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トリビュートの意味を、Creepy Nutsに、考えさせてもらった時間

 少し前、テレビを見ていたら、Creepy Nutsが、ゲストボーカルとして菅田将暉を迎えていた。

 菅田将暉に関しては、語るべき人はたくさんいるだろうけど、ただ、個人的には、いろいろなことができて、すごいと思うと同時に、「3年A組」(リンクあり)を再放送で見て以来、菅田将暉は、自分の才能を、どちからといえば、与えられたものとして使っているように見える。言い換えれば、大げさかもしれないが、使命みたいなもので動いているような気がしていて、それは、小田嶋隆氏(リンクあり)が大谷翔平を語った時の感じと、勝手ながら、少し似ていると思っている。

 そして、その番組でのCreepy Nutsの姿を見て、アジアン・カンフー・ジェネレーショントリビュート・アルバムでの、楽曲のことを思い出した。

AKG TRIBUTE

「ASIAN KUNG-FU GENERATIONバンド結成20周年を記念してリリースされる、初のトリビュート・アルバム。アジカンに影響を受けた若い世代を中心とした気鋭のアーティスト12組が参加する、リスペクト感溢れるコンピレーション・アルバムです」(ソニーミュージック オフィシャルサイトより)。

 2017年時点での「若い世代」なので、私のように新しい音楽に詳しくない人間が語る資格はないと思うのだけど、トリビュート・アルバムとして、かなり幅が広く、個人的には、その中の3曲が特に印象に残った。

ソラニン/yonige

 私には、yonigeの「ソラニン」は、おそらくは、アジアン・カンフー・ジェネレーションの「ソラニン」を、自分たちがファンとして聞いた時の気持ちの揺れや思い出が、そのまま表現されているように感じた。

 その「ソラニン」を聴いた時の昔の自分の気持ちを蘇らせながら、現在のプロとして演奏しているように聴こえる。それは、本当に素直に、自分たちがベストを尽くしたカバーをしているように感じ、それは、トリビュートの王道であって、これが1曲目にあるのも納得感があった。


ムスタング/リーガルリリー

 やはり基本的にトリビュートとして、素直さと、敬意が伝わってくるように感じた。

 ただ、アジアン・カンフー・ジェネレーションの楽曲を、自分たち「リーガルリリー」に提供されたとして歌っている、という印象で、さらに同じ曲でありながら、明らかに違って聞こえる部分は、よりエモーショナルなことだった。

 アジアン・カンフー・ジェネレーションの「ムスタング」は、知性に支えられたクールさのようなものも伝わってくるのだけど、リーガルリリーは、この曲に、どれだけの感情をこめられるか、を試みているようにさえ思えた。だから、その「ムスタング」という曲が、より近くに聞こえる。

 同じ曲で、聞いている途中ではそれほど感じないのに、聞いたあとの印象が、それぞれの「ムスタング」で、思った以上に変わってくるような不思議な感じがあった。心をこめる、ということをリアルに感じられる曲だった。


リライト / Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)

「Creepy Nuts」「リライト」は、違う曲になった、とも思えた。

 ヒップホップというジャンルだから、トリビュートなのに、まるで「リライト」をサンプリングしたような印象になる。

 だから、トリビュートとしては、すごく珍しいパターンに感じて、意外だったけれど、それは、元の曲が「リライト」=書き直す、という曲だから、その意志を尊重しているようにも感じるし、AKGの「リライト」と「Creepy Nuts」の「リライト」は、まったく違うように思うが、その言葉を両方とも読むと、(私自身が、どこまで理解しているかどうかは分からないのだけど)まだ何もできないのを身に染みるように分かりながらも、何かを伝えようとしたある時期の人間、という意味ではかなりシンクロしているのではないか、と思えてくる。

 Creepy Nutsは、中1と時期を限定しているが、AKGの「リライト」も、おそらくはその頃、俗にいう「中2病」といわれるような、自意識だけは大きく、何かできるはずなのに、まだ何もできてないし、何者でもない、そんな時期の根拠のない自信と、得体の知れない不安、そんな中にいて、それでも、なんとか言葉を出していくしかない、と決意と覚悟に引っ張られるような構造はすごく似ている。

 Creepy Nutsが、この「リライト」の中で、その時期を2004年と特定しているのは、その年にAKGの「リライト」が発売されているからだ。

 そして、そこから13年たって(このトリビュート発売の年)書いている言葉なのだけど、その13年の間は、AKGの表現も含めて、すでに、優れたものは「出尽くしている」と自覚しながら、それでもやってきたCreepy Nutsの苦闘の時間も含めて、表現されている。

