【J1第5節】vs湘南戦 2022鹿島アントラーズ 8歩目

2-1。勝利。最高。



まず両チームのスタメンについて。

湘南はフォーメーションはそのままに、前節とメンバーが1人入れ替わりFWがウェリントンではなく瀬川に。


一方鹿島は中3日で九州から鹿島へ移動してきての今日ということで日程的に厳しい面もあり、前の試合からメンバーを7人変更。
今季8試合目にして、初めてジエゴがスタメンから外れた。

この状況を踏まえて鹿島は人だけではなくフォーメーションも変更。
これまでの戦いで見せてこなかった新しく、珍しい陣形を取ってきた。


それがこの4-1-3-2。
アンカーに樋口を置き、2列目を左から荒木・和泉。土居と配置する形をベースとして、相手に押し込まれ撤退した時にだけ和泉が3列目まで降りて樋口と横並びで守るという特殊な方式をとってきた。

理由としては、まず湘南の戦い方に対して2CHである必要性が薄いという要素が挙げられるだろう。
湘南の陣形は先ほどあったように5-3-2(3-5-2)ということで、通常置かれるSHやWG、つまりサイドの奥に陣取る選手が居ない。これは鹿島のSBにとっての負荷の軽減を意味する。

もちろんそのサイドバックが自由に動けば、その裏のスペースはFWが流れてきて活用してくるためもちろん対処する必要はあるのだが、そこに関してはCB2人が相手FW2人に着いていけばいいため、わざわざCHを2人置いて素早くスライドさせて守る必要がない。出て行ったCBのぶん、アンカーがそこを埋めればそれで間に合う。
相手のIHからの上がりは両サイドのSMF、左:荒木,右:土居が戻ってくれば十分間に合う噛み合わせだ。(ただ田中聡の機動力は勉強不足だったため驚かされた)

さらに湘南の後方からのビルドアップに対応するという面でも、2CHではなく2人に段差を付けた方がやりやすいだろうと考える。
というのも湘南のビルドアップは初期配置から基本的に可変することのない5-1ビルドアップが採用されており、これは4日前に大分が採用してきた方式と同じ。
鹿島はその試合で4-2-2-2、つまり2CHによる守備陣形を敷くもそれが機能せず前半20分までに2失点を喫し、その後CHの片側を1列上げてアンカー監視役として配置することで、その後の失点を防いだ経験があった。

おそらくそれらを踏まえて、この日は最初の立ち位置の時点でトップ下とアンカーという段差をつけた守り方を採用したと考えられる


加えて、攻撃面でも4-1-3-2にするメリットがいくつか考えられる。


前述の話と被るが、湘南は5-3-2のため、守備で押し込まれた際は後ろの5-3(8人)が自陣深くまでしっかり撤退して、人数を集めてブロックを形成する。

そのためそこからのカウンターは最前線のFW2人でシュートまで完結させるか、自陣ペナルティエリアまで引いていたIHが上がってくるまでの時間、そしてWBが上がってくるまでの時間を稼がねばならず、かなりの時間ボールを収めてタメを作る必要がある。

そうなれば鹿島としては、被カウンターのリスクについては「2CB(健斗・関川)が2FW(瀬川・町野)に好き勝手やられさえしなければ大丈夫」という考え方になり、押し込んだ際には全体の重心を高く上げておいても問題ないと考えるようになる。

そうなった時に、押し込んだ時もボールとは逆サイドのSBがそこまで高い位置を取らず対応すれば、2人のCHをCBの前に構えさせておく必要はない。
少なくとも片側CHは自由に攻撃参加させ、もう1人はセカンドボールを回収しての2次攻撃への準備として、被カウンター阻止の第一段階の防波堤として、そして攻撃のやり直しにおける逆サイド展開役として、比較的高い位置をとる事を求めた方がより機能するという考えだったのではないだろうか。


