小宮山さん画像2

VOL2:スタディサプリ教育AI研究所所長/東京学芸大学大学院准教授 小宮山 利恵子(こみやま りえこ)さん

1977年東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。国会議員秘書、ベネッセ等を経て「スタディサプリ」を展開する株式会社リクルートマーケティングパートナーズにて2015年12月より現職。 超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。教育新聞特任解説委員。財団法人International Women's Club Japan理事。米国国務省招聘プログラムInternational Visitor Leadership Program(Education in the Digital Age、2018年)、フィンランド外務省教育省招聘プログラム(2017年)参加。全国の学校等で情報リテラシーや未来の教育について多数講演。留学経験は、韓国(韓国語・国際関係学)、チュニジア(アラビア語)。


―この企画は教育の第一人者にお話を伺う企画です。教育の課題や展望、それからご自身の生きざまなどを主なテーマにしてお話をお伺いしていきたいと思っています。
小宮山:よろしくお願いします!


INDEX

1、すべての子どもたちに教育の「機会の平等」を付与したい
2、ゴール設定がされて、日本の教育が動き始めた
3、学びってもともと楽しいもの
4、いろんな価値観に触れて、自分の好きなものが見つかっていくのがいい
5、その人の良いところに目をつける
6、まず自分の好きを棚卸ろしすること
7.違和感のある環境を整え、「?」をつくり出す


1、すべての子どもたちに教育の「機会の平等」を付与したい

―先日、石田勝紀さんと共同で出版された書籍(『新時代の学び戦略 AI、スマホ・ゲーム時代の才能を育てる』)の中で、「今はやりたいことしかやっていません」と語られています。実際、どんな活動を日々されているのですか?
小宮山:まず、リクルートのなかのスタディサプリ教育AI研究所としての活動があって、ここではいま、教員の働き方改革のプロジェクトを主にしています。ICT教育がこれからの教育のカギになるといわれていますが、その前に、そもそも教員の働き方改革に取り組まないといけないという問題意識からできたプロジェクトです。去年の8月からつくば市と、東京学芸大、株式会社チェンジウェーブ、NPO法人東京学芸大こども未来研究所とチームをつくって一緒にやっています。つくば市は、この5月から現場の教員もチームに入れた教員の働き方改革対策チームを作り、そのチームと共に具体策を検討し今年(2019年)10月に施策を発表していく予定です。

―東京学芸大の准教授の肩書も持たれています
小宮山:この秋からイノベーション論の講座を持つことになっています。東京学芸大では2019年度から、教育支援協働実践開発専攻という新しい大学院の専攻が設置されているのですが、そこでの准教授としての勤務になります。

―リクルートの肩書と並んで持たれているのですよね
小宮山:はい。クロスアポイントメント制度というものがあって、この制度を利用しています。これは数年前に文部科学省と経済産業省が始めたもので、研究者が二つ以上の組織と雇用契約を結びながら、研究・開発および教育などを行うことを可能にする制度です。テニュア(終身在職権)である准教授としてこの制度を使うのはリクルートでは初めてだったようです。

―それでどんな活動をされているのですか?
小宮山:面白いお声がけをいただくようになってきて、いまたとえばANAさんと「旅と学びのプロジェクト」というものを始めています。

―「旅と学びのプロジェクト」!タイトルだけでそそられます
小宮山:旅ってそもそも学びの要素が大きいですよね。たとえばですけど、これからは自分の目で見て感じる「リアルな体験」にさらに価値が置かれると考えています。また、アイデアが既存の情報と新しい情報の掛け合わせと考えれば、コンフォートゾーンを抜けたところにある情報というのはアイデアの要素となる可能性が高いですよね。そういった意味で、旅には学びが多いと考えています。

―なるほどー
小宮山:あとは、地方自治体などに呼んでいただいて講演をしたり、最近は企業も教育に関心が高まっていて、ある証券会社さんは、学校を作りたいということでお声掛けいただき、そのアドバイザーをしたりしています。

