私たちがペーパー離婚して事実婚にした理由
私たち夫婦は現在、事実婚である。一度は婚姻届を出して受理されたが、ほんの数年で離婚届を提出し、同時に夫が世帯主の住民票で私の続柄を「妻(未届)」とした。それからもう10年以上、事実婚である。
私たちが事実婚にした理由は、夫婦別姓が認められないからだ。
最初は夫の氏を称することとして婚姻届を出した。それでも私は旧姓を名乗った。近いうちに選択的夫婦別姓が認められるんじゃないか、そんな期待もあった。
だが、結婚と同時に遠方へ引っ越し、病院にかかる際は保険証を使うから旧姓は使えず、そうなると旧姓で呼ばれるような機会はほとんどなかった。
抑も名前を変えたくないという気持ちは私の方が強い。夫は仕事上の不便と親(主に父親)への建前で、将来的には私の名字になっても別にいいと言ったこともある。が、私は全然夫の名字になりたくない。そんなのはもう自分ではないと感じる。
何故生まれてから30年近く名乗り、呼ばれ続けた名前を手放さなければならないのか、納得できない。個人を識別する記号である名前を強制的に変えさせるなんて、とんでもなく横暴な行為ではないか。名前とはアイデンティティではないのか。
夫の名字の私は、私自身が一番「知らない誰か」だと思っていた。1年2年経っても慣れるどころか、違和感は増すばかりだった。気持ちが悪い。これは無理だ。我慢できるようなことではなかった。
私は自分のアイデンティティを失ったのだ。
それを取り戻すには、ペーパー離婚して事実婚にするしかなかった。元々子供を作るつもりは全くなかったし、問題は相続くらいである。扶養控除など、名前を返してもらえるならどうでもいい。私にとって、名前とはそれくらい切実な問題なのだ。
夫と2人で役所に行き、離婚届を提出して、同時に続柄を変更した。担当者は「未届は将来的に結婚する意思があるということだから、離婚届出してすぐはちょっと……」と渋ったが、「でももし今、選択的夫婦別姓を認める法律が出来たら、今すぐ婚姻届出しますよ?」と言ったら受理してくれた。
今では住民票に旧姓を併記でき、それを元に運転免許証やマイナンバーカード、パスポートにも旧姓を併記することができる。でも、そうじゃないのだ。名前を変えたくないのだ。
どんなに旧姓使用できる場が増えても、名前を変えたくないという根本的な要望は全く叶えられていない。
何故、その人が長年名乗ってきた名前を当たり前に奪うのか。何故、それを拒むことを我儘というのか。何故それを女性に当たり前に押し付けるのか。何故、選択的夫婦別姓すら認めてもらえないのか。
伝統? 夫婦同姓が定められたのは明治民法が施行された明治31(1898)年からで、それ以前は明治9(1876)年の太政官指令により「婦女は結婚してもなお所生の氏(婚姻前の氏)を用いること」とされていた。
伺之趣婦女人ニ嫁スルモ仍ホ所生ノ氏ヲ用ユヘキ事
但夫ノ家ヲ相続シタル上ハ夫家ノ氏ヲ称スヘキ事
たかだか120年で何が伝統だ。源頼朝の妻は北条政子じゃないか。ちゃんちゃらおかしい。
家族が同じ名字じゃないと困ることなど、実のところ特にないと思う。名字だけをよすがにしている家族なんか、遅かれ早かれ崩壊するだろう。いや、既に崩壊しているのではないか?
子供に何て説明するのか、などと言う人もいるが、ありのままに説明すればいい。クラスに親が離婚したり再婚したりして名字が変わった子がいても、みんなそういうものなんだな、色々あるよね、と納得していただろう。子供はそんなに馬鹿じゃないし、むしろ大人よりも頭が柔らかい。
何故、男女間で対等に交わされるべき「婚姻」という契約で、片方は名前を変えることを強制されねばならないのか。
納得できる答えを、私たちは未だ目にしたことがないし、これからもないと確信している。
モヤモヤしたまま法律婚をして夫の名字を名乗っている女性は、一定数いるだろう。男性もいるのかもしれない。
事実婚でも今のところ困っていないが、早く別姓で婚姻届を出したいのが私たちの本音だ。
選択的夫婦別姓を早く認めてください。
夫婦に同姓を強制するのは、古き悪しき家制度の亡霊のようなものだ。
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