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temp.稽古場レポートみたいなの

temp.という新しい演劇ユニットの稽古場レポートです。

『4.48 psychosis』とは…?劇作家サラケインの作品。これを書き終えた後、1999年2月に28歳で自殺した。テキストはストーリーのようなものはない。言葉や会話、数字の羅列により構成され、誰が発語するかは明記されていない。ぱっと見、わけわかんない。でも世界中で上演され、日本でも何度となく上演されている。

temp.は前東美菜子さんと内堀律子さんの企画。
ふたりは文学座の3期ちがいだが、同い年。(私はその間の期で、同い年。)
文学座は座員が多く、劇団公演に数年出ていない人もいるくらいなのに、前東美菜子さんは2019年の3回のアトリエ公演すべてに演出家からのオファーがかかり出演している。今月読売演劇大賞にノミネートされた『スリーウインターズ』では彼女の役を軸に物語が進むという、キーパーソン、っていうかほぼ主役であった。研究生から劇団員になってすぐ文学座本公演でシェイクスピアの主役をやるなど演劇に愛されるが、特異すぎて不思議とまわりから嫉妬されない唯一無二の存在。毎朝早朝のカフェバイトで疲弊する彼女を見て「休みなよ」と言ったら、「バイトをなくしたら社会に何の貢献もせずに演劇で遊んでいることになるから辛い」と真顔で答えられた。

内堀律子さんは元なでしこで女子サッカー選手から転身した異色の俳優。彼女も劇団員になってすぐ稲葉賀恵演出の『野鴨』でこれまためちゃくちゃいい役でデビューし、『元なでしこ、文学座で女優デビュー』とスポーツ新聞にまで載った。(デビューしたてで主役などをもらえる人は本当は少ない。)もちろん体もきくし、頭もいい。行動力が抜群で、「これやってやる!」と突き進む力でいろんなことを成功させている。

内堀律子さんが「前東美菜子の一人芝居をプロデュースしたい」という、役者としては異色の願望から始まったのが『temp.』らしい。temp.のチラシには普段は舞台の演出や役者や音響をしているメンバーの名前が羅列されており、「ん⁉この人たち出演するのか⁉」と思ったら、「メンバーみんなで前東美菜子の一人芝居をつくる」という、なかなか珍しい演劇創作集団であるようだ。(結局創作過程で内堀さんも出ることに決まった。)
演劇では多くの場合プロデューサーや演出家が権力を持っていて、参加するすべての人が対等に創作できるという、創作において理想的な形で芝居を打てるという事は、とても少ない。(演劇だけじゃなくて仕事とか、団体の中ではその方が効率が良かったりするので芝居やってなくとも想像つくと思いますが。)その理想を現実にやってみるというのも、おそらくtemp.の大事なコンセプトなんだろう。だけどなかなか壁にぶち当たることは多そう。演出家のように軸や方針を決める人、客観的に見る人がいないと稽古も進めづらい。
内堀りっちゃんから「制作もやってほしいけどとにかく稽古を見に来てほしい」とのことで稽古を観させてもらった。見て「わーこりゃ大変」と口に出した。だいたいの構成はできており、途方に暮れるような膨大な台詞を前東さんとりっちゃんは覚えていて、こうやってみよう!今度は違うようにやってみよう!ととにかく試しまくって、人の意見も全部聞いて取り込んで、本当に良い現象を探る、という涙ぐましい、根気のいる、超尊い演劇創作をしていたから。しかも長い時間この公演の構想を練っていたからなのか、意思疎通ができていて共通言語も多いようだった。超素敵。『4.48 psychosis』という戯曲の可能性が無限大であるがゆえに、いくらでも、いかようにもできてしまうというのが良いのか悪いのか…、とにかく超大変だけど超素敵な創作現場でありました。そこで、二ノ戸新太くん(普段は役者)とか丸田裕也さん(普段は音響)とか稲葉賀恵さん(普段は演出)とかがメンバーとして、二ノ戸くんはムーブメントをつけたりアドバイスしたり、丸田さんは音響やったりアドバイスしたり、稲葉さんはおそらく作品の相談に乗ったり? 印象的だったのは、前東さんが「ここではだれが何を言ってもいいんです」と言ったことで、それって演劇創作において基本で当たり前だけどなかなか自然にできる現場少ないよね、って感動しました。
稽古場は「あをば荘」という押上の素敵空間。前東さんが筑波大学で油絵をやっていたときの同級生のアーティスト集団が持っているギャラリーのようなところで、そこのメンバーもちょくちょく顔を出している。その中の安藤達朗さんはtemp.メンバーでもあり、都内の劇場で働いている。稽古を見ては率直で的確な感想を伝えていました。その日はさらに、中で使う映像のために絵コンテを書き上げて、休み返上で撮影しに行くとのこと。すごい。愛のある人々。

そんな稽古場でした。是非、temp.『4.48 psychosis』見てください。

突然ですが大野香織でした。