―リクルートという民間企業の研究所長でもあり、国立大学というある種、公的な機関の准教授でもあるということになると活動の幅が広がりそうですね
小宮山:そうですね、リクルートの所長としてのご依頼もあれば、学芸大の准教授としてご依頼したいというお話もあって面白いですね。

―小宮山さんの中では考えておられるテーマは重なる部分が多いのですか?
小宮山:私、母子家庭で育っておりまして。それもあって、すべての子どもたちに教育の「機会の平等」を付与したいという想いがずっとありました。そのあとどうなっていくかはそれぞれでいいのですが、入口のところの機会はちゃんとフラットにしたい。そのための取組になるなら、ということで動いています。

2.ゴール設定がされて、日本の教育が動き始めた

―スタディサプリに参画されたのが2015年11月とのことですが、小宮山さんの想いと通じる部分を感じたということですか?
小宮山:はい。スタディサプリを初めて知ったのは2015年の6月~7月頃なのですが、当時していた東洋経済オンラインのライターの仕事で、教育とテクノロジーの連載をしていたときに、藤原和博さんに取材依頼を出したのです。そうすると、藤原さんから「もう一人取材してほしい人がいる」と言われまして。

―その「もう一人」とは?
小宮山:それがいまのスタディサプリの事業責任者の山口文洋さんでした。彼からスタディサプリの話を聞いて、こう言ってはなんなのですが、ビジネスの観点だけではなく、すごく教育に対するパッションも感じて、ある意味、なんかリクルートらしくない人だなと思いましたね(笑)。私の中ではリクルートってビジネスの点が強かったので、こんな想いを持った人がいるのだと。

―そのような出会いがきっかけだったんですね!
小宮山:教育というドメインってビジネスにするのが難しいですよね。時間もかかる。でも、彼がこの領域で本気で世の中をよくしたいと思っていることを感じたのです。その世界観に惹かれて、入社を決めました。

―そこから4年近く経ちましたね。世の中の変化を感じるところはありますか?
小宮山:変わってきましたよね。文部科学省だけでなく、経済産業省も「未来の教室」というプロジェクトを始めていますが、実際に数十億の予算がついて、EdTech領域を本格的に日本で推進していこうというムードができてきたのは大きいですよね。

―国が音頭をとるというのは大きなことですか、やはり
小宮山:ゴールが設定されていることが大きいと思います。入試改革は2020年度から実際に始まります。そうすると各所、動かざるを得ない状況にはなってきますよね。これは主体性教育もそうですし、プログラミング教育もそうです。

―変化の背景としてほかに押さえておくことはありますか?
小宮山:テクノロジーの発展は大きいですよ。これから5Gとかが入ってきますよね。日本は秋に導入されるということですが、そうすると映像での学習はより一層、アタリマエのものになっていくでしょう。

―ただこれ、いろんな受け止め方もありそうですよね
小宮山:同じ公教育であっても、首長や教育委員会の温度感は大きく違っていて、それによって教育改革のスピード感に差が生まれている状況だと思います。たとえば実は長らく教育先進県と言われてきて都道府県別の学力試験も上位常連のところなんかが逆に、テクノロジーが入りにくいという状況もあるように思いますね。

―いままでのやり方でうまくいっているという自負もあるでしょうしね
小宮山:ただ、いまの子どもたちは世界と戦っていかなければならない時代に生きていて、世界の子どもたちは当たり前のようにいまデバイスを使って学んでいます。そこに目を向けていく必要はあると思いますよ。

―変化に前向きな自治体はどんな自治体でしょうか?
小宮山:意外と島嶼部や山間部など地方の地域が多いかもしれませんね。私の子どもの通っている都内の学校は実はいまだにPC教室にしかデバイスがありません。一方、宮崎県の新富町は、ふるさと納税で増やした財政収入を、かなり教育予算に割り振って教育改革を進めようとしていますし、島根県の海士町も有名ですよね。

