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ド演歌キングクリムゾン

20211214note_キンクリ1

 キングクリムゾン@東急文化村オーチャードホールに行ってきました。この日はジャパンツアーの千秋楽。もちろん、このバンド、赤い顔のLP(みなさんご周知)を自室の鴨居に飾って、ご利益があるように拝んでいたぐらいに(嘘)、中・高校生時分のアンセム。プログレは断然、ピンクフロイドとイエスだったのですが、キンクリに関しては、「嫌いなセンスだけど、無視できない」という現在、ワタクシがシューマンやら、伊福部昭に感じるモノとの同質を想うのです。
 キンクリには、青春の思い出がいろいろとまつわりついているのですが、それを語っても面白くないので、今回感じた、このバンドの魅力、面白さ再発見をお伝えしますね。
 まず、メロディーがド演歌。それもおしゃれなムード歌謡系ではなく、『Cort of the Krimson King』の節回しは、ぴんから兄弟や冠次郎といったハードコア系のそれ。「こぉ〜とざくりむぞんき〜んぐ」や「こんふゅ〜じょん うぃるびまい えぴた〜ふ」ってね! ボーカルのジャッコ・ジャクジクの、初代ボーカルのグレッグ・レイク踏襲の歌声が、脳内でついつい冠次郎に変換してしまうのに往生しました。
 そしてここからがキンクリの凄さなのですが、そのド演歌メロに、ロバート・フリップの冷徹なループギター(フィリッパートロニクスと言って、彼が神秘主義者グルジェフから影響を受けた反復修行の表出であります!)が関わり、アフリカンテイストのタムを多用した三台のドラムによるドラミング、ド演歌に異物が干渉していくのです。一度、キンクリは、エイドリアン・ブリューというアイディアとフリーフォームの鬼才を入れて、「えぴた〜ふ」のロマンを消したに見えたんですが、やっぱ最晩年に還暦しちゃったぜ。
 とはいえ、シンセサイザー!! ですよ!! メロトロンの音色をメインに白タマの和音のロングトーンが強烈に音楽を特徴付けており、ド演歌がその音色を得たとたんに、本当に唯一無比の情感が立ち上がる。ショスタコーヴィチの第9交響曲のあのスットコドッコイ旋律が名演奏では、悪夢と皮肉が表現されるのと同様の、デスね。こういうことがあるから、音楽は面白いんですよ。
 みなさんメンバーがお歳なのでこの音色をナマで堪能できるのが最後なのですが、ワタクシが思ったのは、こういう「ロック殿堂入り」楽曲は、もはや家元制度にして、弟子が受け継いで演奏し続けていくのはどうか、という画期的なアイディア。完コピーやクラシックの譜面再現芸術ではなくて、落語や日本舞踊のような、変化しながら受け継いでいく古典、ってヤツですよ。
 実はクラシック界には、プログレを演奏する「モルゴーア・カルテット」という爆クラにもゲストで来ていただいた元東京フィルハーモニー交響楽団ソロ・コンサートマスター荒井英治さんのユニットがあるのですが、これなんてまさにそう。
「てゅうえわんせんちゅり〜 すきっそいどめーん」ああ、アナタと越えたい天城越え〜っと。

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