そして攻守これらの要素に加えて、純粋なCHの駒不足も作用しているだろう。
今季ここまで全試合スタメンだったジエゴが不在で、かつ前の試合でミスが続いたブエノに代えてCBに安定感のある健斗を派遣するとなった時に、J1の強度に慣れているCHが樋口のみになってしまった。
中村もこの日はメンバー入りしていたものの、樋口-中村で試合をスタートしてしまえば、いよいよ控えが居なくなる。


これらの要素を複合的に考慮したうえで4-1-3-2の陣形をチョイスしてきたのではないかなと。


ただここまでは想像がついたものの、未だに不明瞭な部分がある。
それは人員配置の面に関して。
なぜ普段サイドを主戦場にしている和泉を中央のトップ下に置き、荒木を左SMFとしたのだろうか?

個人的に考えられるのは、この日のトップ下は中央の選手として両サイドに積極的に絡んでいく必要があるため、活動範囲の広さを考慮した結果荒木ではなく和泉だった、とか。
この日の攻め方を考え方時に、中央には自分でボールを持って崩しの一手を決めに行く事より、気の利く所に顔を出し続け相手をズラす事を優先させて欲しかったから、とか。でもそれなら土居に任せた方が適正ある気がするし…。うーん…未だにモヤモヤしている。
まぁ最終的にはヴァイラーがこれまでの鹿島の試合を見ていて、和泉に,荒木に,土居に,それぞれ感じる部分があってそれを考慮した結果、なんだろうけど。

そこまで行くとヴァイラーの脳ミソを覗くしか方法がないのでこの辺で。
そのうちいつかわかるっしょ。


前半


キックオフから互いの戦略がわかりやすく表現され始める。

基本的には両チームに共通して言えるのが、
「ボールを持っても無理に繋いでペースを握ろうとせず、サイドの奥深くに選手を置きそこに向けて縦に速く攻める事で、エリアを獲得して押し込む事」
そして
「守備のターンでは相手の後方から始まる攻撃に対して前から守備を仕掛け、より高い位置でボールを奪ってのショートカウンターを狙う事」
というのを理想にしていたように見て取れた。


実際にキックオフから1:30,3:30と、鹿島は繋がずロングボールを蹴り込み、それを2列目-SB-アンカーの3段構造によるセカンドボール回収で押し上げに成功。

一方湘南は3:40頃にビルドアップの場面を迎えるものの、鹿島が大分戦の経緯を踏まえた先ほどの和泉を最前線に上げる4-3-3可変によるプレスで、湘南の5-1ビルドアップを阻害する。

この日はこのプレス方式が直接的にチャンスに繋がる事はなかったものの、それは鹿島が試合開始早々から準備した形を明確に表現して、繋ぎに行かない方が良いと相手に判断させたことが、湘南にロングボールを「蹴らせる」という結果となって表れていたように感じる。


というのも前述の通り、湘南は最前線のFW2人がロングボールに対して、IHもしくはWBの上がりを待つまでの長いタメを作る必要がある。
ただそれにしては、町野こそサイズがあるものの、もう1人のFW瀬川はこと空中戦においては少なくとも関川・健斗と渡り合えるタイプの選手ではない。

元々湘南はロングボールを蹴るのを嫌ったりする傾向はおそらくない。
しかしきっと蹴るにしても前段階で最低限繋いだうえで、立ち位置で相手の守備に縦ズレを起こし、スペースを創出してからそこに蹴るような設定にされてるはず。
ただこのように最低限の繋ぎが機能せずに「蹴らされ」て、味方FW(町野・瀬川)vs相手CB(健斗・関川)という構図で真正面からの高さ勝負を繰り返す展開になるとやはり分が悪い。
(あ、そういえば普段はウェリントンなのか。まぁいいや)

これにより、まず湘南は攻撃面で上手くペースを掴めなかった。


対して鹿島の繋ぎは、序盤から比較的上手く行ってたと感じる。

こちらの2FWである優磨・上田コンビは、それこそ相手CBとの真正面からの高さ勝負なんかは嫌うどころかむしろ上等という感じだし、セカンドボール回収構造もある程度準備できている。
なので鹿島としては蹴らされるわけではなく「いつ蹴っても良い」というスタンスで、湘南は常にそこへの脅威があるため、条件が整うまでなかなか全体の重心を上げて(背中を空けて)プレスを仕掛けられない。