3、学びってもともと楽しいもの

―小宮山さんは世界の教育カンファレンスなどへの視察も頻繁にされているようですが、世界と比べての日本の教育の特長で気づくところはありますか?
小宮山:基礎学力は非常に高いです。ですが、その上に積み重なるクリエイティビティとか問題発見・問題解決とか、このあたりは弱点だと思います。正解が一つである前提の教育に縛られてきているからですね。あと、手先を使ったり五感を使ったりする学びも多くはないです。

―確かに、僕も公立校の教育で育ってきましたが、いま仰ったような学びを受けた記憶はほとんどありません・・・
小宮山:でも、シフトしたら早いと思いますよ、日本は。こっちに行くぞという方向が決まれば。いまはその過渡期にあると思います。

―こっちに行くぞという方向性がどう決まっていくかですね
小宮山:これは簡単ではありません。教員の働き方改革も進まないといけないし、保護者のマインドセットの課題もあるし、行政や中央政府の課題もあります。少子高齢化の問題もありますね。日本の公的な教育投資が少ないのはよく言われていますけど、これは少子高齢化という状況でそうならざるを得ないという側面もありますから。

―世界の教育のなかで小宮山さんが注目されているトピックはありますか?
小宮山:アメリカの教育を見ることが多いですけど、アメリカではギフテッド教育のような、先天的に、高度な知的能力を持っている人をいかに伸ばしていくか?という教育が進んでいるのはおもしろいですよ。日本ではあまりありません。

―ギフテッド教育という言葉を恥ずかしながら知りませんでした
小宮山:こういう子たちって、「変わっている」とか言われがちなのですが、こういう子たちの可能性を引き出す教育というのも、もっと日本でも進んでくるといいと思っています。最近、ギフテッド教育ではありませんがLITALICOさんとかが発達障害の子への教育の取組を始めていたりはしますけど。

―あと、先述の著書の中ではフィンランドのコア・カリキュラム(日本でいう学習指導要領)のコンセプトの一つに「ジョイ・オブ・ラーニング(学ぶ楽しみ)」が掲げられたという紹介もされていました。
小宮山:そうなのです。だって学びってもともと楽しいものであるはずですからね。なんで、しかめっつらしてやらないといけないのだっていう。

―そうですよね
小宮山:私と子どもたちとってもうマインドセットはぜんぜん違うし、生きる時代も違いますよね。と、なると「こうしなさい」は言ってはいけないと思っていて、環境だけ提案して、選択させるスタンスでありたいと思っています。大きく道筋を外れそうになると、「これでいいの?」と疑問を投げかけてあげるというくらいでちょうどいいです。

4、いろんな価値観に触れて、自分の好きなものが見つかっていくのがいい

―小宮山さんのお子さんはどんなお子さんなのですか?
小宮山:11歳、小学校6年生の息子ですけど、いまもう、友達の家に遊びに行かないですよ。ゲーム好きなのですが、インカムをつけてプレイステーションとかニンテンドースイッチとか、オンラインでつながってやりとりしていますからね。公園などで一緒に遊ぶ時はありますが、私の子ども時代とは全く違いますよね。

―そんな時代なのですね!驚きです。さきほど小宮山さんは母子家庭で育たれたというお話がありましたが、当時はどんなことを感じておられたのですか?
小宮山:常にお金のことを気にしていましたね。学びたいけど、私立の高校行って大丈夫かなとか。大学どうしようとか。結局、奨学金いただきまして、社会に助けられて教育を受けさせてもらったという意識が大きいです。

―お母様はどのようなお考えをお持ちだったのですか?
小宮山:母親は高卒なのですが、「教育は機会を作るから」といつも言ってくれましたね。じゃあ学び続けた方が、チャンスが広がるのかなという考えでずっとやってきたのがよかったのかなと思います。

―そうなのですね
小宮山:でも、そういう風に学ぶことの大切さを身近で言ってくれる保護者がいないような子もいるじゃないですか。なので、社会全体で学ぶことの意義を伝えて、学びが大切にされる世の中にしていきたいと思います。

―社会全体で子どもを育てていくということ
小宮山:そうです。保護者と先生だけが周囲で接する大人ということではなく、いろんな大人に触れることができる環境がいいと思いますね。その中で、いろんな大人のいろんな価値観に触れて、自分の好きなものが見つかっていくのがいいと思います。

