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【読書】『いちご×ロック』

本日紹介する作品は、著・黒川裕子『いちご×ロック』

あらすじ

高校受験に失敗した海野苺。母親からは優秀な姉・夏見と比べ落ちこぼれの自分に諦められているし、父親は痴漢の容疑で疑われている。しかも、憧れのシオンくんからは想定外の告白?の末、振られた。地味で平凡で何の取り柄もない自分に最悪な出来事の連続。嫌気がさした苺は土曜授業をさぼって江戸川河川敷にいた。すると、車両の騒音にまぎれて聞こえてくる激しい音。そこには、ドラムをたたくシオンくん、学校一の問題児、笠間緑(かさま みどり)ことロク、年齢不詳の仙人が摩訶不思議なパフォーマンスをしていた。
江戸川ラ・ボエームの仲間たち、エアギターとの出会いがモヤモヤしている苺の心に風穴を開けていく、ロック×青春のガール・ミーツ・ガール物語。

感想

ロックならではの疾走感やチームになり切れていないバンドメンバーたちとの泥臭さみたいなものが、青春ならではの爽快感として表現されているような印象を受けました。
主人公の苺は自分や家族に対してモヤモヤとした気持ちを抱えながら、上手くそれらを発散したり、表現しきれずにいます。確かに、年頃の女子にとって父親が痴漢で逮捕、なんて話はかなり衝撃的ですし、高スペック家族の中で唯一受験に失敗なんてのもトラウマになってしまいそう・・・。そんな彼女が半ば強引に足を踏み入れることとなったエアギターを通しての感情が特に印象的だったのでご紹介します。

本物じゃないなら、何にだってなれるはずだ。

『いちご×ロック』p.88

エアギターは本当に楽器を演奏するわけではなく、架空のギターを創造して観客と共有するパフォーマンス。わかりやすいスキルの指標がないぶん自由度が高く、だからこそエアギターは中途半端な優等生でモヤモヤしている苺にも「これならできるかも」という期待を抱かせると同時に心にフィットしたのかな、と思わせる一言です。
そして、父親と疎遠のクールなシオンくん、脆弱体質で死にかけたこともある中性的な少女・ロク、面倒見のよいシオンくんの母親・流歌さんや自由奔放なUG。苺以外の同級生や大人、それぞれのキャラクターの個性や背景も作品を盛り上げる要素の一つとなっています。
ロックやバンドに疎く、エアーバンドといえば「ゴールデンボンバー」くらいしか知らない私でも楽しめる物語です。音楽系YAの開拓もしてみようかな。

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