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更年期かと思ったら、そうじゃなかった その4

こんなことは今までなかった。
何が違ったのだろう?

診察の帰り道、自分の身体の感覚に首を傾げた。

身体の何処にも内診後に感じる独特の違和感…挿入の異物感が全く残ってなかった。
今までの経験だと、大なり小なり違和感というか感触が残るんだけど。

H先生が女性の先生だから?
いや、今まで女性の婦人科の先生に診察していただいたことは何度かあるけど、やっぱり何か入った感じは残っていたはず。
何故だろう?

手順は今までの婦人科の先生方の診察と変わらなかった。
いつものように診察台に身体をのせて…
覚えてるのは、ついて下さる看護師さんが優しく穏やかに声を掛けて下さったこと。
「先生は診察の準備をなさってるから、もう少しだけ待ってね」
先生の到着を待って内診が始まった。
「ちょっとごめんなさいね…台が持ち上がるから」
診察の間もずっとこまめに声を掛けていただいた。
「ごめんなさいね…ちょっとエコー検査入ります」
今のエコー検査ってすごいですね。潤滑のジェル塗らなくてもいいんですね~と思わず言ってしまったところで、カーテンの向こうで先生が応えてくれた。
「そうなのよ~新しいのがどんどん出るのよ~」

壁のディスプレーに映し出された映像はすごく鮮明というほどではなかったけど、診察しながらの先生の説明がすごくわかりやすかった。黒々とした画像の中の小さな白い点が、星座のようにカーソルで結ばれて行く。自分の子宮の中の小さな筋腫のぽこぽこがどうなっているのか、初めてここで腹に落ちた。
「ごめんなさいね、ちょっと中を拝見しますね」
内診の時のひんやり冷たい感じが全然なかった。たぶん内診に使う器具を体温と同じくらいに温めてあるのだと思う。
カーテンの向こうから、診察している先生の声がゆっくりと聞こえてきた。
「ごめんなさいね…あ、出血ね…経血(生理の時に出る血)じゃないわね…赤い、赤いわ~」
どうやら生理不順による出血ではなかったらしい。
内診はまだ続く。
「ごめんなさいね~ちょっと子宮頸がん検査のために採るから…痛いです。ごめんなさいね~」
子宮頸がん検査の為のサンプル採取とは、具体的にいうと内臓内側の壁をちょっと削り取ること。
はっきりいって『痛い』。一瞬だけど、痛い。
この瞬間、違和感と痛さのあまり勝手に内臓が動いてしまう。だって痛いものは痛いし。子宮だって膣だって胃や腸と同じように内臓だからどうしようもない。

今までの先生は「すぐ終わるから!お願い」とか「あ、止まって!」となんとか終わらせるんだけど、H先生は違った。
すごく具体的でシンプルな身体の使い方の指示が出た。
「ごめんなさいね~痛いよね~まず息を吐いて…もっと吐いて吐き切って…そうすると腹膜が下がるから、固定されて動かなくなるから~ごめんなさいね~ちょっとだけ痛いです~はい!終わった~!」

エコー検査の映像を見ながら、事実が積み上げられていった。
「血が赤いのはね~この筋腫の場所がね~ちょうど当たる壁をこするような感じで傷つけてるからなのよ~出血の原因はね~生理じゃないみたいなの。後でゆっくり説明しますね」

内診台を降りた後、看護師さんが下着に貼り付けるライナーを手渡して下さった。
「子宮頸がん検査の後はちょっと出血するから…下着に貼って下さいね」
こまやかな気遣いがありがたかった。

着衣を整えて、先生の到着を待った。
戻って来た先生は、内診の結果についてセル画のようなイラスト図を使いながら説明して下さった。
どうやら、更年期かどうかは血液検査結果の詳細とこれから私がつける基礎体温表を見てみないと何ともいえないが、不正出血は子宮筋腫の当たりどころが良くなくて壁をこする時に傷がついて出血しているようだとのこと。
大きさは直径5~7mm程度の小さなもので、手術の必要はないとのこと。
『子宮筋腫』というと、生理がある女性の4~5人に1人の割合で発生するもので、そんなに深刻に考えなくても大丈夫!ということ。……などなど。
不安も晴れて明るい気分でお礼を申し上げて、診察室を後にすることができた。
その2週間後、血液検査結果の詳細と基礎体温表の結果から,私の身体は更年期まではまだまだ遠いということがわかった。

今までと違ったこと。
それは、診察して下さったH先生やさんとのお話しが内診前も最中も後もずっと続いていたこと。
わかったことはわかった・わからないことはわからない、とはっきり説明してくださったこと。
そして何よりも、H先生も看護師さんたちも私の中の不安に耳を傾けていてくれたこと。
不安なその瞬間に焦点を当てて、対話を続けてくださったこと。
技術も素晴らしかったけど、何よりも不安が生じたその瞬間に耳を傾けてこまめに応えて下さったことで、不安や不満が残らなかったことに感動したのだった。
内診後の違和感があまり身体に残らなかったというのは、内診前の看護師さんの傾聴で腹の底から納得して内診を受け入れられたことと、内診中ずっと話しっぱなしだったので内診の違和感どころじゃなかったからだろう。
不安はすぐ積もって大きくなるから、対話や説明によるこまめな解消が大事なんだな。

ひとつ気になったことがある。
「待てない」患者さんもいるということ。
私が今回お世話になった病院は事前予約制といえども、いろいろ事情もあるだろうから30分ぐらいは軽く待つことになる。
そこで待てずにキャンセルして帰ってしまう人もいた。
お仕事や生活の合間に時間を作って待つことがなかなか難しい立場の人もいる。
もしくはすぐに結果が出ることに慣れてしまっている人もいるかもしれない。
せっかく予約が取れたのに…といっても、それぞれ事情もあることでしょうしとやかく言えることではない。けれども、患者側にも、『待つ・待たされる覚悟』は必要だ。
生身の身体が相手の医療行為は、開けてみないとわからない。
言葉だけを並べていく占いとは違うのだ。

何か身体に変化が生じたら、悶々とした不安を抱えていいかげんなWeb情報を見たりよくわからないサプリに手を出したり宗教に入信して祈りまくるよりも、いいお医者様を探して、予約の電話をする方がよいです。
時間とお金、そしてこころの節約ができます。

思ったよりも長くなってしまいました。
拙い文でしたが、読んで下さってありがとうございます。
このささやかな文章が、あなたの不安や疑問の解消に少しでも役立ちますように。

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