―ちなみに何が好きなお子さんだったのですか?小宮山さん
小宮山:ゲームですね。ゲーム機から煙が出るくらいまでやっていました(笑)

―(笑)
小宮山:でも、ほんとに、自分が好きなものを見つけるって大事だと思うのです。そしてそれに打ち込むこと。私も、ゲーム会社のグリーに一時転職しましたし、ゲーム好きが転じて。ゲームと教育で何か出来ないかなとも思っていました。なので、保護者や周りの大人の役割は、環境を整え、選択肢を与えることに徹するということだと思います。

―お子さんにもそうされているのですか?
小宮山:はい、うちの子は、スキー、テニス、料理、中国語、英語いろいろしています。最後好きなものを続けてくれればいいと思っています。

―保護者の方、教員の方にとってこれ意外と簡単なことではないですよね
小宮山:自分の価値観に縛られちゃうと難しいですよね。そのバイアスを大人自身が破っていく必要があります。私自身もバイアスの塊だと思いますけど。

―どうすればそのバイアスを取り除くことができますか?
小宮山:いろんな方法がありますけど、新しいことを始めないといけないですよね。大人自身がコンフォートゾーンを抜ける体験をしていかないといけない。

―そうですよね
小宮山:以前、10年くらい前ですかね、当時勤めていた会社のミーティングで「リスクを取り続けた方が安定する」という話をしたら、失笑されました。きっと私、変な人というカテゴリーで当時見られたと思います。でも、いまいろんな人が「リスクとらないと」と言っているじゃないですか。自転車と同じで、こぎ続けないといけないわけです。この場合の「リスク」というのは、新しいことに興味を持ち、時間など投資してやってみるということです。

5、その人の良いところに目をつける

―ちょうど僕が30歳ということでいろんな方に30歳ころのお話もお聞きしたいと思って機会をいただいたのが、このインタビューなのですが
小宮山:まだ30歳ですか!

―まだ30歳でもあり、もう30歳でもあるという微妙な年ごろです・・・
小宮山:ちょうど7月に新著を出しますが、まさに塩崎さんの世代、30代に向けた本が出ますよ。

―速攻でアマポチします!タイトルはなんですか?
小宮山:『レアカで生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』です。「レア力(りょく)」。なぜみんなレッドオーシャンで生きるの?ということです。みんなと同じことをしていたら、母数が大きくて競争率が高くなる。そこから頭一つ出るのかなり難しいのではと。

―(耳が痛い・・・)
小宮山:そういう方の気づきになることを願って書いた本なのでぜひ。

―そういうことなので、30歳当時の小宮山さんのお話もお伺いしたいと思いまして
小宮山:29歳の後半で結婚して、出産までして、30になった年にベネッセに就職したのですが、いきなりドン底でしたね。

―普段の小宮山さんを拝見していると、ドン底というのは、想像がつかないですね。それにしてもなぜベネッセに?
小宮山:直前まで国会議員秘書をしていたのですが、就職先が見つからないわけです。国会議員秘書ってそもそも民間に出てこない人が多いのでどんなスキルアセットがあるのか謎でしょうし、子どもも小さいという悪条件。それで、いろんなところを受けました。

―どんなところをご覧になっていたのですか?
小宮山:某球団代表の秘書とか。私は他のチームのファンなのに(笑)

―笑
小宮山:いま思えば切羽詰まっていたということ(笑)。あと某銀行の、机の上を拭く仕事とか

―小宮山さんが机を拭いておられるのは日本の社会にとって損失なので、そこに就職されなくてよかったです(笑)
小宮山:そんな中でベネッセの話があって、当時の福武会長が最終面接で出てこられて、政治の話で盛り上がって、採用までいきました。それはよかったのですが、当時、私にとって民間企業の仕事が初めてだったので、そのやり方というか「しきたり」がわかりませんでした。国会議員の秘書は、0から100まですべてやるのです。しかしベネッセの秘書は線引きがあって、ジョブが明確に決まっている。それが分からなかったのですよ、始め。それでまた変な人扱いされて、精神的に辛い時期が続きました。