そうなれば鹿島としては、樋口+健斗,関川の3人でボールを横に揺すりながら相手FW2人を外して前を空け、湘南がWGやSHが居ない構造上1stアタックが遅れる鹿島のSBの所へ預け、そこを起点とした菱形形成からのサイド攻略に移行できる。

実際にボールを意図的に握る時間を作れてたのは鹿島の方だった。



しかし、鹿島が試合の主導権を握るとまでは行かず。


要因としてはいくつかある。

まず両チームが共に
「縦に速く攻めて、奪われたら速い切り替えで守備に移行し極力前線で奪い返したい」という戦略を持つ構図となり、トランジションが頻発する展開になったものの、お互いなかなかその土俵で優位に立てない。

というのも湘南は蹴らされ、蹴った先でも上手くタメを作れず、ボールを保持する時間を安定して作れない。
それに加え鹿島の方も、本来高さ勝負上等な優磨がこの日は山本脩斗に達者に守られ弾き返されてしまうため、普段の試合と比べターゲットとしてうまく機能しない。
そして上田の方も、純粋に鹿島が2CBで守るのに対し湘南が3CBで守ることに加え、大野と大岩のコンビが強さで負けないためなかなかタメを作って押し上げる事ができない。


こうしてお互いボールを持てば手っ取り早く最前線にボールを着けるも、それをすぐに弾き返されてしまうことで、中盤でのトランジションが断続的に繰り返される忙しい展開が続く試合の入りとなった。


とはいえ、主導権を握るまでには至らなかったものの様々な局面で優位に立つのは鹿島の方であり、頻発するトランジションに対しても純粋な個々人の強度と配置によって、自分達の時間をより多く作る事に成功していた印象だ。


しかし先制したのは湘南だった。


前半15分、湘南が攻撃時に上げたクロスをまずGKスンテがキャッチし、鹿島の攻撃がスタート。

スンテがボールを投げ、左CB健斗から左SB安西へ、さらにトップ下の和泉が降りてきて受けパスを繋ぎ、外の荒木にダイレクトで叩く。
しかしここを湘南のIH永木にかっさらわれて自陣深くでボールロスト。

永木が迷わずクロスを上げ中央で湘南がシュートを打つものの、これは鹿島のCBがシュートコースに入りブロック。

しかしこのブロックの跳ね返りが、近くの鹿島の選手の足にさらにリフレクションし、CBとGKの間の絶妙な場所にボールが転がる。
それに瀬川が反応し押し込んでゴール。

永木にクロスを入れられた後の対応に関しては、事故だと考えていいだろう。適切にシュートブロックした結果でリフレクションが重なってあそこにボールが転がってしまったのは技術の改善では避けようがない。


しかし永木がクロスを上げるに至った、自陣でのボールロストに関してはやりようがあったと考える。

前述の通り、湘南は鹿島の優磨・上田という強力なターゲット2人が生む脅威によって、なかなか全体の重心を上げられずにプレスで圧を生み出せていなかった。
しかしこのボール奪取に成功した場面では、自分達が押し込んで攻撃をした直後のシーンだったため、元々湘南の全体の重心が高い状況だった。

そこで鹿島はGKがキャッチしたボールを蹴らずにCBに渡し、いつも通りビルドアップをしはじめようとしたところで、以下のように湘南が人の数と重心の高さが揃った圧力の高いプレスを仕掛け、ショートカウンターからの先制ゴールに繋がった。

結果的に和泉のパスがボールロストの直接的な原因となったが、そもそもこれだけ湘南のプレスの圧がある状況下で繋いでいこうというのがだいぶ苦しい。

ここは一度湘南が攻撃直後であることを考慮して、前に前に進もうとするのではなく下げてやり直す事で相手が重心を下げるのを待つか、もし下げずに高く来るようであれば、湘南が空けた背中に居る優磨・上田という優秀なターゲット目掛けて蹴り込むか。