 だから、その13年を一気に埋めるものとしての「リライト」でもあるように聴こえてくるから、一見、トリッキーな「リライト」が、考え過ぎかもしれないけれど、もっともトリビュートな曲にも思えてくる。

「ラップ問題」への、個人的な納得

 こうして、音楽にきちんと詳しくて、語れる人もいるので、素人が、今さら、何か語ってはいけないのではないか、という畏れはどこかであるものの、それでも、どんな人間にも広く届いてしまい、(時には時空を超えて)何かが伝わってしまい、何かを感じてしまう、という音楽の豊かさに甘えて、さらに続けたいと思います。

 この文章の中で、こんな指摘があります。

クリーピーなんか普通にアジカンのリライトの上でラップしてますからね。
「消してー!!」
『モイチドッ』
「リライトしてー!!」
『ソゥナンドデモッ』
 つって、正気か。オファーを受けた勇気を称えたい。ラップの内容からも「アジカンのファンに怒られそうだなあ…」という畏れが伺える。勇気を称えたい。それ以上こちらサイドから言えることは一切ない。

 確かに、その部分は、私でさえ、ずっと気になっていた。Creepy Nutsは「リライト」の中で、パクリではなく、サンプリング、というような歌詞まで書き、そういうヒップホップのシステムまで伝えているのだから、ここは、R-指定が言葉を載せる必要があるのだろうか、という気持ちだった。

 そのまま、AKGの「リライト」を使ったほうがいいのではないか、ということは、どこかで思いながら、時間がたっていた。


 それが、2020年菅田将暉ゲストボーカルとして迎えていたCreepy Nutsを、ミュージックステーションで見た時に、なんとなく分かった気がした。

 ここからは、推測に過ぎないのだけど、AKGの「リライト」を、サンプリングとしてだけ使うのではなく、後藤正文を、「ゲストボーカル」としても招いているという意識で、だから、一緒に歌っているつもりで、賛否両論を呼んだとしても、R-指定は、そこでラップをしているのではないだろうか。

 もしそうであれば、トリビュート としては、とんでもなく考え抜かれた作品だと、改めて思った。

トリビュート・アルバムの意味

 トリビュート・アルバムというのは、もちろん何枚か聴いたことがあるのだけど、それは、参加しているミュージシャンのファンレターだったり、信仰告白といったように思えることが多かった。

 それこそが、トリビュート・アルバムの正当な意味合いだと思いながらも、どうも分かったようで分からなかったのは、AKG TRIBUTEのように、賛否両論になり、しかも、アジアン・カンフー・ジェネレーションのファンで否を唱えている人もいるとすれば、「誰のために」出されるのだろう、という疑問は、ずっとあった。

 それについては、トリビュート・アルバムを出したことがある「チャットモンチー」が、これから出すタイミングで、その意味合いを率直に語ってくれている部分がある。

橋本:やってもらった人、今回でいえば私たちがいちばん嬉しい品物っていうイメージがあったんですよ。私たちも(奥田)民生さんやウルフルズのトリビュートに参加させてもらったことがあるんですけど、そのときも自分たちが楽しいのはもちろん、民生さんやウルフルズのみなさんに喜んでもらえるかなっていう気持ちを少なからず持ちながらやってたところもあって。だから普通のアルバムとは全然違う、おそらく本人たちがいちばん嬉しいであろう作品っていうイメージだったんですけど。今回、実際にトリビュートしてもらったら、まさにそのイメージ通りでした(笑)。

 そのアルバムが、贈り物であるとすれば、最初に受け取る人間は、何より、トリビュートされているミュージシャンであって、「AKG TRIBUTE」だったら、アジアン・カンフー・ジェネレーションであるのだろうけど、私自身は、情報弱者のせいで、その感想は分からないままだった。

 ただ、それほど詳しくない人間がいうのは失礼だとは思うのだけど、ファンの間で、賛否両論になるようなトリビュート・アルバムを出せる音楽家は、すごくかっこいいと思うのだけど、それは無知で無責任な発言だろうか。



(なお、さらに、すごく余計なことですが、アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文氏がナビゲーションしている、2020年9月13日の放送では、佐野元春氏がゲストとして登場し、その二人の話は、今のこのコロナ禍の中で、確かに希望が感じられる内容でした)。



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「夏の終わりに、聞きたい曲」が、3曲に増えた話。

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読書感想   『認められたい』   熊代亨  「承認欲求で悩むすべての人に」


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コロナ禍日記 ー 身のまわりの気持ち」① 2020年3月 (無料マガジンです)。

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