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人は慣れた作業をしている時に本音を話してくれる

2年前くらいに栃木県で散髪屋さんをやっている100歳の女性 箱石さんを取材させて頂いた時のことです。100歳の人が思う これだけはやってはいけないこと を調査するというバラエティ番組にしては硬派な企画でした。電車とタクシーを乗り継ぎ東京から約3時間、お店兼ご自宅にお伺いし、お話を伺った際、最初僕は、ご挨拶をして、企画趣旨を改めて、ご説明し、撮影をさせて頂きました。

構成としては普段、箱石さんがどんな生活をしていて、これまでどんな人生を歩んできて、そんな100年の人生を歩んだこの人が思うこれだけはやってはいけないことは何か?を教えて頂くというものでした。

取材の段取りはご挨拶して、部屋の中の様子をこの写真はいつのものですか?とか、ご飯はどうしているのか?とか、を伺って、最後、お客さんが座っている散髪台に座っていただき、これだけはやってはいけないことはなんですか?とお伺いしました。答えは「人を騙してはいけない」という内容でご本人の経験談から、人が辛い思いをしてまで自分が得をするようなことはしても、絶対後になって、そのしっぺ返しが帰って来るから人に恨まれるようなことは絶対してはいけないというものでした。全く回答としては申し分ないのですが、取材する側の僕はどこかまだ掘りきれていないというか、消化不良な気持ちが残っていました。

そのインタビューを撮り終えふと、あっ箱石さんが髪の毛をきっているシーンを撮っていないことにきずき、お客さんが来るまで待たせてくださいとお願いすると、この日はもう、お客さんは来ないと言われてしまいました。ただ100歳の理容師さんが実際に髪の毛を切る姿をカメラにおさめずに東京に帰るわけには行きません。

そこで、僕が自身がお金を払って箱石さんに切ってもらい、切ってもらいながらカメラを回してその姿を撮影しすることにしました。

最初は、ただ髪の毛を切って頂いてたのですが、改めて生い立ちだったりこれまでの人生の話を聞いていると、座って撮ったインタビューと比べて、飾らない本音が出てきました。一番 印象的だった言葉は、「ご主人が戦死されてその葉書が届いたのだけれども、ずーっと信じられず10年たっても20年、30年たっても、もしかしたらどこかで生きているじゃないかなーという気持ちがずっとあった。今は100歳だからもうさすがに生きてないだろうなとは思うけどね」と。この言葉を僕の髪の毛を切りながら淡々とお話して頂き、インタビューっていうのは必ずしも座って落ち着いた場所でとることが正解じゃないんだなということを学びました。箱石さんが80年以上 髪の毛を切り続けてきた方だからこそ、髪の毛を切りながら、お話する方がスラスラと純粋に思っていることを喋っていただけたんだろうなーと思いました。

座ってカチッととるインタビューもいいですが、画は定まってなくても、その人が自然体でいられる状況でお話を聞いた方が心をうつVTRができるんだなーということを学ばさせて頂きました。


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