見出し画像

『ついうっかり太宰治を読んでから』 #8月31日の夜に

のちにそれは、『中二病』と呼ばれることを知った。

中学二年生の私はある日、ついうっかり太宰治の本を手にした。どの本を読んでも、彼は本当のことを喋ってるという確信がした。それに比べて、それまで会った大人たちも、子供たちも、そして自分自身も、なにかにつけて自分をごまかして生きていると思った。

私は太宰のように、「自分に正直に生きて行かなければならない」と思い込んで、学校の勉強をしなくなった。成績はみるみるうちに落ちていった。

学校は私が本当に知りたいと思ってることを教えてくれない。私が知りたいと思っていたのは、「人はなんのために生きるか?」ということだった。それに答えずに、どうでもいいことを覚えさせられていることに我慢ができなくなった。

今、思えば、中二の私は純粋すぎたし、やっていることが極端すぎた。もうちょっとフレキシブルに生きて行かれなかったのかな? 私の生き方は損だった。言われたことだけ勉強してれば、いい学校を出て、いい就職ができたのに。

しかし、その頃の私はそんな風に自分をごまかすなど、もってのほかだった。太宰治の苦しみを自分も背負って生きて行こうと思った。と言うより、死にたいと思った。

あれから何十年もたっている。恐ろしいことに、私はあの頃とさほど変わっていない。多少、楽に生きて行けるワザは身についた。でも自分をだますことはやはりできない。いまだに「人はなんのために生きるか?」ということを考えている。

そしてそれを小説に書く。この夏、私は、『ついうっかり太宰治を読んでから』というタイトルの小説を書いている。私は大人になっても、10代のあなたが少しでも安心できるようなことを言ってあげたいから、毎日それを考えている。自分を表現する手段を持っていることに感謝したい。生きづらいと思っている若者や大人に、私の小説を読んでもらいたい。

私は双極性障害という病を抱えているから、他の人より何倍もくよくよ悩む。思えば、中二の頃、あんなに毎日、一日中、「なんのために生きるか?」を考えていたのも病気の症状だったと思う。

「いいじゃない、もうこんなにがんばったのだから」と、自分をほめて、許してやろうと思うこともある。だが、私は太宰のように、小説を書くがわの人間になったから、ウソをつくことができない。

正直に話そう。10代のあなたは、今、生きているのがつらいと思っている。それは大人になっても変わらないんだ。もし、あなたが純粋に生きて行こうとしたなら。

でも、考えて。自分が本気でつらさを感じたら、自然にほかの人のつらさも感じてあげられるようになるだろう? あなたが死んだら、ほかの人たちがつらい思いをする。あなたはそうじゃない、と思っても、絶対、つらい思いをする。太宰が死んだことによって、どのくらい大勢の人がつらいと思っただろう? 私はウソはついていない。

今、できることをすべてしよう。必死にやろう。君が学校の教育方針をみとめられなくても、勉強してみたいことや、興味のあることはあるだろう? そこに喜びを見出せるかもしれない。学校が自分に合わなくても、転校や、他のオプションがあるかもしれない。私が十代だった頃より、選択の幅は広がっていると思う。それはとてもうらやましい。

我慢してはダメだ。行動しよう。大人に相談しよう。死ぬよりはいい。

私が今、書いている小説には、高校生のラップシンガーが出てくる。彼が書いた詩を、みんなに贈ろうと思う。

死ぬってどういうこと? 誰も知らない。
生きるってどういうこと? 誰も知らない。

落ち込むのはつらい。
どうして我慢してるの? 助けて、って言って。
俺に言えばいいから、
ドクターに言えばいいから、
誰かに言えばいいから。
ネコだってイヌだって、聞くだけは聞いてくれる。


いつか幸せになれるの? 俺には分からない。
このまま不幸のままなの? 俺には分からない。

待ってればいいの?
どうして待ってるの? 助けて、って言って。
俺に言えばいいから、
友達に言えばいいから、
先生に言えばいいから。
小鳥だって金魚だって、君のこと愛してる。

俺が君を愛してる。誰からも愛されない、
って、思っても、俺が君を愛してる。

あまり上手な詩じゃないけど、これは私が書いたんじゃなくて、高校生の登場人物が書いたんだから。

私が十代の時、どんな本を読んでも、「人はなんのために生きるか?」の答えが見つからなかった。私はいつも、自分の書く小説の中で、なんとかそれに答えようと思っている。

考えたことが一つある。人って、なにかを「好き」っていう気持ちがあれば生きていけるんじゃないか? 落ち込んでいる時、「好き」って思う気持ちを探すのは簡単じゃないかもしれない。人でもいい、物でもいい、「好き」って思うなにかを探そう。

私に言えることはこのくらい。どのくらいあなたのためになったかは分からないけど、もし10代だった私がこれを読んだら、ちょっとだけ気持ちが楽になったんじゃないかな?




この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

55
小説書き。生きづらかった日本を脱出して単身カナダへ。恵まれた自然の中でプロを目指して執筆中! 書いた作品は80作以上。短編はマガジンにまとめました。長編はこちらから⇒ https://ehappy888175296.wordpress.com/

この記事が入っているマガジン

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。