そういった判断が必要だったように感じる。


ここに関してはチームの設計というより、ピッチ上のその場の状況を読んでのプレーチョイスに関する、判断力・対応力の部分の話かなと思う。




そうして4日前と同様、前半20分頃までにビハインドを負う状況となった鹿島。

失点については、チーム構造をロジックで崩された結果によるものではないため、試合再開後からスタンスややるべき事を大きく変える必要はなかったものの、その後鹿島はなかなか反撃ムードを作ることができない。



最も痛かったのが、攻撃において地上戦で突破口を見い出せなかったという点であり、その部分に関しての最大の要因は、SMF、つまり左の荒木と右の土居が存在感を出せなかったところにあるだろう。



CBがボールを握り、そこからSBやFWへの直通パスを用いることで、サイドの奥深くを取って押し込むところまでは割とスムーズに行ける。

問題はここから。
湘南が5-3-2なこともあって鹿島はSBが背後の脅威を気にせずに押し上げてくる余裕があるので、大外は基本的にSBが埋める形になって。
そこから内側で浮いてボールを受けようとするも、構造的に相手のIHと噛み合ってしまっているため消されてしまって。
ブロックの奥を突こうとしても、ターゲットは必然的に荒木,土居ではなく、相手を背負って受けられる最前列の優磨,上田になって。

このように、大外・内側・奥を他の選手が突く状況のなか、SMFが宙ぶらりんになる状況が続いてしまった。

鹿島としては、本来和泉と両SMFを含めた2列目3人で、以下の図における赤い円の部分が示すようなバイタルエリアを活用したかった所だ。


そうすればバイタルから角度のつけたパスを入れたり、樋口や最終ラインまで迂回することなくゴールに近い所を経由して逆サイドに展開する事で、相手ブロックのズレを生む可能性が出てくる。



なんでも良い。結局クロスでも、なにも問題ない。
ただ、せーのでクロスを上げるのではなく、角度をつけるだけ、タイミングをズラすだけでも恐らく相手からすればだいぶ守りづらくなるはずだ。


それがなくブロック形成完了後の準備の整った湘南の5-3ブロック目がけてクロスを上げる事が目的となってしまえば、なかなかゴールには迫れない。


最もわかりやすいなと感じたのが、24分から26分にかけての鹿島の攻撃シーン。

安西が左サイド奥深くでボールを持つも、それに対しペナ角やバイタルに入って来る他の選手の動きが無く、結果クロス。
湘南は準備万端なので跳ね返す。

セカンドボールは鹿島が回収し、再び安西へ。

しかしまたもそれに対しペナ角やバイタルに入って来る他の選手の動きが無く、結果クロス。
湘南は準備万端なので跳ね返す。

さらに続く26分、健斗が身体を外に向けつつ中を割ってくる見事な縦パスを上田に当て、それを外で待つ優磨に叩くことでスムーズにサイド奥深くまで侵入する事に成功。

しかしまたもそれに対しペナ角やバイタルに入って来る他の選手の動きが無く、結果クロス。
湘南は準備万端なうえに中で待つのは土居と荒木の2人なので問題なく処理。


前半にサイド奥深くまで攻め込んだ後の展開は、ずっとこの状況が繰り返されていたというのが個人的な印象だ。


見方を変えれば湘南がバイタルを締めてクロス一辺倒にさせていたと表現できなくもないし、サイド奥深くまで順調に侵入する段階までは来れたとも言える。
ただ個人的には非常にもったいないなと感じた。


リーグ戦を戦っていくうえで、今後も5-3ブロックや5-4ブロックを敷いて撤退して守ってくる対戦相手とは何度も戦うことになるわけで。
改めてこのあたりの整理は今後要改善だなと。

