2020鹿島アントラーズ総括 1話

鹿島アントラーズの2020シーズン総括をします。

総括の流れとしては、1話で今季の陣容に至った経緯と目標の整理から始まり、2話でその達成へのアプローチがどのようなものだったのかの整理。3話では1,2話の整理を踏まえての改めての評価という感じでやっていこうかなと。

それではまず、今季のチームの目標の整理から。


評価基準の設定

まずはチームの評価をするにあたり、今年のアントラーズが「何が達成できたか」・「何が達成できなかったか」を精査していく。

がしかしそれをするためには、前提として、そもそもチームが「何を目指していたか」の定義付けの整理が必要となる。

という事で評価基準の設定からまずはスタート。


「追い求める強さの種類」の転換

今季のアントラーズのテーマは、いわば「放任からの脱却」だったといえる。

これまでのアントラーズは選手達の自主性を最大限に尊重し、「形のない強さ」を武器に戦うことで多くのタイトルを獲得してきた。特定の型を定めないことで、
・選手達がピッチ上の状況を読む力
・選手達がピッチ上で状況を改善する対応力

をチーム全体で育んでいた。

その証拠に、ポジション毎のタスクを設定せずその時出ている選手の個と対応力によってチームのサイクルを回していたので「誰が出ても鹿島」と評されたり、大まかな原則の設定はするものの特定の型を定めていないので「鹿島らしさ」というファジーな表現が定着するなど、形のない強さを持つチーム特有の評価がなされた。

2018、クラブが念願のアジア制覇を成し遂げられたのは、困難な状況の連続であるACLでも選手達がピッチ上で対応力を存分に発揮できるようなチーム作りをしてきたが故の、いわばこれまでの積み重ねの結晶ともいえる成果だった。それと同時に、2018W杯に日本代表としてCF大迫・CH柴崎・CB昌子を主軸として送り込めた功績も、鹿島で培った「対応力」が認められてのものだと認識すべきだ。


しかし、2020アントラーズが目指したのは、そこからの「脱却」。

もちろん、鹿島アントラーズというクラブの誇りを胸に、常にJリーグのトップを走るべき組織として「勝利のために戦う意識・メンタル」の部分、いわゆるSPIRIT OF ZICOの部分は根幹として絶やさず引き継ぐ姿勢は崩さない(むしろ例年より強調したまである)。それはジーコとの契約延長が何よりも物語っている。

さらにここで強く、強調しておきたいのが、これまでのやり方(形のない強さ)がで、これからのやり方(形のある強さ)がである という事ではない という事だ。あくまでこれは2つは勝ち方の「種類」であり、形のある強さが「その形を相手に捉えられてしまう」「形の再現に固執しゲームの本質から離れる」等々のデメリットを持つのに対し、形のない強さが「相手にとっては掴みどころがない」「状況に合わせて柔軟に形を変えられる」というメリットを持つように、あくまで一長一短である。


そのうえで鹿島は、かつて栄光を掴んだ勝ち方から、距離を置く決断をした。


なぜ『形のない強さから、形のある強さへ』の転換を決断したのか。

そこには大きく2つの「外的要因」が影響していたと考えている。


転換を決断した経緯


1つ目は、Jリーグからの海外移籍のハードルが年々下がってきているという要因が挙げられる。もちろんこれは日本のサッカー界から見れば喜ばしい事なのだが、常に代表クラスの選手を抱えているクラブにとっては大きな問題になり得る。
これまでの鹿島は、選手達の「対応力を育む」事で強いチームを作り上げていたと冒頭で説明した。しかし昨今の海外挑戦へのハードルの変化によって、それらが「育まれ次第海外へ移籍」という流れが一般化してきてしまっている。

先ほど例に出した2018年でいえば、ACLを取るまでに成長した選手達といざ翌年2019のJリーグ優勝を目指すべきはずが、この年にFW鈴木・SH安部・SB安西・CB植田・CB昌子というチームの核が若くしてごっそりと海外へと飛び立っていった。
このように、

