身バレしたお姫さま
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身バレしたお姫さま

Lichia/リチア

商店街の外れにある実家の美容室には毎日いろんなお客さんが来ていた。中でも週三で来店してくれていた常連のMさんは強かった。

いつもタクシーで店まで乗り付けるから目立つというわけじゃなく。明るい髪色にエジプト壁画のようなアイラインに濃いアイシャドウ、つけ睫毛の下には日本人離れした高い鼻。昭和の人間が言うところのバタ臭い雰囲気に加えて、大判柄の派手なドレスにハイヒールといういで立ち。今でいうならナジャグランディーバさんを派手にした感じで、下町らしからぬ風格にとにかく目を惹く人だった。私にとっては、きせかえ本に載るようなドレスを実際に着ている人がいる事と、そういう服を普段から着てもいいんだと知ったことのほうが衝撃だったけど。

「リチアちゃんえらいなァ!!!お母さんの掃除のお手伝いして!!」
Mさんのお会計が閉店時のはき掃除と被る時、大きく野太い声で小学生の私を褒める。タッパがあって迫力ある上にとにかく声がよく通る。いつだったか、幼かった妹がMさんを見るなりギャン泣きしたこともあったっけ。
「おばちゃんこんなだけど全然怖くないわよ~!!わはははは!!」
可憐なドレスの花柄とは裏腹に豪快に笑うMさんは、とにかくオーラがあって華のある女性だったので少し羨ましかった。
でもそんなMさんには、うかがい知れないある秘密があった。

素性がわからない。

もうかれこれ何年もお店に通ってくれてるのに、母ですら名前以外の情報をなんにも知らないのだ。
今なら個人情報保護法でよくある話かもしれない。しかし関西のおばちゃんが2人寄ろうものならポロっと身内話でもしてしまうものなのに、Mさんは多弁なのに一切自分の話をしない。他人に話を振られるといつもサラっとかわすので、周りもなんとなくぎこちなかったように思う。

Mさんは服装だけではなく髪型にもこだわりがある。毎回セットする母の目はいつも真剣で、何度かやり直したこともあったらしい。仕上げは必ずハーフアップの縦巻スタイルだ。ふんわりさせるけれど崩れない。子供の頃に流行っていた”ぬりえ”の中のおひめさまとソックリだ。帰り際には、気分良く高揚したMさんの声が普段の二倍響くので二階にいてもすぐわかった。

後姿を見ながら、化粧も服装も特別で、きっちりセットしてるからどっかの飲み屋のママさんかなあとか、それともフラメンコ習ってるんかな等、妄想が止まらない。でも、飲み屋の人なら美容院にとっては上客だし隠す必要はないし、フラメンコにしては髪のセットがゆるすぎる。
「なにをしてるにせよいつも来てくれるお客さんには変わりない。あんたもあまり詮索しなさんな。」
仕事熱心で生真面目な母をMさんは気に入り、何年も頼りにしてくれていた。母は絶対にお客さんを詮索しないポリシーがあり、MさんはMさんで来店時に次の予約を入れるので、ずっとわからないままで信頼を繋いできたということだ。母からやんわり窘められ、思春期を迎えた私は次第にMさんを気にしなくなった。

「わかったで。」

私がすっかり大人になった頃、家にいると唐突に母が切り出してきた。
「え?何が?・・何がわかったん?」
「何がて、ほら、あのMさんのことや。」
「・・・えっ??ああ、えっ??ほんまに?てか、、なんで今なん?」
阪神大震災で実家の店を手放してからもう随分経つというのに、まるでさっき知ったみたいに母が言ってくるので面食らってしまった。

「いやな、なんやとおもう?」
「なんやろな、わからんわ。やっぱりクラブのママさん?」

「違うねん。・・・・さかなやさん。」
「えっ??なんて??」
「だから、魚屋さんやて。さかなやさん。」

母が言うには、お店を閉める前にたまたま来ていたお客さんがMさんの事をよく知っていて、
『あのMさん、魚屋の奥さんやのに、〇〇からここまで遠いのに髪をしに来てるはるんやねえ。』
と悪気なく話したのがきっかけだった。なんともあっけないけど身バレするときって案外こんな感じだと思う。何度聞いても、ハーフアップ&ドレスのMさんと魚屋が結びつかなかったので母はてっきり冗談だと思ったらしい。

「嫌やったんのかなあ・・・魚屋さん・・」
「わからんけど、、あの人は魚の匂い一回もさせたことないで!」
「そりゃそうやろ。でも言ってくれても良かったのになあ。」

今から思うと、だからタクシーに乗ってきてたのかなとか、気にしてたからこそたっぷり香水つけてたんかなあとか、声が大きくてよく通るのはセリかな、などと合点がいく。うちは商店街の近くだったから、八百屋の奥さんも来れば和菓子屋や肉屋の奥さんも来ていた。私は魚屋でいいやん・・とぼんやりと思っていたし、むしろその方が人気がでるやんとも思っていた。あんな高らかに大声で笑う華のある人でも、何か思うところがあったのかな。

ナジャグランディーバさんや、ハーフアップのお姫さまが描かれたグッズを見る度に私はいの一番にMさんを思い出してしまう。母が店を畳んでからはMさんは自然と来なくなった。今もお元気なら、歳は80歳くらいかなと母が言っていた。もし今ならインスタで人気が出てフォロワーが沢山いただろう。私はまたMさんに会いたくなっている。


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Lichia/リチア
台湾人と国際結婚し18年。大阪から台湾に渡り、紆余曲折あって2015年に帰国、夫婦で頑張っています。 平凡なのか非凡なのかわからないアラフィフ女が綴る昭和的エッセイです。 読んでくれてありがとうございます!