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「くるりの歌詞、雨が多いなあ」と思ったので、メジャー以降全200曲調べました

私は、歌詞を読むのが好きだ。

5分前後の曲に、そう長くはない文章。歌詞だけを読めば1分もかからないだろう。

短い文章の中に、時には映画、時には小説、時には誰かの生活をのぞき見しているような感覚を覚える。たまらなく好きだ。


歌詞を読まない人がいると知ったとき、驚きを隠せなかった。「音楽が好き」といっても、人によってさまざまなのだと知った。


歌詞は、曲に添えた適当な文章ではない。

適当に書いたなら、もっと訳がわからない文章になっているはず。つまり、多少なりとも時間をかけ、曲にあわせて文章を作っている。

好きな歌詞も、好きなアーティストもたくさんで、うれしいことに毎年増量中だ。

アーティストにハマったきっかけは、すべて覚えている。


くるりにハマったのは、2014年にNHKで放送された『THE RECORDING』だ。

NHK『THE RECORDING』は一発録りで演奏・収録するという、特殊な番組だった。


それまで、くるりの曲を聴いたことがないわけではない。代表曲『ばらの花』『ワンダーフォーゲル』を「なんか聴いたことある…」程度に知っていた。


『THE RECORDING』のくるりの回には『ばらの花』にコーラスで参加した、フルカワミキさんも出演。くるりよりも、ミキちゃん目当てで観た。

ミキちゃんは私が愛してやまない、スーパーカーというバンドのベース・ボーカル担当。スーパーカーは2005年に解散したため、地上波の番組にミキちゃんが出演するなんて大事件だったのだ。


私も夫も音楽好き。ミキちゃんを除けばさほど深い意味はないまま、『THE RECORDING』を2人で観た。なんとなく観るつもりだった。



なぜ今まで聴いてこなかった…?と人生を悔いるほど、とてつもない楽曲の数々。1曲目の『ワンダーフォーゲル』からラストの『奇跡』まで惹き込まれたまま、観終わった。

メロディ、歌詞、演奏、歌声、コーラス、何もかもが素晴らしくて、うまい言葉が見つからない。


放送中、歌詞が出ていたことは大きかった。


まず『ワンダーフォーゲル』『ロックンロール』『ワールズエンド・スーパーノヴァ』とカタカナが際だつ3曲が続く。

ドゥルスタンタンスパンパン 僕ビートマシン
ー『ワールズエンド・スーパーノヴァ』


デビュー曲『東京』、そのB面の『尼崎の魚』。京都出身のバンドなのに、デビューシングルには京都以外の地名が入っていて、変わってるなあと思った。

『東京』の歌詞はエネルギッシュな上、他人の日記をのぞき見しているようだ。『尼崎の魚』は打って変わって、空想と現実が入り混じったような歌詞。

話は変わって今年の夏は暑くなさそう
あい変わらず季節に敏感にいたい
ー『東京』


恋や愛を垣間見られる、『ばらの花』『loveless』『ジュビリー』の3曲も披露された。

愛はどこでも 消えない気持ち
懐かしむこと 慈しむこと
ー『loveless』


『Remember me』『奇跡』はどちらも歌詞に涙が出てくる。メロディも相まって、涙を誘う。

神様ほんの少しだけ 絵に描いたような幸せを
分けてもらうその日まで どうか涙を溜めておいて
ー『奇跡』


度肝を抜かれた『everybody feels the same』『Liberty & Gravity』。


私が特に惹かれた歌詞は『虹』『ブレーメン』だ。

錆びた線路際 涙枯れた六地蔵
何もない広い野原 戻ることも嘆くこともない
ー『虹』


同年に発売されたアルバム『THE PIER』を聴き、くるりのラジオを毎月聴くまで時間はかからなかった。

『THE PIER』は私が聴いたアルバム史上、1番か2番に好きだ。「無人島にアルバムを1枚だけ持っていくとしたら、何を選ぶ?」と尋ねられたら、ギリギリまで『THE PIER』にするか迷うだろう。


