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20220515

 遺棄されたトラックの上に、鉄屑、廃材、折れたパイプ、トタン屋根の一部、が折り重なって壁になっている。工事現場のような祭りの後。壁の向こうに用があって、トラックのひしゃげた前輪に足をかける。連れていた女が嫌な顔で見ている。おれは口角を上げて視線で返事をする。大事な物をカバンに詰めて、誰にも見付からないように壁の向こうに投げ込んだのだ。
 鏡面の無いサイドミラーを掴んで車輪の上に上がった途端、人骨が目に入る。割れたドアガラスの向こうの運転席に、蜘蛛の糸で縛られ吊るされたようになった肉の無い胸。隣の助手席には頭蓋の砕けた顎から上が、白く、粉っぽく乗っている。レザーのシートが沼で、そこから顔を半分出す地獄の黙示録。目が合った気がする。あるはずの無い眼球がおれを見る。
 鳥肌と共に地面に降りて、女とぶつかる。何してんの早くしてよ。喉が締まって、脇腹を伝う冷えた汗の粒が大きくなって全身を飲む。ヒリつく太陽の下、動けずに時間ばかりが経ってゆく。

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