方で多くの人が欲しがらない物は価格が下がる。

それなら一体どうすれば良いのか?
まずは、自分の満たしたい価値観を定めるべきだ。

賢い洋服の買い物をする条件 ~場所編~|H #note https://note.com/4839ht/n/n6947754bfd3b


ステータスを満たしたい場合

これは非常に難しい。
ステータス=憧れ=欲しい人が多い=需要が高い為価格が高い
と言った事になる。

更に本当に高いステータスの物は供給が限定される為に更に価値が上がる。エルメスのバーキンやケリー、ロレックスのスポーツモデル等が典型だろう。

これらに至っては正規販売店で定価で買えたらラッキーと言ったレベルで、転売目的の輩が買い占める為、市場で定価以上の価格で取引されることが当たり前になりつつある。

株の売買と同じで、本質的に価値が高いものもあれば、一時的な過熱の物もある。エルメスやロレックスは一時的な過熱と言ったものでは無いだろう。価値が高いものとしての信用は積み上がっていると言っていい。つまり株の暴落の様に一気に価値が下がるリスクは低い。自己資本比率が高く、有利子負債が少なく、事業の将来性、成長性、持続性の高い優良企業株のような物だ。

一方でベンチャー株のような物もある。急成長しマーケットの認知も高いが、一時的な加熱のリスクがある。つまりトレンドが一気に広まったブランド等だ。また、歴史があり、それなりに積み上げてきた信用があるブランドが一時的に過熱して、時が経つと見向きもされなくなるケースもある。

急上昇し、急落するのは昨今のアウターで良く見受けられる。
ダウンジャケットであれば、MONCLERからCANADA GOOSEへ移り変わり、今は次を狙うブランドが争っている。

少し前のピークはBarbourやノース・フェイス。今もこぞってセレクトショップが仕入れ、別注を掛けているが、間もなく下がって来るだろう。

これらはエルメスやロレックスのレベルには達しておらず、それなりのステータスはキープするが、時代によっては陳腐化する。

ナイキやアディダスのプレミアスニーカーも乱高下する典型で、定価の何倍もする価格で取引されているが、陳腐化する物も沢山ある。

つまり、永続的なステータスを叶えるものは、お得に買えるやような機会はほとんど無い。値下げする必要が無いからだ。
そして、一時的なステータスを満たす物はイコール高値掴みするという事なので、投機的な考えでそれも賢くない。

最も賢い選択は当たり前に販売され続ける定番で、いつか脚光を浴びるような物を地道に買い集める事だ。株の見定めと先行投資に近い。

Barbourをいくつか所有しているが、購入したのは十数年前だ。当時もセレクトショップが好きな層には人気だったが、女性からすると見向きもされないものだったが、数年前に一躍トレンドとなって、着るのが少し気恥ずかしくなった。ただ見る人から見れば、価値が跳ね上がる前に先行投資したように映るだろう。

クロムハーツなどもそうかもしれない。クロムハーツはかなりの量を所有しているが、これらも最初に手に入れたのは20年以上前になる。90年代に流行し、一旦は落ち着き一部の愛好者には支持され続けるが、しばらく支持は拡がらなかった。
時は経ち、K-POPやLDHのアーティストなど若者が好むスター達が身につけ、一躍幅広い層に対してステータスを持つブランドへと変化した。そして着けるのが少し気恥ずかしくなった。

Barbourが流行るならBelstaffが流行ってもいいはずだが、一向に注目されない。だが急に価値が跳ね上がるかもしれない。それは仕掛けをするファッション関係者以外は知る由もない事だ。

当たり前に販売され続ける自分の好きな定番を安くで買おう。いつかはトレンドで回ってくる。投機ではなく先行投資だ。回ってこなくても自分が好きな定番なら扱いは困らないのだから。


実用性を満たしたい場合

実用性とは色々な視点があると思うが、機能性や耐久性などを指す場合もあれば、コーディネートしやすい、着用期間が長いなどもある。

機能性や耐久性などの実用性を満たしたい場合は、専門ブランドが間違いない。アウトドア機能はアウトドアブランドが長けているものだ。だが、昨今ファストファッションの機能性に掛ける想いは半端ではなく、ユニクロを始め、専門ブランド顔負けの機能を持つ物も多い。

機能性を満たす物を賢く買うならファストファッションで間違いない。ワークマンの躍進もあり、尚更そう言える。

面倒なニーズは「コーディネートしやすい」「着用期間が長い」と言うものだ。

アパレルで長く従事していると、嫌というほどお客様から問い合わせを受ける。

「何にでも合わせれる物はありますか?」
「オールシーズン着れる物はありますか?」

正直、厳密に言うとそんなものは存在しない。欲張りすぎる欲求だ。

何にでも合わせれる物など無い

先に挙げた通り、そんなものは厳密に言うと無い。例えば真っ白のシャツ。何にでも合わせれるとよく言われるアイテムの1つだが、白いシャツでも様々な種類があり、なんにでも合うわけではない。

ブルックスブラザースのオックスフォードのボタンダウンならアメトラ、アメカジだし、コムデギャルソンのポプリンレギュラーカラーならモードな雰囲気だし、白シャツでもそれぞれテイストがあり、厳密にいうとそれぞれテイストがあり、合わせるものは決まってくる。