くるりにハマるきっかけとなった番組を収録した『THE RECORDING at NHK101st』と、『THE PIER LIVE』がセットになったDVDはもちろん購入。



過去のアルバムは全て聴き、気がつけば今はくるりの故郷京都に住んでいる。くるり主催の野外ライブ「京都音楽博覧会」にも足を運び、すっかり虜だ。


初めて行った京都音楽博覧会、通称:音博(おんぱく)は2016年。記念すべき第10回目で、さらにくるり結成20周年とめでたい年だった。

出演者はくるり以外にTété、矢野顕子、Mr.Children、QURULI featuring Flip Flip Philipp and Ambassade Orchester。


初参加の音博は、楽しみすぎて眠れなかった。しかし、そんな楽しみとは裏腹に、天気予報は雨。カッパ必須の回でもあった。

雨は会場の熱気をよそにだんだん強くなり、ミスチルとくるりの岸田さんの貴重なコラボが終わる頃には土砂降り。ついには雷も鳴り始めた。


トリを務めるのは、QURULI featuring Flip Flip Philipp and Ambassade Rochester。くるりとオーケストラによる特別編成だったため、チケット当選を知ったときからずっと楽しみにしていた。

ところが雷雨は続き、トリを前に中止。

くるりの佐藤さんが涙ながらに仰った「やりたいけれど、皆さんを危険にさらすことはできません」に、すべてが詰まっていた。“できません”と伝えるまでの悔しさや無力さ、悲しみ、いろんな気持ちが混ざっていた。


主催のくるりが中止を告げると、なんと!会場からは大きな拍手が湧いた。雨をカモフラージュにして泣きながら、音博のあたたかさに触れた。

数時間後、LINE LIVEでQURULI featuring Flip Flip Philipp and Ambassade Rochesterの生配信が行なわれ、またくるりへの愛が深まった。


生配信が終わり、ふとこんなことを思った。

土砂降りはさすがに量が多すぎたが、祝いの雨だと感じた。そして、くるりの歌詞には「雨」が多い。

例えば、前述した『ばらの花』はこんな歌詞で始まる。

雨降りの朝で今日も会えないや
-『ばらの花』

メジャーデビュー曲『東京』でも、雨が降っている。

雨に降られて 彼等は風邪をひきました
-『東京』


「くるりの歌詞は雨が多い」というネットの声も見つけた。同じように考えているのは、私だけではないようだ。

でも、疑問も生じる。



本当に…本当に、くるりの歌詞には「雨」が多いのか……?


土砂降りの音博以来、ずっと疑問だった。
そこでこの疑問と決別すべく、実際に調べてみた。


歌詞に「雨」と入っている、くるりの曲

まず、くるりのシングルA面41曲を調べた。

シングルでは前述した『東京』『ばらの花』以外に、次の曲の歌詞に雨が登場。

知らぬ間に蝉時雨もやんで
ー『街』
気づいたら雨が降ってどこかへ行って消えてゆき
- - - -
ほらまた雨が降りそうです
ー『春風』
雨だから傘もない何も考えられない
- - -
雨の中かき消されるか細い声が
- - -
河は淀む涙の雨降らせても
ー『リバー』
笑ったまま次の雨降る土曜日の朝に
ー『BIRTHDAY』
雨の日も風の日も なんで僕は戻らないんだろう
ー『JUBILEE』

こうして読み比べると「歌詞に雨が入っている」といっても、雨が降ったり、やんだり、降りそうだったり、いろいろな表現があって面白い。

雨のときの状況も、さまざまだ。


いやいや。面白いとか、知ったかぶってる場合ではない。シングルに「雨」と入っているのは、この7曲だけだったのだ。


7曲…。


あれ…少ないな……。




……ゴホンゴホン。

私は潔くない人間だ。

めげずに、シングル以外(シングルB面とアルバムの曲)159曲も調べた。
(※インディーズアルバム「もしもし」の歌詞が分からなかったので、今回調べたのはメジャーデビュー後の曲のみ。)


