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エンタメとしての進化

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中指に磁石を埋め込んだジュリアン・ディシロワ。自らの体にメスを入れる「グラインダー[日本語版記事]」と呼ばれるバイオハッカーのひとりだ。PHOTOGRAPH BY MATTHIEU GAFSOU/COURTESY GALERIE C/MAP
2018.10 WIRED

人間の進化を技術で加速する動きをトランスヒューマニズムと呼ぶ。トランスヒューマニズムという言葉自体は歴史があるが、加速度的な技術の進化が言葉の定義を変えてしまうほどの現実味をもたらしている。

トランスヒューマニズムは直接身体に「手術」をすることで強制的に自分を変えてしまう。たとえば指に磁石を埋める。触覚に磁力が追加され、家具に埋め込まれた金具や壁の中の配管が肌で感じられるようになる。

しかし最も進歩したトランスヒューマニズムはニューラリンクでも磁石でもなく心臓だ。医療の進歩によって循環器系の疾患が人間が死ぬもっとも大きな理由になり、一方で人工心臓はこの5年で飛躍的進歩を遂げた。人間の心臓は80年の耐性を持っていない。人工心臓は人間の老化に関する課題解決を底上げして、人間の老化を止める最も直接的で有効な手段になった。

ちなみに、イーロンマスクがニューラリンクで人間の脳をコンピュータと直接接続するという話は、トランスヒューマニズムに一番近そうで、実はハードルが高い。確かにニューロサイエンスが長年抱えていた課題は力技で解決された。しかしもともニューロサイエンスには広大な海が広がっていてオールを一漕ぎしたに過ぎない。

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テクノロジーによって進化するのは人間だけではない。モンサントはバイオエンジニアリングの歴史のかなり早い段階から野菜や果物を進化させてきた。モンサントはまず遺伝子を編集してメロンを作り、どのような遺伝子ならメロンがおいしくなるかを調べる。つぎにその遺伝子に到達するように今あるメロンを交配する。交配は自然界で行われるので、遺伝子組み換えには当たらない。強制的に進化を加速しているのだ。

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昔のバナナはほとんど食べるところがなかったが、人間が美味しいバナナだけを交配した結果、現在のバナナができた。これまでの遺伝子工学を持ち合わせなかった人間は試行錯誤しながらバナナを作るのに長い時間を要したが、モンサントはこれと同じ進化を数年に縮めることができた。野菜はすでに(研究室の中では)人工的に進化している。同じことが人間で不可能だと誰が言えるだろうか。

もちろん食べ物でなければ遺伝子を組み換えても問題ない。そして私たちが知っている遺伝子組み換えはすでに昔のテクノロジーで、現在はさらに高度な編集が可能になった。マラリアは蚊が媒介するがマラリアの遺伝子を「自分たちが絶滅するように」編集した。遺伝子編集された蚊が産んだ子供はある種の奇形で人間を刺せない。しかもその遺伝子は子々孫々へと遺伝する。最終的にはマラリア蚊が撲滅される。

だからと言って人間の遺伝子を編集して人間を進化させる、いわゆるデザイナーズベイビーが倫理的に可能かといえば答えはNoだろう。あの中国でさえデザイナーズベイビーに世界で初めて成功した研究者を荼毘に付した。人間を編集することはタブーなのだ。

しかしそんな技術、いらないと言えばいらない。格差が広がる一方で情報はフラットになり、以前よりパートナーが見つけやすくなった。つまり富と名声を得れば、より良い遺伝子を持った人間と子孫を作れるようになった。この傾向はこれからますます加速していく。デザイナーズベイビーは倫理の問題になるがパートナーの選びは問題にならない。

昔はどんなにお金持ちでもパートナーの候補になる人間は限られていた。それがYouTubeやInstagramの登場で才能や美貌をもった人間が候補にできる時代になった。良い遺伝子がさらに良い遺伝子を産み、子供の時代にはさらにパートナーが選びやすくなっている。

テクノロジーの進化により、才能がある人はますます富を作りやすくなり、富がある人はますますパートナー選びで優勢になり、ますます良い遺伝子をもった子供が生まれるようになり、また才能が富を作る。しかも子供の時代にはさらにテクノロジーが進化しているからこのループは加速している。

これまでも私たちは遺伝子の差をなんとなく感じていたが、それでも同じ人間と認識していた。しかしテクノロジーによりパートナー選びが最適化されることによって、私たちはこれまでに見なかった人類を目撃することになる。

🐈❤️