26分,32分,40分と、せっかく内側に居るのにも関わらずあえて外側を大回りしてボールを持つ選手を追い越し、相手の守備をズラすことなくパスの受け手としても消えてしまっていた安西の動きは、その象徴だったように感じる。

安西の持つ走力は間違いなく唯一無二のスペシャルであり、それをどれだけチームにとって機能的なものにできるかは、コーチングスタッフからの修正による腕の見せ所に今後なっていくだろう。

この後左SMFの荒木は3列目まで降りてビルドアップを補助しに行き、右SMFの土居は高い位置を取って裏抜けを頻繁に仕掛け相手の最終ラインを押し下げて深さを取りに行くなど、それぞれ試行錯誤はしていものの結局前半終了時までこのSMFというポジションを上手く機能させることができなかった。



試合はその後も、ボールを握って押し込む場面を多く作るのは鹿島だが、基本的には早いテンポで攻守が入れ替わる展開に。

メンタル的に優位なのは先制できた湘南。
逆に鹿島は上手く押し込んでからもクロス以外の突破口を見出せず、加えて湘南の中6日と比べて中3日なこともあり、精神的にもフィジカル的にもキツイ状態に。


集中力が切れてしまう場面もみられ、なかでも43分の、土居から常本への不用意なパスミスがキッカケとなってピンチを生んだ場面は顕著だった。

しかしそれに対してただ声を荒げるだけでなく、FWのポジションから2列目の和泉,荒木よりも早く深く帰陣してセカンドボールを回収し、ファールをもらってピンチを脱してから声を上げチームを叱責した優磨の振る舞いは素晴らしかった。
味方の不甲斐ないプレーに呆れるのではなく、まず姿勢で示して、チームを引っ張る。

さらに試合終盤には、前の試合でやられたセットプレーの場面で誰よりも大きい声を出し集中力を切らさぬよう全員に喚起。

スタジアムで試合を見るたびに、40番を背負う男の覚悟を見せつけられる。



そういった展開のまま、スコアも動かず前半終了。

鹿島は勝利の為に、残り45分で少なくとも2ゴール以上が必要となった。



後半

ハーフタイムを経て、リードする湘南は特にメンバーとやり方に変更はなし。

一方鹿島は配置を変更。
前半4-1-3-2だった所を4-2-2-2に変更し、荒木を中央3列目へ、和泉を左SHへとポジションを変えさせた。

この変更に関しては、シンプルに4-1-3-2が思ったように機能しなかったが故だと思う。

ロングボールが思ったより弾き返されてしまい回収役として効かず、押し込んでから効果的にボールを持てないSMFが宙ぶらりんになってる状態を改善するため、役割を整理。
まず大外深くの担当をSHに、そしてその後ろはSB、内側にはCHと、押し込んでからの配置をハッキリさせた。
これによりFWを外に流れさせないままサイド攻撃を完結させられる構造へと修正。

加えて、中央で360°活用しながら振る舞うことに苦しんでいた和泉を本来の主戦場であるサイドに戻し、反対にそれに慣れた荒木が中央でボールを捌く形へと変更した。


そしてサイドでの攻撃時の並びを整理したことが、いきなり47分に効果として現れる。

このシーンではまず、前半からビルドアップにおいて詰まるポイントとなっていた左SB安西のところにパスが行く。
そこからまさに前半の失点シーンと同じように、安西の所に湘南の右WBである岡本が前へ飛び出して素早くアタック。
ハマってる中へパスを渡せばそこで捕まってしまうところだったが、この場面では後半から新たに設置されたSHの和泉が外で縦パスを受ける。

そこからさらにもう1つ奥で待つ優磨に一度当ててワンツーでパスを交換し、このやり取りの間に大外を駆け上がっていた安西へスルーパス。


結果的にはパスは繋がらなかったものの、湘南が重心を高くしてWBを前へ突き出してきていた事で、そこで捕まえらえなかった分次の和泉に対して右CB山本が釣り出され、その先の優磨にはさらに中央CBの大岩が釣り出される形となっていた。
こうなれば中は鹿島2人と湘南2人。パスが通ればビッグチャンスとなっていた。