数々の曲に雨が降っていたが、すべて紹介するとそれだけで読むのが(書くのが)大変なので、私が特に好きな曲を抜粋する。

くるりの曲は毎度ながらメロディも素晴らしい。しかし、今回は歌詞を中心につらつらと書く。


『さよなら春の日』

『さよなら春の日』はこれだけで1記事書きたいぐらい、歌詞も曲も好きだ。ことごとく“さよなら”で、ことごとく“春の日”。タイトルは『さよなら春の日』以外に見つからない。

歌詞はこのような出だしで始まる。

春のうららの 僕の旅路は
とても日差しが あたたかでした
ー『さよなら春の日』

文字だけでも、まさに春な感じがする。“あたたかでした”と平仮名で書くことで、より春らしい、あたたかな感じが際立つ。

歌詞の中に、雨はこのように登場する。

昨日の方が雨降りでした
ー『さよなら春の日』

“昨日の方が”と書いているため、昨日も今日も雨が降っていると予想できる。例えば「今日も雨は降ってるけど 昨日の方が降ってた」なんてダサい。11文字でサラッと表現できる能力、私もほしい…。

そして、終盤の歌詞。

行けば哀しい道のりだろう
あなたの瞼の中で泳ぐ
ー『さよなら春の日』

たった2行で、小説や映画のラストシーンのような、壮大な雰囲気がする。この曲に限らず、ぜひとも曲そのものを聴いてほしい。メロディにこの2行があわさると、泣きそうになる。


『ブレーメン』

『ブレーメン』も映画のような壮大さがある。

そのメロディーは街の灯りを
大粒の雨に変えてゆく
少年の故郷の歌 ブレーメン君が遺した歌
ー『ブレーメン』

実はこの『ブレーメン』、最初のAメロで“少年は息を引きとった”とある。“大粒の雨に変えてゆく”までの流れがたまらない。

『ブレーメン』の歌詞を読むと、まるで映画を1本観終わったようだ。そして打ちのめされる。どう生きたらこんな歌詞を書けるんだろう?と。


『飴色の部屋』

タイトルですでに目を見張る。飴色と聞いて、私が思い浮かべるのは玉ねぎぐらいしかない。

飴色に染まってゆく
ー『飴色の部屋』

私の部屋だって、人生で何度も何度も夕焼けに染まった。しかし、飴色だなんて考えたことはない。もし岸田さんが、くるりがこの曲を発表しなくても、私は部屋を飴色だなんて思わないだろう。

雨はサビに出てくる。

止まない雨はまた僕らをひとりぼっちにする
ー『飴色の部屋』

“僕ら”と複数形なのに、“ひとりぼっちにする”。ひとりぼっちにする!!!ああ…飴色に続いて、また打ちのめされる。しかもサビ。ひれ伏すしかない。


『Amamoyo』

くるりの歌詞のほとんどを、ギター・ボーカルの岸田繁さんが書いている。時々他のメンバーの方も書く。

くるりは雨に何か大きな恨みがあるのか、因縁なのか、共存したいのか、好きなのか、嫌いなのか分からないが、他のメンバーの歌詞にも雨が入っている。

あめはたびのあいずだ
ー『静かの海』(作詞:岸田繁/佐藤征史/大村達身)
低空飛行の雨雲も 川沿いに逃げてゆく
ー『dog』(作詞:吉田省念)


『Amamoyo』の歌詞はベース・ボーカルの佐藤征史さんが書かれた。作曲も佐藤さんだ。名盤『THE PIER』に収録されている。

低い雲は 雨を降らせる証で
- - - 
五月雨 小糠雨
やまない小夜時雨
村雨 怪雨
やまない春時雨
ー『Amamoyo』

タイトルで雨の歌だと予想はできたが、知らない雨の登場に驚いた。小糠雨や怪雨がどんな雨か調べたのを思い出す。

私が考えたとて分かるわけがないが、くるりと雨は切り離せない関係なのだろうか?

