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2001年虚構への旅

友達に「おすすめの小説を貸してください」と言われると、不安に襲われる。
その小説に英雄的な主人公がおらず、苦労の末の大成功がなく、感動的な科白がなくても、楽しく読んでもらえるのだろうか。

デイヴィッド・マークソン「これは小説ではない」
木原善彦訳 水声社

例えば、この夏に読んだ「これは小説ではない」という小説。
(表題で「小説ではない」といっているからには小説なのだろう。私はそう考えている。)

どのページを開いてみても白い部分が多い。
〈作家〉という登場人物の言葉。
固有名詞。
実在の作家や音楽家についての蘊蓄、あるいは彼らの作品や発言。
引用。
終始、三行に満たない断片が続く。

それらの連なりにいわゆる「おはなし」のようなものは見当たらない。
しかし、それらは無秩序に並べられているものではない。
エピグラフ、呼応する言葉、〈作者〉の存在などが積み重なり、私の中に虚構の世界が組み立てられていく。
そして私は、少し、泣きそうな気持ちにもなる。

パトリク・オウジェドニーク「エウロペアナ 二〇世紀史概説」
阿部賢一・篠原琢訳 白水社
素材を集めたコラージュのような作品といえば、少し前に読んだ「エウロペアナ 二〇世紀史概説」を思い出す。
伝聞や数字、学説や文化、戦争や科学が時系列を無視して並んでおり、明らかに一般的な歴史書ではない。
では歴史書でないとすればなんなのかというと、小説なのである。
言葉の羅列から浮かび上がるのは、歴史と記憶の物語であり、虚構についての虚構であり、悲しさと笑いがこみあげてくる人間の物語であると、私は考える。
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心は、何によって動かされるのか。
小説とはなにか。
虚構をつくる方法は。

そういったことに立ち向かうこれらの作品は最高に面白いのだが、友達にすすめてみようかどうかはやはり迷う。(貴方はきっと、本を読んで泣きたいのですよね?)

※このnoteの表題については、両作品の初出が2001年であることによる。

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