さらにハーフタイムを踏まえて鹿島は、攻撃時に配置を変えるだけでなく、特にボールを失った後の1st,2ndアタックの強度を上げて、より前に前にベクトルを向けて守備をする形へと変わ。


こういった修正力は、今季に入って本当に大きく改善された。
例えリードされていても、ハーフタイムの15分をワクワクして待てるのが今の鹿島アントラーズだ。

ただ現段階でどこからどこまでの修正をヴァイラー監督が、そして岩政コーチがやってるかはわからないが、今こういった調整に対し選手がすぐに対応できているのは、岩政監督代行が開幕から取り組んできた土台作りのうえにあるものなのは間違いない。改めて大きな仕事を果たしてくれたと感じる。


話を戻して。
鹿島は後半から前へ前への守備に切り替えたが、これは圧力こそ生むものの、守るべき場所を空けて前に飛び出してきてるので、そのぶん外された時のリスクは大きい。
今まで許してなかったイージーな前進を相手に許してしまうような形にもなり得る。

しかしこれが結果的に鹿島の同点ゴールを生む。

48分、左サイドで降りた町野に付いていきCB健斗が高い位置をとったことに伴い、鹿島全体の重心が左サイド深くへと傾く。
湘南はそこから逆サイドへ開放し、広くスペースの空いた鹿島にとっての右サイドから安全に、深く前進。
前半にはなかったようなCB(左CB大野)が攻撃参加を見せる。

それを鹿島はなんとか弾き返すも、湘南はさらに後ろから攻撃をやり直し、今度は鹿島にとっての左サイドから前進。
鹿島は個人単位の前へ前へのプレスなので、丁寧に外していけばスムーズに前進できるようになっていた。

そうして今度は右CBの山本がボールを運び攻撃参加。
ボールは順調に動き、選手も上手く連動していたものの、次のパスが不運にも意図せず山本の足にぶつかってしまい、これが鹿島の選手の前に転がってくる。
これを拾った和泉が迷わず最前線の上田にパスを渡し、上田がさすがの得点能力を単独で見せつけ同点ゴール。


正直これも事故としての色が強い。
ただ湘南の先制シーンもあのリフレクションは個人的には相当事故の色が強いと感じているので、お互い1本ずつ出てしまったなという印象。

まぁプレスをハメた結果の先で事故が起きた湘南の1点目と、プレスがハマらかった結果の先で事故が起きた鹿島の1点目は、過程のところでは意味合いが違うけれども。
まぁまぁ、どっちも事故っぽいってことで。


というわけで鹿島としては後半開始から約3分で同点に追いつくことに成功。
逆転となる2点目を奪うまでの猶予が、ほぼ45分丸々残るような形に。

しかし、ここから鹿島が圧倒的にペースを握るような展開にはならず。

やはり前へ前へのプレスを行うにしては、日程的なしんどさが付いて回り、試合再開後から危険なシーンを度々作られてしまう。



ただ同点となったことで、湘南も勝利を掴むためには勝ち越しゴールが必要な状況に。

これまでの鹿島vs湘南の試合を思い返すと、ここから先は1-1の同点でもOKな湘南が我慢強く戦い、どうしても勝ち点3が欲しい鹿島が前に前にと焦り、結果試合終盤にゴールを奪われ…
という展開が脳裏によぎるところだが、この日はこれまでの同じカードの試合とは状況が違った。

今季の湘南はここまでリーグ戦4試合を戦って0勝2分2敗といまだ未勝利。
鹿島相手にまず勝ち点1を積み上げ、隙があれば勝ち点3を狙いに行くというスタンスではなく、絶対に今季初勝利が欲しいという姿勢で戦ってきた。