ただそれは「厳密に言うと」だ。

すべての洋服に合わせるものが決まっているとしたらファッションは本当につまらないものになってしまう。そのため、遊び心や「ハズシ」と呼ばれるテクニックが存在し「本来合わせるべきでないものをあえて合わせて楽しむ」という考え方がある。

それらの考えをひっくるめて「なんにでも合う」ようにしてしまうことは可能かもしれない。

例えばリーバイス501だ。

ジーンズはアメリカの労働着であることは説明するまでもないが、ストレートに合わせるのであればアメカジテイストのチェックシャツやそれこそブルックスブラザースのボタンダウンなどをコーディネートすることになるが、今やもう何でもありでコーディネートしていることは明白で、対極の位置にあるタキシードジャケットに労働着であるジーンズを合わせて意外性を楽しむコーディネートがすでに陳腐化するほど、ジーンズは汎用性が高い。

ただなんでもチグハグにすれば成立するのかといわれるとそうでもない。非常に難しいのだが、個人的には「ハズシ」は説明しなくても伝わるわかりやすさが必要だと思っている。

お笑い芸人がネタをやってウケず、自らがお客様に

「このネタのここが面白いところですよ」

と説明するような事態は目も当てれないだろう。それと同じでハズシをして周りの人たちに伝わらず、説明するようなことは当然したくもないし、する機会もない。

「ハズシ」にはわかりやすさが必要で、わかりやすさを出すためにはベースとなるアイテムの認知度、アイコニックさが必要となることと、外すアイテムのテイストの違いが大きいと非常にわかりやすい。

リーバイスの501は誰でも知っているアイコニックなもので、アメリカの労働着だということを知っている人たちは多い。タキシードのジャケットも見ればフォーマルなものだとわかる人も多いだろう。そのわかりやすさが、「ハズシ」として成立する条件だとしたら、話は戻るが、「なんにでも合わせれる物」はアイコニックで認知度の高いアイテムということになる。

有名で、だれでも知っていて、だれでも持っていて、認知が広くアイコニックなもの。もうすでにたくさん持っているかもしれない。それが「なんにでも合うもの」であり、それらをベースに「ハズシ」のコーディネートをしてみよう。合わせやすいものを求めて買う必要はないと思う。すでに多くを持っているのだから。


オールシーズン着れる物など無い

これも厳密にいうと無い。ただこんなものは体感と我慢次第という部分もあるので、何とも言えない部分もあるが、思うことを解説していく。

まず、日本は高温多湿の国であり、四季がはっきりしている国でもある。昨今は温暖化により四季の移り変わりが極端になってきたが、日本という国はそういった特性を持っている。

一方で、洋服の根源は欧米だ。気候条件がそもそも違うので、本来欧米で設定している着用期間が日本で当てはまるかというとそうではない。

わかりやすい所で言うとスーツだ。

スーツは当然ジャケットとパンツの組み合わせで、夏物のスーツを1年中着ているサラリーマンは電車でもよく見かける。洋服に関心に低い人から見ると長袖の上着と長ズボンな訳であって、秋冬でも着れる、という判断になる訳だが、もちろんそれは違う。

一般的に春夏物でも、秋冬物でもスーツのベースになる素材はウールだ。この時点でウール=秋冬と認識される人も多いが、ウールは夏でも使う。むしろ折り方によっては涼しい素材だ。

春夏物、秋冬物の表面素材は同じウールだとしても折り方や用いる糸は全く違う。そして見た目にも明らかにわかる。そのため、少しでも見え方をよくしたいサラリーマンの方々は春夏物のスーツを通年使用するのは辞めることを強くお勧めする。

そして、裏地が背抜きと呼ばれる背中部分の裏地を除いたものが春夏物、総裏と呼ばれる裏地がしっかり入っているものを秋冬物と分けるのが最もわかりやすい判別方法だ。だが、これは高温多湿の日本特有の仕様だといわれることも多く、背抜きは春夏というのは日本特有で、インポートは春夏物でも裏地が入った仕様も多い。

そういった具合に、スーツは春夏物と秋冬物が分けられている訳だが、ほかのアイテムでも区分けはされている。

その中でも、確かに通年仕様と呼べるものはある。ジーンズやチノパンなどのパンツ、長袖のシャツなどに通年仕様は多く、ファッション初心者にはアイテムを買いそろえる上で最初に推したいアイテムだ。

夏に着るには長袖や長ズボンが暑いなどという輩もいるが、そこは通年仕様を望むならそこは我慢しよう。そこが譲れないなら通年仕様は不可能だ。

それらを買いそろえていくと、一つ課題にぶち当たる。綿素材ばかりになるのだ。同じ素材感ばかりになると非常に野暮ったくなる。

そもそもファッションとは文化だ。文化とは豊かさであり、ゆとりだ。実用性を追求するとファッションの本質である豊かさが失われる。通年仕様の素材やアイテムばかり選ぶと季節感の演出も無く、ファッションの豊かさや面白さがなくなってしまうというわけだ。


賢い洋服の買い物をする条件を考察したが、ステータスや実用性を満たす事は実はファッションの目的の本質から外れるのかもしれない。衣服の本質的な目的は寒さを和らげたり、暑さを遮ったりするものだが、ファッションはそれに加えて楽しさや豊かさを加えていくものだ。ステータスや実用性を求めすぎることが豊かな生活に結びつくとはあまり思えない。少なからずは必要かもしれないが素直に楽しんで洋服を買うことが最も賢い洋服の買い物の条件なのかもしれない。

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