仕事中の電気工事士

㉑車が要る、其の三。

⑳車が要る、其の二。からの続きです。

と言いつつ、床屋の話も続きでしたね。
恐怖の九龍城の床屋は、散髪の腕もまずまずで親切だった。心配していた散髪料も、それまで行きつけだった店の1000円から700円に値下がりした。不慣れな場所の恐怖感さえ克服すれば、早い、安い、うまい、ではないがいい線行っていた。何せ店には話しをしに尋ねてきた老人以外、人がいるのを見たことが無かった。後に地域開発のためにその店は佇まいをそのままに廃墟となってしまったのは残念無念。

話は戻ってカナダの商業地域だ!車だ車だ!
恐る恐る入っていったトタンで囲んだ一角の中はポンコツ屋同然の出で立ち。やはり人っ子一人いない。他所へ目をやると巨大なプレハブ風の作業場があった。そしてここに一台の車が止まっていたのである。車が止まっているのは中に人がいるサインだが、必ずしもそうとは限らない。

私は数年後に別の会社で働いていたが、そこの会社では泥棒よけに外から目立つ場所に24時間いつも車を止めていた。その車はエンジンがかからなかったが、何でもスピードメーターを交換するだけで25万円もする車だったと言う。それでも会社の裏手に積んであった大量の銅線ケーブルが二度も盗まれた。被害は億単位に及び、さすがに二度目には防犯カメラを取り付けた。

話が逸れた。意を決してその巨大なプレハブに入ってみる。ここもまた巨大な廃墟の一角にあるポンコツ屋だった。中は広くて壁沿いに並んだガラクタの数々。奥には大きなピックアップトラックが鎮座していた。何せ中はライトが点いているので人がいるのが分かった。

そのトラックの第一印象は『とにかくでかい』だった。こんなでかいトラックで運ぶ荷物は手の平に乗るお弁当くらいなものだ。暫くするとテロリスト風情の男がやってきていきなりショットガンを構えてこう言った。


と言うのは冗談で「ああ君か、車を探しているんだって?」

といきなり話が弾んでそのトラックの説明に入った。まあとにかく古いトラックでオートマチック3速でシフトはコラム式。ベンチシートのエアコンは窓を開けるタイプ。三角窓がついているところも憎い。

男は言った「来週に来れば修理が終わっているから試乗できるよ」いろいろと質問したいところだったが、カナダで車を買ったことが無かったため、何を聞いていいのかも分からなかった。それで言われた通りに出直すことになった。

来週なら冬までには間に合うだろう、しかしこれから塗装作業に入ると言うことで、早く終わらせてもらうために手伝いを買って出た。緑と白のツートンカラーのそのトラックのマスキング作業をする。まあこの程度のことなら普通に出来るのでいろいろな話しをしながら作業を進める。

一緒にいるとなかなかの良い人で、話しは結構弾んでしまった。


いよいよ来週の試乗だ。


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