身近な奇跡(電車のホーム編)
電車に乗っていて、駅について、ドアが開いた。
それは、いつもの日常的な光景で、まだ目的の駅まではいくつも先なので、ぼんやりとドアの外を見ていた。ホームに降りてくる階段もみえる位置だった。
タイミング
発車を知らせるベル(というには、すでに違和感のあるメロディー)が流れると、駅の階段を駆け降りてきて、車内に走り込んでくる人も何人もいる。自分も数限りなく、そんなギリギリな走り込みをしてきた。そして、ベルも何度も流れて、そろそろ本当に発車しようとするタイミングで、三人が走って階段を降りてきたのが見えた。
たぶん、3人とも会社員で、いわゆるスーツ姿。ビジネスバッグのようなものを持っている。男性2人に、女性1人。ほぼ一体となって、駆け降りてきて、間に合ったとしてもギリギリのタイミング。階段で転ばないだろうか、と思うような動き。
それでも3人とも、ほぼ一緒に走ってきて、あと2メートルくらいで電車に乗れる位置まで来たのは見える。そうしたら、女性のヒールが脱げて、それを一緒に走っていた男性の一人が走っている足によって、ちょうどシュートのように蹴っていた。ヒールは低い弾道で、一直線に飛んでくる。
電車の床の方が、駅のホームよりも微妙に高い。乗るときは、少し足を上げて乗った。その本当にわずかな高低差のために、その一直線に飛んできたヒールは、電車の床の下の部分の車体に当たって、ガンという音とともに、さらに、電車とホームとの間のすき間を通って、線路まで落ちていったのがわかった。
ここまでほんの数秒。
動きの振り返り
しつこくて申し訳ないのだけど、動きをもう一度振り返る。
3人が発車寸前の電車に乗ろうとして、階段を降りて走ってきた。ホームから電車に乗り込もうとした。3人のうちの一人の女性のヒールが脱げる。その脱げたヒールを、一人の男性が走っているから、ちょうど蹴ってしまった。シュートのように低い弾道でヒールが電車に向かって、飛んでいく。そのヒールは、ホームより、わずかに高い電車の床に当たる。ヒールは、ホームと電車のすき間から、線路の場所に落下する。
3人は、そのまましばらく立ちすくんでいたようだった。
電車のドアは閉まって、走り出して、その3人の姿はあっというまに見えなくなる。
ほとんどない出来事
いろいろな意味で、気の毒なことだとは思うけれど、あれだけ完璧なタイミングで、脱げた靴を、一緒に走っていた人が蹴ることも珍しいし、その蹴られた靴が、真っ直ぐ低い弾道(シュートで言えば、とてもいいキック)を描いて、だからこそ、電車内に入ることもなく、とても細い場所に当たって、わずかなすき間から下に落ちるのは、失礼かもしれないけれど、奇跡的なことだと思ったし、そんな光景を見たことは、後にも先にもない。
あれから、落ちたヒールを駅員に拾ってもらい、その後の行動に支障がなければ、それが一番いいのだろうけど、どうなったのかも含めて、当然だけど、確かめることもできない。
こんなことが起こるんだと思った。だから、今でも覚えている。
(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。