・ ・ ・

佐藤さんの歌詞は、岸田さんとはまた違ったよさがある。少し話がそれるが、佐藤さん作詞作曲といえば『ホームラン』が外せない。

『Amamoyo』も『ホームラン』も、佐藤さんの歌詞は少しおちゃらけた感じがする。とても好きだ。初めて聴いたとき、岸田さんの歌詞ではないな…と何となく感じた。

太陽が溶けて スクランブルエッグになっちゃった
ー『Amamoyo』
風船を飛ばして おどけたふりして
ー『ホームラン』

2曲とも良い意味でおちゃらけていて、どこか可愛らしくて、力強い。

アー 窓を破ったボールを
僕は投げ捨てるでしょう
ー『ホームラン』
絶対に花は実を結ぶ
ー『Amamoyo』


『ハローグッバイ』

雨が入ったくるりの歌詞の中で、ダントツで好きな曲だ。私が好きなくるりの曲ランキングで3位以内に入る。


今回このnoteを書いた理由は、3つある。

1つ目はcakesコンテストで受賞するため(歌詞について書く連載をしたい)。2つ目はくるりの歌詞の魅力を伝えるため。3つ目は『ハローグッバイ』へのラブレターを書くため。

一言で書くと、『ハローグッバイ』が好きすぎるのだ。

初めて聴いたときも、今聴いても、おそらくこれからも、ずっと泣きそうになる。雨はほぼラスト、後ろから2行目に降る。

いつからか
あなたのこと忘れてしまいそう
この次はいつだろう
歩きたいのに雨が降っている
ー『ハローグッバイ』

“歩きたいのに雨が降っている”、ここで泣きそうになる。歩きたい。歩きたいのに、でも、雨が降っている。やるせない。切ない。胸がギュンとなる。

でも、初めて『ハローグッバイ』を聴いたときに思ったのは、まったく違うことだった。


4コマのエンディング曲はこれだ!!これしかない!


心底叫んだ。

私はnoteで4コマを描いていて、現在は第2弾を連載中だ。『ハローグッバイ』を聴いたときは第1弾『あまがみ犬とぼく』を描いていた。

あらすじは、次の通り。

ある日、神様のあまがみ犬(けん)が人間界に降りてきて、なぎ君という男の子の頭に乗る。頭に乗ってなぎ君を見守りながら、ともに過ごし、「守り神」の修行をする。修行が終わると、あまがみ犬は天上(あまがみ)界に帰ってしまう…。

『ハローグッバイ』を初めて聴いたとき、“あなたのこと忘れてしまいそう”にあまがみ犬となぎ君を重ね、心をギュッとつかまれ、とても強く惹かれた。

さらに“歩きたいのに雨が降っている”と続く。あまがみ犬はなぎ君と別れ、人間界を去る。

反射的に脳内でアニメ化し、エンディングで『ハローグッバイ』が流れたのは無理もない。聴くタイミングを含めて、まるで仕組まれたような感覚を覚えた。



本題を元に戻す。今回、くるりの歌詞には本当に雨が多いのか調べた。

シングルA面41曲、アルバムやカップリングは159曲、合計200曲。雨が登場したシングルはまさかの7曲だった。

アルバムやカップリングは……






31曲!


つまり、200曲中38曲、19%の歌詞に雨と入っている。


多い……のか…………?


