誠実で優しい世界は、続く。 チェリまほ最終回に寄せて。

ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(通称 チェリまほ)が先週、最終回を迎えました。

このドラマを手掛けた本間プロデューサーは、実写化する上で「生身の人間が演じたときのバランス、観て傷つく人がいない作品、愛される作品にしたい」と語っていたように、ドラマ版チェリまほは、社会で生きていくほろ苦さも描きながらも、優しさと温かさが溢れた物語だったように思います。


最終回を振り返ってみると、関係を解消した安達と黒沢は、繰り返しの毎日に戻ったかのように描かれます。浦部先輩が心配して声をかけるほど、安達は精彩を欠いています。また、藤崎さんも、昼食の際、心配して声をかけてくれます。

藤崎さんが安達に言ってくれた「何を選ぶにせよ、自分がその自分を好きでいなきゃ。」という言葉は、自分に自信がなく、自分なんてと思いがちだった安達に響く言葉だったのではと思います。

次の日、黒沢とのデートのために取っておいた有給休暇を解消せずに家でぼんやり過ごしていた安達のところに、友人の柘植がやってきます。

喫茶店に連れ出した柘植は、「気持ちに魔法は関係ない。結局、自分がどうしたいかだ。」と安達を後押しするアドバイスをして、愛車の自転車を貸します。

そこから、安達は、1話で出た坂道を登ったり、自転車を必死に漕いで、黒沢が花火を見ようと計画していたアントンビルに駆けつけます。

いるわけないかと、諦めかけたところに、黒沢が安達の前に現れます。

そこで、安達は、勇気を振り絞って、「でも、おれ、やっぱり黒沢といたい。魔法がなくなっても、何回間違えても、そのたびに、黒沢のことを知っていきたい。」と、告白します。

この告白は、人との関わりをあまり持たないように、淡々と日常を過ごしてきた安達の大きな変化が分かる言葉だったように思います。

それに対して、黒沢は、「ずっと見てきたんだ。魔法があっても、なくても、安達は安達だよ。」と、安達を全面的に肯定してくれる言葉を話してくれます。その時に、7話の胸をトントンするシーンが流れて、涙が止まりませんでした。

その後は、黒沢のプロポーズや、ベッドでじゃれ合う安達と黒沢や、エレベーターでキスをする寸前の2人が描かれるなど、甘いシーンで物語はフィナーレを迎えました。

黒沢の元に駆けつける時のエピローグで、安達が「平凡な俺の人生に、いや、俺自身にこんな魔法がかかるなんて。すぐ逃げそうになる俺に、こんな風に背中を押してくれる人達がいるなんて」と語っています。

私には、このエピローグのように、安達が神様から授かった魔法は、顔を上げれば、周囲には、自分を理解してくれる人は必ずいるということ、誰かのために勇気を振り絞って行動することが自分も周囲も明るくしていくことに気づくということだったんじゃないかなと思います。

生きていくこと、働いていくことはしんどいことも多い。自分の殻に閉じこもった方が傷つくことは少ない。私自身も、まじめに誠実に生きようとしても、理解されなかったり、報われなさに打ちひしがれることもありました。

でも、少しの勇気と優しさを持って、顔を上げて、周りと関わっていけば、きっと、世の中は明るいものになるんじゃないか、そんなことを教えてくれたドラマで、勇気と温かな優しさ受け取らせてもらいました。

最終回にあたって、原作者の豊田悠先生が

「誠実さが報われる、フィクションの中でしかありえないと思っていたことを現実で目の当たりにさせいただいた事、私は一生忘れません。」とつぶやかれています。

魔法は誰の心にもあって、誠実さと、優しさを持って、世の中を見ていけば大丈夫と、背中を押してくれました。

これからも、時々、見返していく、大切な作品になりました。

この作品を世に出してくれた豊田先生、本間プロデューサーほかスタッフの方々、風間監督をはじめとする監督の皆さん、吉田先生をはじめとする脚本家の方々、そして、安達を演じた赤楚さん、黒沢を演じた町田さんをはじめとする俳優の皆さんに、たくさんの賛辞を送ります。ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?