―そうだったのですね・・・
小宮山:私が変わって、周りに合わせていけばいいのだと気持ちを変えてから、うまくいきましたけど。そのあとは和気あいあいとなりました。

―会長秘書というお立場ですよね?
小宮山:最初、役員秘書という募集だったのですが、最終福武会長が面接で出てこられましたね。秘書をさせて頂いてよかったのは、様々なところに同行できたことですね。(本社のある)岡山にも何度も行ったし、あと直島。いまは瀬戸内トリエンナーレという人気のイベントを通年でしていますが、まだそんなに大きくなってないときに、直接案内いただいたりしました。彼の近くでいろんな話を聞かせていただけたのはおもしろかったですしその後の自分自身の人生を考えていく上でも参考になったことが多々ありました。

―経営者のお近くで仕事をされていての気づきってなにかありましたか?
小宮山:トップにはユーモアが必要だということですかね。

―なにか思い出はありますか?
小宮山:ベネッセに入って2日目に福武会長がコーヒーを飲みに行こうと言って下さって一緒に行ったのですが、そこで「出会いの奇跡」についてを、急に滔々と語られました。

―出会いの奇跡ですか
小宮山:こうして2人で仕事をするということの奇跡具合。そもそも私たちがこの世に生まれたこと自体奇跡だよね、と。

―そこからですか
小宮山:そこからさかのぼって、最終いろいろあってこうやって同じ会社で、上司と部下という関係で働く奇跡について語られまして、そこから人との出会いをより重要視するようになりました(笑)。一方でWeak tie の大切さとかも世間では言われていますよね。強い繋がりではなくても、そのような繋がりも大切にしたいです。

―人とのつながりを保ち続けるうえで大切にされていることはありますか?
小宮山:その人の良いところに目をつけるということですね。「?」と思うこともあるし、私もそう思われていると思うけど、そっちではなくて良いところに目をつけていくということ。

―それが小宮山さんの活動の幅広さの源泉なのでしょうね
小宮山:あと、思うのは、教育領域だけに関心をとらわれていてはいけないということですね。自分の価値観を広げる人との出会いをもちつづけるのは大事ですね。そうやって自分の中で積み上がった既存の価値観を壊さないと子どもに押しつけてしまいかねないので。


6、まず自分の好きを棚卸ろしすること

―ベネッセの頃にご苦労されていたのは意外だったのですが、小宮山さんの中で、好きなことをずっとやっているという感覚で人生を生きるようになったのはいつ頃からですか?
小宮山:どうですかね、直接的な回答ではないですけど、違和感のある体験というか、「?マーク」のつく体験を多くしてきたことが今につながっている感覚はありますね。

―と、言いますと?
小宮山:国会議員秘書のときなんかもそうですけど、よくわからないぬいぐるみを着て踊らないといけないこととかもありましたよ。

―へー
小宮山:いきなり山形に呼び出されて土日だけだと言われて行ったらそのまま3か月くらいアパート住まいになって地域活動することになったり。

―そうなのですね
小宮山:でもこれ重要で、やらされることで好きだと気付くことってありますよね。私、人とコミュニケーションをとるのが好きだって気づいたの、ベネッセを辞めてグリーに転職してからです。グリーの時に全国の学校をまわって、情報リテラシーの講演をしたんですよ。学校の先生、親、様々な学年の子どもと話す機会が多くありました。ベネッセの時は、会長まわりで会う人はいましたが、あまり多くの人とコミュニケーションをとる職種ではなかったですから。国会議員秘書の時には多くの人との出会いがあり、コミュニケーション力を養うには良かったのですが、自分が人と話すのが好きかどうかは当時、分からなかったです。

―いまはいかがですか?
小宮山:おかげさまで、裁量を与えられて自由にやらせていただいています。

―小宮山さんがこれまで築いてこられた「レア力」と言いますか、ご人徳のなすものですね
小宮山:でもこれ、私のような変な人をちゃんと理解し懐柔できる、いまでいう山口文洋さんのようなリーダーがいることが大きいですね。