調べる前、40%は行くだろうと思っていた。それぐらい、くるりの曲には雨が入っているように思っていたのだ。実際に調べてみると、20%にすら届いていない…え、嘘やん……。

降水確率が20%だと、私はほとんど傘を持ち歩かない。雨が降らないと思っているのだ。そうなると、19%は多いとはいえない。


そして、今更ながら気づいた。他のアーティストの歌詞を調べていない!だから比較しようもない…嘘やん……。

もし「このバンドは歌詞に雨が30%」「この歌手は5%」などと分かっていれば、比較ができる。

しかし比較には別の問題がある。全アーティストを調べるなんて、到底時間が足りない。かといって、アーティストを何組(何人)かピックアップするのも困難だ。どのアーティストと比べたらいいのか分からない。


いや、待てよ…?

そもそも今回は、「くるりの歌詞には雨が多いと感じたけど、はたして本当か?」この疑問を確かめたかっただけだ。

もし50%なら、2曲に1曲は歌詞に雨と入っている。多いといえるだろう。70%や80%なら、胸を張って雨が多いといえる。

19%。

19%は他のアーティストより多いのか、少ないのか分からない。だから、少ないとは断定できない。

分かったのは、私が予想していたよりも少ない。これだけだ。



感覚は感覚。あてにならないこともある

「くるりの歌詞、雨多いなあ」と思ったのは、偶然そういう曲を立て続けに聴いていたからだろう。

ちなみに、200曲調べているとき「食べ物とか飲み物が出てくる曲も多いなあ」と思った。

『ばらの花』に出てくるジンジャーエール、『愉快なピーナッツ』『りんご飴』『カレーの歌』『ハム食べたい』などはタイトルに食べ物・飲み物がある。


くるりのほとんどの歌詞を書かれている岸田さんは、牡牛座だ。牡牛座はネットや本で、食べることが好き・美食家・食いしん坊などと書いてある。

何を隠そう、私も牡牛座なのだ。朝起きたら、何を食べるかまず考える。なお美食家ではない。

岸田さんの歌詞に食べ物が多いのは、うっすら納得できる。




いや!いやいやいや、納得できる…じゃねえ!早まってはいけない。納得するのはまだ先だ。

というわけで、くるりの歌詞に食べ物・飲み物が多いのかも調べました。



爆速で結果をお伝えすると、シングルA面8曲、アルバムやカップリングは32曲。計40曲、くるりの曲のうち20%に食べ物・飲み物の歌詞があった。

雨のときと、さほど変わらない…嘘やん……。


歌詞を調べた時間は、諸々の作業コミコミでおよそ8時間。フルタイム1日分の時間を費やした。

「雨が入った歌詞は78曲もあった!」とか「2曲に1曲は食べ物・飲み物が!」とか予想していた。

予想は大幅に裏切られ(くるりは何も悪くない)、分かったのは、私の感覚はあくまでも感覚だということ。なんとなく「多いなあ」と思っていたのだ。


予想通りかそうではないか調べて、「予想通り=いい」「違った=ダメ」でくくりたいわけではない。どちらかといえば、「あっているか」「あっていないか」この2択だ。

多いと思っていたけど、予想より少なかった。だから結果は「あっていない」。シンプルにそれだけだ。


今回、自分の感覚があてにならないことを身を持って知った。知ることができた。感覚はあくまでも感覚なのだ。

「春の歌が多い」とも思ったが、調べていない。おそらく感覚だろう。


岸田さんの歌詞は春を思わせる

歌詞に「雨」と含まれているかは、Ctrl +Fでなんとかなった。しかし、食べ物・飲み物に同じ方法は使えない。歌詞に食べ物・飲み物があるかは、読まなければ分からなかった。