結果、元々前半からトランジション合戦だったピッチ上が、同点となり、かつ時間の経過とともに互いの強度が落ちてきたことで、より縦に間延びしたカウンター合戦となる。

こうなれば日程(フィジカル)的に優位な湘南と、同点ゴールを決め勢いに乗り精神的に優位な鹿島という構図で、互いにボックスtoボックスを行き来する、しんどい殴り合いの展開に。


監督合流後初勝利が欲しい鹿島と、今季リーグ戦初勝利が欲しい湘南。


見ているこっちの息まで切れてきそうな、気持ちと強度の勝負。
その分かれ目となったのは、2つの要素だった。

まず1つ目は選手層の厚さを含めたベンチワーク。
ボックスtoボックスの展開になれば、当然キツくなってくるのは中盤の選手達。
ここに対し湘南が選手交代を施したのは、この状況になってからしばらく時間が経過した、後半26分の米本→茨田の交代のみ。

それに対して鹿島は、4日前に大分でフルタイム出場していた和泉と荒木に代えて、トランジションに滅法強いアラーノと仲間という、瞬発力と広いプレー範囲を武器に持つ2人を投入。

徐々にピッチ上に疲労の色が濃くなっていくなかで、選手交代によって中盤にエネルギーをもたらすことに成功したのは、鹿島の方だった。




もう1つの要素。
それは59:30の、1つのプレー。

鹿島が押し込み、湘南がそれを弾き返し。すぐさま縦に広く空いた状況で湘南のカウンターが始まる。
結果湘南の2FWvs鹿島の2CBという構図になり、そこから関川が入れ替わられたことで、広大に空いたスペースで湘南2FWvs三竿健斗1人という、この日最大の決定機が生まれる。


ここで健斗は1vs2の湘南有利局面を崩すため、まずボールを持たないフリーのFW瀬川へのパスコースを消す事を優先させる。

そしてボールを持つFW町野の前方をあえて空け、縦に誘いだし、町野が縦に仕掛けた瞬間に長い脚を伸ばしてクリーンにシュートブロック。

さらにそこからすぐさま立ち上がりこぼれ球を自ら回収して、身体をぶつけファールをもらうパーフェクトな対応で、1人でこの日最大のピンチから鹿島を救った。

そして最大限の仕事を果たしたうえで、ピッチを、スタジアムを煽る。

お互いチーム事情的にこの試合を勝ちたい特別な理由があり、戦略的にもしんどいカウンター合戦となっていたこの状況において、この一連の振る舞いが一気に鹿島のギアをあげたように感じた。


ここから次のプレーでは優磨が強引にロングシュートを打ち、続くそこからの相手のゴールキックでもボールを高い位置で奪うことで、ギアを落とさずに鹿島が勢いを持って戦う。

そして健斗の咆哮からわずか4分後、逆転ゴールが生まれる。


鹿島がハーフェーライン付近でボールを奪われてから、奪い返し、カウンター開始。
常本から優磨へとパスが渡り、そのままドリブルで運んで、ペナルティエリア内で優磨vs山本脩斗の1vs1に。

そこで優磨がキックフェイントで脩斗を振り切り、湘南のDF2人に対してアラーノ,仲間,上田の3人が待つ中央へ低いクロス。

これをアラーノが沈めて鹿島逆転。


確かに健斗のあのディフェンスは、このゴールシーンに直接的に関与はしてないかもしれない。
ただ優磨が脩斗をキックフェイントで振り切れたのは、健斗のディフェンスが生んだ数分前の優磨の強引なロングシュートが伏線として効いていたと考えられるし、あのプレーでチーム全体のギアが上がったからこそPA内にこれだけの人数が入ってきて、この状況を作れたのではないだろうか。

もちろん、このカウンターに素早く反応し必要な所に入ってこれる、フレッシュなアラーノと仲間という選手をピッチ上に送り込んでいた采配も大きく作用した。

この2つの要素が絡んで、鹿島はこの肉弾戦でリードを奪う事に成功。


遂にこの試合初めてのリードを奪った鹿島。
ただ残り時間は30分近く残っており、このカウンター合戦の状況をどう締めていくのかという難しい問題を抱えてはいたものの、ここでも依然効いたのがアラーノ,仲間のトランジションの強さ。


