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体育嫌い=運動嫌い、とは限らないという話(エッセイ)

クライミングとの出会い

私は23歳でクライミングに出会いました。正確な時期は覚えていませんが多分その辺りだと思っています。それまで運動は嫌いだと思い込んで避けてきました。小学校では逆上がりが出来ず(逆上がりが出来たのは30歳を過ぎてから)、跳び箱も大して飛べず、縄跳びの二重跳びをしている子が神がかって見えていました。出来ない子グループの一員である私は体育館の隅で先生の「出来る子を見習って努力せよ」の暑苦しい指導を受けて更に虚しさを募らせ、絶望感の中でただ意味もなく身体を動かしていました。

学生時代

中学校に上がり、何人たりとも部活をやらなければならないという鉄の掟に出会います。とりあえず一番運動量が少なそうな(そう見えた)卓球部に、運動音痴な友人数名と入部しました。もちろん卓球に興味などありません。なんとなく時間を過ごして誤魔化せるだろうという目論見です。ある時、同じ校内で練習試合のようなものがあって先生の圧に負けて出席しました。ろくに玉も打てない私は全く何も出来ずに練習試合を終えました。周囲の冷ややかな目が思春期の私には辛かったのを覚えています。剣道の授業では一歩も動く事なく「始め」の合図からわずか2秒ほどで鮮やかな面を受けて終了。しかも相手は私より小柄な女の子です。

高校でも何か部活に入らなければならないというような雰囲気があり、やはりここでも一切興味のないテニス部に入部しました。しかし不運なことに顧問は熱血指導者。周りも練習熱心な生徒ばかり。練習もせず、引くほど下手くそな私は、熱血顧問からほとんど差別的とも思える発言を受けていました。その甲斐あって私はルールや体制に対する反抗心を着々と育て、真っ直ぐアナーキズムの世界に突き進みました。不登校気味になり、アブナイ世界の大人たちと一緒につるんでは家にも帰らずという堕落したライフスタイルとなりました。

そんなことで運動は向いていないという根を強烈に自分の中で育んだわけですが、大人への反抗心が「運動なんか絶対にやるものか」という行為となって表面化していたような気もします。

それから運動とは無縁な人生を歩むのですが、20歳になった記念にノリで友人と富士山に登りました。その後、数回山に登るようになります。ある時、残雪の赤岳で滑落の危険を感じ恐ろしくなって引き返したことがありました。その時の悔しさはしばらく私の中に残りました。今考えるとあの時の悔しさがクライミングを始めたキッカケかもしれません。

運動とは

クライミングを始めてすぐに自然の岩場に行きました。それから狂ったように練習し始め自分でも驚くほどのめり込みました。クライミングのフィールドも地元周辺から日本全国。東南アジア、アメリカ大陸、オセアニア、ヨーロッパと留まることなく広がります。クライミングを機に登山も長期縦走を始め、長いときは10日ほど文明から隔絶した山の生活を送ります。カヤックを使ったキャンプツーリングで川を下ったり、時間と金を全て注ぎ込みながら運動ばかりしていました。気付いたら40歳。結婚して子供が出来て、長期での遠征が出来なくなったら、今度はサーフィンを始め、スケートボードも始めます。バックカントリーでは足を固定しないスノーボード雪板も始めました。

そして数年前ふと思ったのです。
私は体育が嫌いなのであって、運動は大好きなのだということ。私がクライミングジムを経営しながら一切コンペを開催しないのもそれが理由でした。

運動が体育になった途端「上位を目指す事」が重要視されますが、そんなのどっちでも良いんです。自分が楽しい、幸せだと思えるちょうど良い湯加減を見つける方がよほど価値のある事だと私は思います。

最後に

学校で体育が苦手で悩んでいる子供たちにメッセージです。

自分が持っている世界観を大切にして下さい。運動なんかカテゴライズするものじゃないんです。家の近所を走り回るのも運動です。先生に怒られながら廊下を走るのだって運動です。体を使った移動自体が運動です。クライミングは「地面から壁を登って山頂に行きたい」と誰かが思い立ったところから始まったはずで、最初はそんなものに名前やルールは無かったと思います。だから世の中のスポーツのどれもが苦手だったら自分で作ってしまえば良いと思います。

学校は自分の好きなことと、そうでないことを知るチャンスを与えられている場でもあります。だからこそ、自分にとって何が楽しいかを真剣に感じ取ることがとても大切なんです。

成績や点数は習熟度を記録する道具です。道具には何かを決定する働きはありません。決定するのは自分自身。自分にとっての楽しい方角を見失わないように。楽しいと思える方角、それが向かうべき道です。

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