―なにが小宮山さんの中でFITしている感覚なのですか?
小宮山:さっきも少し言いましたけど、そろばんと同時にロマンも持っていますよね。私はビジネスのことはあまりわからないけど、彼の語るロマンの部分に強烈に惹かれたことが大きい。

―そういうリーダーの背中に人は惹かれるということですね
小宮山:でも好きなことだけやっていたらいいという話ではないと思っていて、「好きを貫く力」+「コミュニケーション&マーケティング力」が必要な気がしています。

―と、いいますと?
小宮山:コミュニケーション力がないと、仕事にならなくてただの趣味になっちゃいますよね。自分が好きなものを追求しているだけ。マーケティング力がないと、自分の好きがどこで活かせるのかがわからない。

―7月の新著のエッセンスをいまお話下さった感じでしょうか?
小宮山:はい。みんなで渡れば怖くないという時代は終わっているので、まず自分の好きを棚卸ろしすること。ここからだと思いますね。好きがわかっていない人が多い印象です。

―はい
小宮山:好きがわかっていないと、学びが生まれないのです。リクルートでよく言われる「お前は何がしたいの?」っていうこの問い、むちゃくちゃ重要だと思いますね。

―これからの小宮山さんはどうなっていかれるのですか?
小宮山:1年後が見えてしまうとつまらなくなってしまいます。なんとなく自分が1年後やっている姿が見えてしまって、ワクワクが感じられなくなると、うーんってなります。

―わからないことの楽しさってありますよね
小宮山:そうなのです。別に完璧にそのフィールドをコンプリートしたわけではないのですが、ワクワクを感じなくなったらいま自分がいる場所はここではないという風に思うのでしょうね。そういう意味ではリクルートのいまの環境はワクワクする人が多くて好きです。


7.違和感のある環境を整え、「?」をつくり出す

―あと、さっきお子さんがオンラインでつながってゲームで遊んでいるという話をされていましたけど、これからリアルな場の価値ってどうなっていきますかね?
小宮山:ほんとに重要になりますよ、逆に。なので、私は時間があれば、子どもを外に連れ出すようにしています。テクノロジーの時代だからこそ、ファーストハンドの体験というのか、自分の目で見て、やってみて、というのが本当に価値になると思います。モノではなくて「体験」に投資できるかどうかがこれからの教育のポイントだと思いますね。

―体験価値というものですね
小宮山:そうです。でもこれいうと家庭環境による格差の問題とつながってきてしまう難しさがあります。なので、教育に対する公的な予算措置の増額は本当に求められてくるところだと思います。

―そこは行政の役割として期待されるところですね
小宮山:民間企業もやっていますが、やっぱり一番厳しい状況の子どもたちの全体的な底上げというのは、いち民間企業では難しい。

―それにしても、いろんな小宮山さんの息子さんはいろんな体験をすでにされているでしょうから、楽しみですね、将来
小宮山:国内だけではなく、フィリピン、シンガポール、インド、オーストラリア、UAE・・・いろんな国に連れて行きましたね。とにかく「違和感」を覚える場所に連れていく。

―違和感ですか
小宮山:「?」が生まれるのです。違和感を抱くと。「どうして目の色が違うの?」「どうして日本語が通用しないの?」「どうして手で食事するの?」など。

―なるほど。いま言われている探求学習と通じますね
小宮山:そうですね。問いが自分の中で生まれることが大事なので、その環境を用意してあげる。あとは自分で、追求するテーマを決めてくれたらいいと思います。

―本日は、多岐にわたるお話をじっくりお伺いできて楽しかったです。ありがとうございました!

改めて、小宮山さんの新書『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』に興味を持たれた方はこちらへ!
https://www.amazon.co.jp/dp/4040657292/ref=cm_sw_r_cp_api_i_fc1aDbS6773K2?fbclid=IwAR1JxoelcJ-TV8uQZXgrenS76no8iOYB6oFev-ZEwVY6nXxqG-eVuJp5BU0

(写真)中山雄太






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?