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【承前】晴れた地獄の中にいる

ずーっと晴れた地獄の中にいる。朝起きた瞬間に帰りたいと思う現象に名前を付けてほしい。

私は今からこの部屋を出なければならない。そこら中に落ちている顔、腕、手首から先、腰。それらはいつか私が触れた記憶の残滓であり、変わらず漂う現在の遺物である。

もうどれくらい長い間この部屋にいるのだろう。すぐにでも出て行かなければと急く心もあるが、この破片をつなぎ合わせて形を作らなければ出ることは叶わない。

破片を拾い集めてはくっつけようと擦りつけるのに、合わせたそばからずるずると断面が滑ってこぼれ落ちてしまう。出られない。

部屋は白い床、黒い壁、青い天窓で構成されている。どこまでも広がるようでありながら、手を伸ばせば目の前で閉ざされているようで、ただ青い空に見つめられた時間が過ぎていく。

喉も渇かず空腹もなく、ばらばらになった身体と私がそこにある。晴れた地獄の中にいる。ここから出られる見込みは立たない。

いつからこの部屋にいるのだろう。いつになれば出られるのだろう。時折り壁の向こう側から音がする。壁を叩く音がする。何かが部屋の内側に響いてくるが、決して外には出られない。

私はこの部屋から出なければならない。いつか忘れた家族の夢、置いてきた未来への希望、それらが私の邪魔をする。そして同時に糧でもある。この部屋から出られるためなら何を差し出しても良い。

ふと声が聞こえてきた。私を呼ぶ声だろうか。それは男のようであり女のようであり、老人のようであり若者のようでもある。君らが私を連れてきたのだろうか。私が自ら部屋の中に入ったのだろうか。

私はここからすぐにでも出なければならない。脚を拾い、胴を抱え、さまよいながら夢を見る。きっと外があることを信じて。そこには今日と明日が続いている。

ずーっと晴れた地獄の中にいる。外に出られる見込みは立たない。だから顔や身体の一部を投げつけて、踏んで、踏んで、だからそう、私は、私は。

【続く】

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