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1分読み切り短編小説「天地創造」

僕は、今ただ真っ白い壁に
囲まれた迷路みたいなところにいる。

この空間には、何もない。

壁に絵画の一つでもあったら、

通路の花瓶に生けた
一輪の花でもあったら、

どれだけ心が躍るだろう、とさえ思う。

しかし、
壁には落書きのひとつすらない。

どこまでもただ無機質な空間が
そこにあった。

一体ここはどこで、
どこまでこの通路は続くのだろう?

次の角を曲がれば、
もしかしたら出口があるんじゃないか?

もう少し進めば、
きっと誰かがいるんじゃないか?

そんな一縷の望みは
ことごとく打ち砕かれた。

何もない。

どこかに抜け道でもあるのだろうか?

もしや、魔法の呪文でも唱えれば、、、
なんてバカなことまで考え始めた。

途方もなく長い時間
歩き続けている気がするし、

そんなに進んでいない気もする。

何も変わらないからだ。

答えが欲しい!

せめて、
ヒントが欲しい。

いや、こんな何もないところで
そんな願いは無駄なことだと、
やはり深いため息をつく。

もし誰かの仕業なら、
せめて壁に絵でも描いてくれていれば、
慰めになったのに。

ふと、
ポケットに一本の鉛筆が
あることに気がついた。

なかば自分を励ますつもりで、
壁に絵を描いてみることにする。

その鉛筆は
不思議な鉛筆だった。

驚くことに、

描いた絵には、
鮮やかな色が現れた。

花や木、山に、空に太陽に雲に。

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まるで、
壁に大きな窓が現れて、

外の世界を
見せてくれているようだった。

そうだ、
外の世界を自由に飛ぶ鳥が
欲しいな、
鳥を描こう。

すると、なんと!

描いた鳥は、
羽ばたきはじめ、
絵の中を飛び回っている。

花が時々揺れて、
風が吹いているのがわかる。

僕はそうして
夢中になって、

絵を描き始めた。

何もなかった真っ白い空間の
キャンパスに、

この世の美しい
心躍るものを
いっぱい描いた。

友達が欲しくなったら
友達をキャンパスに描いたし、

恋人や家族も描いた。

やがて
その絵の中に住む人たちを
描き始めた。

そこには
物語があって、

そのためには
悪いやつも、

悲しい出来事も描いた。

何もなかった世界は、

そうした対比によって
色鮮やかに美しく輝いた。

僕はこの真っ白い
何もない空間の

創造主となった。

たった一本の鉛筆によって。

(おわり)

作/画 りょう

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

(あとがき)

この話は、
なんとなく落書きした
真っ白い壁と空間を書いたものに、
「ムキシツ」(無機質)
という作品名をつけた
ところから

話を進めてみた。

天地創造の創造主を
知る由もないが、

僕たちがいるのは
ひとつの絵の中の
世界のようなことかもしれない。

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