その時、なにを信じるか


ザーゴ新監督が鹿島アントラーズに合流してから数日が経ち、いくつかの練習レポートがGELマガでアップされている。


それらを読んでいて改めて思ったのは、2020季の異常日程以前に、4冠を目指すうえで「指針を明確にすること」は必要不可欠なんだなという所。

指針がなければ、選手達は日頃の練習で「(このチームにおいて)自分に足りないものはなんなのか」を模索する所から始めなければならない。
ただ明確な指針、つまりチームにおけるプレーモデルやそれに伴う原則が明確に提示されていれば、選手達は「(このチームにおいて)自分に足りないものをどう満たすか」という一つ先の段階から、自らの成長に取り組める。この差が、そのチームにおける「主力の数」を大きく左右する要素になる。


個人的には、鹿島アントラーズの2017,2018,2019はこれに凝縮されてるのではないかと感じる。


4冠を本気で目指していくうえで、過密日程という壁を避けて通る事は不可能だ。この事実は受け入れ耐えるどころか、むしろ利用していかなければならないポイントなのだが、ここ数年は本当に悩まされた。

その最大の理由として
・主力選手の「離れていくスピード」

・主力選手を「生み出すスピード」
が追いつけなくなった、というものが挙げられるだろう。海外移籍へのハードルの高さが変わった事により前者のスピードはみるみる加速し、後者を追い越してしまった。これに関してはあくまで外的要因であり、優秀な選手を多く抱えるクラブとしては受け入れざるを得ない宿命だ。鹿島がこの流れに抗うには、後者のスピードアップという選択肢しか残されていない。

しかしそれに反し、ここ数年鹿島は「その選手が居ないとできない事」の割合を次第に大きくしてしまった。つまりやりたいサッカーの実現のために必要とするのが、「その動き」ではなく「その選手」になってしまった事で、新たな主力になっていくべきはずの(代わりの)選手が効果的に機能するのが非常に難しくなってしまったのだ。その結果替えの利かない選手を外す事ができなくなり、特定の主力選手の酷使が避けられず負傷離脱させてしまうという流れを、ここ数年数えきれないほど繰り返してしまった。

リーグ戦34試合だけを戦っていくのであれば、特定の選手依存のやり方でもあまり問題無く運用できるし、むしろその方が選手間での共通理解が深まりプラスに働く要素もたくさんある。しかし我々の目標が年間50~60試合を戦い、そのうえで最後に勝者となる事である以上、ピッチ上に常に要求するのは「その選手」ではなく「その動き」にしなければ成り立っていかない。そして「その動き」の基準となるのが、指針である。

https://twitter.com/megaseoyogi/status/1203193699166896128?s=20
新たに主力となるべき層の選手がピッチ上で効いていかなければ構造上間に合わず、
新たに主力となるべき層の選手がピッチ上で効くには指針が必要なのだ。

その点、しっかりと指針を提示する能力が認められているザーゴをこのクラブの監督にチョイスしたのは、現段階でしっかりとフロントを評価しなければならないし、同時に「実際にそれが実現できるか」という今後の評価基準として押さえておくべきポイントだといえる。


今年のテーマは「その時、なにを信じるか」だろう。もう40番の背中はピッチ上にはない。苦しい時やうまくいかない時、「誰か」ではなく、自分たちが迷わずまっすぐに信じられる「動き」をこのチームに築くことができるのか。それがザーゴに課せられた最大の使命だろう。







それと

今回は2020年シーズンから「指針を監督側から明確に提示していくという事」についてのメリットを書いたが、個人的には、2019年以前にそうしなかった事を否定するつもりは全くない。

なぜならあえてそこに着手せず、従来のやり方である『手を差し伸べた方が効率が良いのはわかってる。ただ、指針さえも自分で見つけ作りあげられる選手(達の集まったチーム)になって欲しい』というフロントの意向も、大いに理解できるからだ。

現にそのやり方で、2018W杯の日本代表のセンターラインに昌子源・柴崎岳・大迫勇也を送り込めたわけで。状況に合わせた指針を自分達で作り上げる能力 の育成という点において効果的である事はここに表れている。

さらに2019シーズンにも、鹿島でその効果が大きく作用したのも忘れてはならない。「土居聖真の覚醒」はその典型的な例だ。
岩政大樹さんの【バックナンバー】2019年10月 PITCH LEVELラボ | イズメディア・モールでの土居聖真の話を聞いた方には、この辺をすんなり理解してもらえると思う。このチームにおいて自分ができる最大の貢献はなんなのか?というのを「自分で見つける(見つけなければならない)」環境でこそ育つものも間違いなくある。個人的にはココを強調したい。

さらに親会社が変わるタイミングだったことによる事情や、この2020年というタイミングが(健斗を除いて)「出切る」タイミングだったという事を考慮すると、チームのリフォームならば2019でも良かったが、チームの新築をするなら2020がベターな選択だったのではないだろうか。


「やり方を変える」という事は、当然、前のやり方ではなくなるという事を意味する。新たに生まれるメリットもあれば、新たに消えるメリットもある。つまり、次のやり方への適切な評価という点において、前のやり方への正しい認識は切っても切り離せないものだという事を忘れてはならない。