『即興演技サイオーガウマ』へ ようこそ。
海村実津琉(うみむらみつる)は中目黒でインテリアショップを経営している。
ある日、いつものように出勤した海村は店の地下で白煙に包まれた謎の男と遭遇する。
2047年から来たという男が語る海村の未来。
にわかに信じがたいその内容。
迫り来るタイムリミット。
やがて予測不可能な物語が紡がれ始める─
そのあらすじのショートショートは、すでにもうワクワクすんじゃん。
『即興演技サイオーガウマ』は
・episode1:事前説明会
・episode2:テイク1
・episode3:テイク1を見ながらアフタートーク
・episode4:リトライ
の、各シーズン全4話構成になっています。
(DVDには特典episode5:ゲストを交えてのリトライ2と、メイキングが追加収録されています。DVD購入特典映像のためだけにゲスト俳優を呼んで、ゲスト俳優は本当にDVDにしか登場しません……マジでどうかしてる)
お互いの手札を全く知らないまま行われる「テイク1」。
ネタばらし、設定公開、どういうプランで演じていたかを話し合う「アフタートーク」。
最後に全てわかり合った上で行われる「リトライ」。
流れのついでなので『即興演技サイオーガウマseason03』が好きすぎるんですよお〜〜という、たいへん個人的な話も残しておこうと思います。
『即興演技サイオーガウマ』のseason3、テイク1は観た人みんな良いって言ってます(拡大解釈発言)
海村実津琉(小野健斗)さんが与えられた設定は「15分後にやってくる取引先と一世一代の契約を交わす」。
対して、謎の男(松田凌)さんの設定は「海村実津琉と彼の取引先の契約を15分間で破談させる」。
絶対にどちらかが目的を達成できないように設定されていて、しかもお互いがそれを“知らない”ところからスタートします。
ただし、謎の男さんは何故か「海村実津琉が何者で15分後に何があるか」を“知っている”のですが…。
もう少しだけ情報を共有しておきたいので、拙い文章ではありますが、ドラマの冒頭を書き起こしてみましょう。それくらいは許されたい。
不要ですと言う方はすっ飛ばしてください。
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10月30日。
天気がいい、冬の足音が聞こえてきそうなものだが、よく晴れた気持ちのいい日和だった。
そう思うのは、今日という日が実津琉にとって大事な日であるからだろうか。
まだまだ未熟な駆け出しのインテリアデザイナーの自分に、声をかけてくれた企業があるのだ。そしてその会社と共同制作の契約を交わす。
それが、今日だ。
大手というほどではないが、中堅の家具メーカーで、時節柄直接会う機会はなかったが、メールや電話のやりとりのなかだけでも、誠実そうで真面目な印象があった。
「お互いに切磋琢磨できれば」
そう相手は言った。
その声から、にじみ出る人柄は、利潤一辺倒の人間ではなさそうだった。契約がうまくまとまればいい。そうでなくても、いい関係を築ける相手だといい。
そう思うのはひとえに「ちゃんと目を見て話をしてくるんだよ!」と送り出してくれた妻のおかげかもしれない。
チャレンジ精神旺盛で、いつだって底抜けに明るい彼女は、ガラじゃないんだけどと言いながら購入した最近の愛読書“赤ちゃん・姓名判断”の分厚い本を振りながら見送ってくれた。おまけのように叩かれた肩が痛い。
頭ふたつ分ほど小さな体から繰り出されるパンチには、多分一生敵わないだろう。
小春日和に浮き足立つ心のままに、待ち合わせの場所、運命の場所、自分の店にやってきた。
「close」の看板がかかったガラス戸。
上と、下と、そして真ん中の鍵を開ける。
変わらないルーティン。
薄暗い店内も店主の心とは関係なく、普段と変わりない、はずだった。
しゅうしゅうと、聞きなれない音が聞こえるまでは。
なにか、空気の動く音。
なんだ?
午後出勤のスタッフが先に来ているのだろうか、でも。
“俺は、今、店の鍵を開けた”
ガス漏れか、電気系統か、あるいは空調の故障か。
音のもとは、どうやら地下のフロアにあるらしい。
自身の店を構えるにあたって、地下店舗というやつは、日光に弱い素材を思って選んだのだが、あかりとりの窓こそあるが地下ゆえに、照明をつけないことにはなにも見えなかった。
しかし、暗闇で見えないながらも残念なことに、本能がエマージェンシーランプ最大光量で知らせてくれる。
生き物だ。
薄暗い地下フロアの暗さの中に、より濃い黒さを察知した。
地下に店なんか構えるもんじゃない。明日にでも人感センサーで点灯する間接照明を仕入れてやる。電気代の値上がり?知るか、人命第一だ。グルグルと無駄なことに頭をフル回転させておかないと、耐えられそうにない緊張感だった。
打ちっぱなしの壁にぴったり背中をつけて、そろそろと階段を降りる。伸ばした指先が冷たい。
スイッチまで、あと、もう一段、
階下が少しだけ、
視界に入る、
黒い塊が、
ばちん、
「 」
目が、
あった。
ぐりっとした、
我の強そうな、黒い、
誰かに似ているような、ただ、
「だれ、ですか?」
見知らぬ男がいた。
鍵のかかった店の中に見ず知らずの人間がいる異常事態に「誰」も「何」も本来はない、完全に不法侵入者である。ドロボーである。
これは誰だ、警察を、誰かに知らせないと、危険だ、逃げる、逃げる?