つまり、今回くるりの歌詞を200曲分読んだ。


文字には書く人の雰囲気、性格が自然とあらわれると強く思う。小説やエッセイなどと同じように、歌詞にもあらわれ、それが個性となる。

佐藤さんの歌詞は「おちゃらけた感じがする」と書いた。岸田さんの歌詞は春を思わせる。

『さよなら春の日』『春風』『春を待つ』とタイトルにあるし、岸田さんご自身が春生まれなのも関係している気がする。


岸田さんの歌詞が春を思わせるのは、春の曲に限らない。


『ブレーメン』のように壮大な映画と感じる歌詞もあれば、『コンチネンタル』のように理解に苦しむ歌詞もある。

暗くなったら五千万分の一から
六だけ引いて計算すればいい
それを七掛け十二で割って
君たちは泣きながら理解に苦しむ
ー『コンチネンタル』


日常を切り取り、ドキュメンタリー番組のような『グッドモーニング』も好きだ。情景が目に浮かぶ。

夜行バスは新宿へ向かう
眠気とともに灯りは消えてゆく
君の腕枕で眠る
ー『グッドモーニング』

(新婚旅行初日、私たち夫婦は夜行バスで横浜へ向かった。「夜行バスでグッドモーニングを聴こう」と私は心にかたく誓っていたが、車内でイヤホンを忘れたと気づき、のたうち回った。)



岸田さんの歌詞は幅が広い。壮大な映画のようでもあり、ドキュメンタリー番組のようでもある。一方で泣きそうな歌詞も、穏やかでやわらかい歌詞も、理解に苦しむ歌詞もある。


歌詞の内容はさまざまだ。だけど、そばにいるような、見守ってくれるような、そんな優しさはどの歌詞にも見受けられる。上から目線や、突き放すような冷たさは感じられない。

季節で例えるなら、春だ。他の季節にはあてはまらない。


春、特に3〜4月は温度が高い日もあれば、冬かと混乱するほど寒い日、日ざしがあたたかくやわらかい日、強風が吹き荒れる日もある。岸田さんの歌詞の幅広さ、優しさはそんな春を思わせるのだ。

だから、くるりの歌詞が、曲が、こんなにも好きで惹かれるのだと思う。


歌詞の魅力にハマる人、もっと増えてほしい

現在はSpotifyやLINE MUSICといった音楽ストリーミングサービス、YouTubeなどで音楽を気軽に探したり、聴いたりできる。とてもいい時代だ。共有も簡単にできる。

音楽は「音を楽しむ」と書く。確かに、音も楽しい。歌詞も一緒に楽しんだら、もっともっと音楽を楽しめると思うのだ。

世の中に歌詞を読まない人がいると知って、ショックだった。だから歌詞を読み、魅力にハマる人がもっと増えてほしいと心から思う。


言葉は話す・聴く・読む・書くといろんな方法で出会える。SNSの普及により、言葉を読む機会は格段に増えた。

歌詞は言葉の中でも、特に進化が激しいと思う。ラップは歌詞が長く、進化が顕著だ。

歌詞の意味や想いは、書いたご本人にしか分からない。でも「これはこういう意味なのかな?」「あーこの気持ち、めっちゃ分かる」と楽しむことはできる。とても楽しい。



今1番聴いているのは、くるりの『マーチ』。次の歌詞が特に好きだ。

こんな気分は
春一番に乗って消えてゆけばいいのに
- - - 
コートを脱ぎなよ
日の長さを喜びなよ
ー『マーチ』

先日、確定申告の作業をしているとき、「こんな気分はーーーー」と叫んだ。〆切前でバタバタしていると、春一番に乗って消えてほしいとつくづく思う。

そして“日の長さを喜びなよ”と書ける感性に、いちいち感動する。


私は弱い人間だ。歌詞にどれだけ励まされ、支えられて生きてきただろう?

音楽がなくても生活はできるが、生きてはいけない。

くるりをはじめ、これからもたくさんの歌詞に打ちのめされたり、励まされたり、泣いたり、笑ったりしながら、生きていく。

サポートしてくださった分は、4コマに必要な文房具(ペン・コピック等)やコーヒー代に使います。何より、noteを続けるモチベーションが急激に上がります。