「獲る→育てる→活躍する→海外挑戦する」だったサイクルのスパンが急激に早まり、

「獲る→育てる→海外挑戦する」というサイクルになってしまっていた。

時間をかけて育てた選手が、育てられた後もチームに居るとは限らない」という新常識が生まれてしまったのである。

痛みを伴いながら起用し、育てる。そしてその結果として活躍してチームに還元する、というサイクルが回らなくなった。


これに対する鹿島の策は「チームとしての型をある程度定める事によって、育ちきってない(対応力を身に付け切ってない)選手でも活躍できるレールを作る」というものだった。


水や肥料をあえて与えない事で、自力で花開く力強く育つ花を保有しておきたいというスタンスだった過去に対して、花があまりにも早く出荷されてしまう現状に生産が追い付かないので、「これからは水は与えよう」となったのである。
そうでなければサイクルの急速化に食らいついていけないという判断だ。

そのレール作り・水の役割として、鹿島は「形の構築」を新たな監督(ザーゴに)託す必要があった。

※鹿島が自前の選手を海外移籍させる事自体はポジティブに捉えている。その選手達が海外で活躍することにより「鹿島産ブランド」が上がり、そしてそれにより未来の優秀な選手に鹿島を選んでもらう事。クラブとして鹿島はこれらを歓迎しているというのが当然前提になってくる。



そして2つ目が、他クラブの海外潮流の取り入れによるレベルアップだ。理由はDAZNの普及など様々挙げられるが、鹿島が2019のJリーグを獲れずに横浜Fマリノスが優勝した事、そして鹿島が2019の天皇杯を獲れずにヴィッセル神戸が優勝した事でアントラーズファンは既に理解が進んでると思うが、現代のJリーグは個々の殴り合い勝負という側面が徐々に薄れ、「+αで組織力をいかに積めるか」というステージに上がりつつある。

かつて個々の殴り合い勝負では各選手の高い能力+対応力を育むチーム方針で他を寄せ付けず、リーグ3連覇を果たした鹿島アントラーズだが、それから10年の月日が経ち、Jリーグのサッカー、優勝するために求められるアクション・チャレンジも変化してきたように感じる。

鹿島が勝ち方を変えずに挑んできた2017,2018,2019に国内タイトルを獲得できなかった事は、1つのファクターとして、重く受け止めなければならない事実だ。
そこに食らいつくための「型・原則・言語化」による組織としてのレベルの向上を、新たな監督(ザーゴに)託す必要があった。


これら2つの要因が重なり、鹿島はザーゴに改革の舵取りを任せる事となった。


ザーゴの舵取り

ザーゴが鹿島アントラーズが求められたモノ、それは(繰り返しになるが)「形のある強さ」だ。
ではザーゴは、具体的にどのような勝ち方の形をクラブに示したか。

まずは大まかな骨組みから見ていき、そこから徐々に枝葉の部分へと整理していく。


Q.どうやってタイトルを獲得するか?(最終目標)
A.試合に勝つ事でタイトルを獲得する(方法)

Q.どうやって試合に勝つか?(ゲームモデル)
A.ゲームを支配する事で相手に勝つ

Q.どうやってゲームを支配するか?(戦略)
A.自分達からアクションを起こし、自分達のペースを作り出す

Q.どうやって自分達のペースを作り出すか?(戦術)
A.こういう時はそうして、そういう時はこうする



という感じで2話に続いていきます。1話は本当の本当に大枠の整理で終わってしまいました。

鹿島が「ザーゴに託してたうえで、最終的に2020シーズンどこまで(何位)の成績を目標としていたか(上限ではなく下限を)という話は、あえて書きませんでしたが。シーズン終了後に鈴木満さんが5,6位というようなコメントを残していましたが、それは外向けの発言だという要素が多分に含まれてることかと思いますし、内部の雰囲気がわからない以上憶測で話が進むことになり、そこに関して書き始めると

「チームがどの程度の成績を最低限として見積もっていたか」

ではなく

「個人的にどの程度の成績を最低限として見積もっていたか」

という話になってしまうので。


1話、以上です。お疲れ様でした