そうだ、逃げよう。
実津琉は踵を返そうと半身をひねった、正しくはひねろうとした。
力いっぱい、胸ぐらを掴まれなければ。
実津琉より先に我を取り戻したらしい不法侵入者が、階段をすばやく駆け上がると実津流のひとつ下の段差からやみくもに手を伸ばし、無理矢理引き止めたのだ。
「なに、」
するんですか、が声になったかは分からない。
視界いっぱいに、その男の顔があったから。
その、なんともつかない表情と、見たことのあるようなないような、なんともいえない面差しに、なんと声を上げるべきか、あげるべき言葉が引っ込んでしまった。
ただ、息を吸って、息を吐く。
不法侵入者は、謎の男は、頭ひとつ分小さな彼は、
「久しぶり」
そう言って、実津琉の頬を叩いた。
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いかがでしょうか。
これがドラマの冒頭1分間です。
入れられる情報を全部入れ込んだ『即興演技サイオーガウマ・season03』の冒頭1分間です。
見た方が早い。
絶対、見た方が早い。
上記のように、海村実津琉さんには何としても契約を結びたい理由がありますが、不法侵入者の謎の男さんの「何としても契約させたくない」理由が、このドラマを進行させます。
そして、何度も言いましょう。
この物語には台本がないのです。
文字通り“必死”の説得に「応じる」という結末と「応じない」という結末、どちらを選んでも、ここでは“正解”です。あるいは全然違う結末になっても、監督はニコニコしてると思います。
即興劇ってハラハラドキドキして、共感性羞恥心のせいで楽しみ方が分からなかったんですよね。
だけども、目の前に予告なしに提示された無数の選択肢を、一つずつ瞬間的に、この役ならどれを選ぶだろう、自分だったらどうするだろう、この選択による行動で相手はどういう反応を返してくれるだろう、そしてどんな結末がいいだろう、と考えているのだろう、と、他者が考えていることを読み解くことにフォーカスして見るなら、こんなに面白くて考えさせられるものもないな、と。
だってそんなの人生と一緒だもの。
それを、すごく分かりやすく見せてくれたのが『即興演技サイオーガウマseason03』でした。
長かった、ここに辿り着くまでめちゃめちゃ長かった。
お疲れ様です、ご静聴いただきありがとうございました。もうちょっとよろしいでしょうか。よろしくお願いします。
ビンタではじまった二人が、15分間の対話によって歩み寄り、二人でドラマを終わらせる。
「はじまる前から決めてた、初めて会ったらビンタしておこうって。最後は、自分の名前を言って終わろうって」
と、謎の男・松田さんはアフタートークで初めて言うんですけど、実津琉・小野さんが、ドラマ終了1分前に「ひとつだけ質問していいかな」って、謎の男さんに言うんですよ。
「君の名前を教えてくれ」
そんなことある?
そんなことある???????
だって台本ないんだぜ??????
打ち合わせもなければ、台本もなく、お互いのやりたいことを全部15分間で伝えられたわけでもないのに、最後の最後で同じゴールテープくぐるなんてことある??????
「やってるうちに、あ、そうだよね、終わりそこだよねって思って。最後は名前を聞いて終わろうと」ってアフタートークで実津琉・小野さんが言うんですが、マジでそんなことある?????
名前を言って終わろうと決めてた人と、
名前を聞いて終わろうと決めた人。
そのパスを投げられるようにずっと誘導してた人と、ちゃんとただしいタイミングでパスを投げた人。
受け取って、投げ返す。
当たり前のようで、当たり前にできることじゃない。
日常生活においてもそうだと思います。
そうなのに、こんなに美しいかたちを即興劇というかたちでみせてもらえるなんて。
そんなものを見せられたら、もう、たまらなくて、舞台メサイア-章-シリーズ、どんだけすごいんだよと、見たいと思うじゃないですか。
ということで、やっと10年前のスタート地点にたどり着いたのでした……。
長かった……。
ひとつ、蛇足ですが好きなところを。
この『サイオーガウマ』は、たったいちにち、一回きりのドラマのために「パリコレみたい!」と衣装合わせで全員が言うトンデモ衣装がその人たちのためだけに作られていて、それも見どころになっています。
その中でも03は“衣装”そのものが設定を持っており、最初から物語の鍵として使えるよう準備されていました。衣装デザイナーさんの仕掛けだそうです。すてきですな。
しかもドラマ開始前にその仕掛けに気づき「使える、使おう」と思われたのもこの回だけ、ということも末尾に記しておきたいと思います。(実際テイク1では使われなかったのですが)
衣装の設定が本当にいいんですよ。
涙が出るほどいい。
美しい衣装はいいですね…。
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