この2人は自陣から敵陣深くまで、そしてその逆でも上下動を繰り返し、このゲーム展開において途中交代で入投入されるということの意味を理解したうえで、チームにエネルギーをもたらした。

結果的に笛は吹かれなかったものの、67分のカウンターでアラーノからのパスで仲間が試合を決めるPK獲得に迫る惜しいチャンスを作り、それによって得たCKでも仲間がダイビングヘッドでポストを叩く。

その他の場面でも、この2人がトランジションに素早く反応し、積極的に相手陣地への押し込みに貢献をしていた。

そうして時計の針を進めながら、危険なシーンをDF陣が凌ぐ。
先ほどのプレーももちろんだが、この日は健斗、そして関川の2CBは相手のFW(町野・瀬川・大橋・ウェリントン)にほとんど仕事をさせず。
常本と安西もしんどい上下動を繰り返しながらも、90分広いカバー範囲を見せ守り切った。

1失点目こそ不運なリフレクションが絡んでしまったものの、その他の場面に関しては彼ら4人のDFは素晴らしい活躍で失点なく試合を締めた。


そして守備に関して、もう1人非常に大きな貢献をしたのが樋口だ。

この日は、後半開始~荒木が下がるまでの10数分間のみ2CHだったものの、それ以外の時間は全て1CH。

さらに攻撃時は、チームの戦略的にアンカーとしては普段ないような高さまで上がって行っての攻撃参加が求められ、守備時は1CHとして両サイドのピンチに駆けつけてCBとSBの間を埋めるカバーが求められた。

そのうえでこの日の樋口は、このミッションをやり遂げた。

試合の序盤から、いつ見ても必要な所に樋口が居た。

カウンター合戦となって上下動が激しくなっても、それが落ち着きピッチ全体の運動量と強度が下がっても、常に動いてしかるべき場所で効いている。
この日の特殊なサッカーで最もハードなミッションだったのは、個人的に樋口だと思っている。この日のパフォーマンスも圧倒的だった。

そうして後ろが粘り強く我慢して守り、残り15分まで来た所で、鹿島は土居に代えて松村を投入。

スピードが存分に活きるこの縦に広いピッチ上で、今季初の出場機会が訪れた。
投入直後からピッチを駆け回って、良さを全面に出す。



…リーグ開幕戦、ジエゴと樋口がCHとして圧倒的なパフォーマンスを見せ「健斗はこのチームでどう戦っていくのか」という疑問が浮かんだ所で、偶然にも関川が負傷交代して健斗がCBとしての出場機会を掴み、それがキッカケでこの日も健斗が鹿島の中心としてチームを引っ張るようになったり、

コロナと日程の影響で選手が激しく入れ替わるなかで、このカウンター合戦となった日にベンチ入りしたのが、その状況を得意とするアラーノ,仲間,松村だったり。

今季に入って、なんだか色んな追い風を感じる。

ただ、それは運によるものではなく、良い取り組みをして前へ進んでるこのチームが起こした追い風なのかもしれない。




このあとも、4日前の後半ロスタイムでの失点を糧とするように、高い集中力と強度で湘南を退け、2-1で勝利。

キツい状況と試合展開だったが、みんな本当によく頑張った。

そしてこれでヴァイラー監督はチーム合流後初勝利。
4日前の初陣大分戦で、残り数分で勝利を逃し、このままズルズルと未勝利で行く事は避けたかったため、ここでしっかり勝ち切れたのは非常に大きかった。


感想

本当に良いチームになってきた。

絶対的リーダーが居ない分、誰かに頼って着いていくのではなく、全員が自覚を持って自分にも周りにも厳しくやる。

日替わりで色んなことが試され、それに応じて各選手が自分の良さを出して躍動する。機能する。健全な競争も生まれる。


良いサイクルが回り出してる。
止まらず、前へ。

次も勝つ。

以上