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飲み方をしたい

私は自宅であまりお酒を飲まない。

でも、お酒は好きだ。

これまで飲んだ場所の第1位は店内。2位の自宅、3位の外(お祭りや野外イベントなど)を大きく突き放し、ダントツの1位。


しょっちゅう飲みに行くわけではない。だから、職場の方や友達に「今度みんなで集まって飲まない?」と誘われたら、ほぼほぼ参加する。貴重な飲み会を逃したくはない。


20代でよく飲んだのは、芋焼酎。
宮崎にいたので、黒霧島(通称:黒霧)にはそりゃあもうお世話になった。

3〜4人で集まり、居酒屋で話す飲み会が多かった。宮崎産のお肉や野菜、魚など、どれにでも芋焼酎は合う。旨い。

30代の今、よく頼むのは梅酒。
自宅で梅酒を作ったほど、梅酒大好き。梅酒はどれを飲んでも美味しい。

必ずロックで飲む。程よく甘く、飲みやすい。『はちみつ入り』と『自家製』にはいつも完敗。つい頼んでしまう。あれは反則技。


最近あまり見かけないが、サングリアがメニューにあれば頼む。
東京旅行で偶然入った創作料理店のサングリアが、飛び跳ねるほど美味しかった。大富豪になったら、生ハムとサングリアを常備したい。



5年前に夫と京都へ引っ越した。

たまたまかもしれないが、京都の職場ではほとんど飲み会がない。

昨年から自宅で仕事をしている。会社に通勤していたとき、飲み会があったのは片手で数えられるほどだ。



宮崎は飲み会が多いのだと、引っ越してから感じた。

どの職場でもお酒好きな人が多く、何かあるとすぐに飲み会が開かれた。誰かが入社すると、だいたいすぐに「いつ飲み会します?」と耳にする。

歓迎会と送迎会はもちろん、お花見、忘年会、新年会、プロジェクトの終了会など名目をコロコロと変えて、飲み会を開く。

同僚が誰も参加しない飲み会に、私だけ行く日もあった。
同僚には「え?行くの?」とたいてい言われる。「え?行かないの?」とたいてい返す。きっと楽しいのに…。


「飲み会で何か仕事につなげたい」なんて、1mlも思っていない。単純に、飲み会が好きなのだ。楽しい時間に酔いしれたい。



宮崎には『ニシタチ』と呼ばれる飲み屋街がある。由来は西橘通り。宮崎市最大の歓楽街で、夜しか営業していないお店が立ち並ぶ。いわゆる夜の街。

飲み会はニシタチ周辺で開かれることが多かった。芋焼酎『霧島』『日向木挽』のネオン看板は、いつだって飲兵衛をあたたかく迎えてくれる。


待ち合わせ場所は宮崎県民の定番、一番街のミスド。一番街は宮崎最大級の商店街で、ミスドはニシタチと一番街の交差点にある。

待ち合わせの定番中の定番のため、忘年会シーズンは「今日ってお祭り??」と思うほど、ミスド周辺は人でごった返す。

私が宮崎にいたとき、一番街のミスドは明け方4時まで営業していた(現在は2時)夜は1,000円のドーナツセットを外で販売しているため、飲み会帰りの手土産に買う人が多かった。ミスドは手土産の最適解だと思う。



ニシタチの居酒屋は友達や恋人よりも、職場の方と行く機会が多かった。


職場の飲み会では、テーブルいっぱいにお皿やグラスが並ぶ。最高の眺めだ。

枝豆に大皿のシーザーサラダ、できたての唐揚げ、刺身の盛り合わせ、ビールジョッキやグラス、取り皿におしぼりにお箸。冬はコンロとお鍋の出番。


注文したものがすべて到着すると、飲み物を片手にそわそわ。
明日が休みの飲み会は、酔う前から気分がいい。

やがて乾杯の合図。
「お疲れ様ー!」「お疲れ様でした〜」が飛び交う。

それから、
「ん!これ美味しい!ほら、みんな熱いうちに!」と知らせてくれる先輩。
「一気に全部入れてもいいですかね?」と大胆な鍋奉行。
「お皿空けますよ〜」とほんのり残ったサラダを食べ尽くす同僚。
空いたお皿や瓶を端に寄せる後輩。
席を移動しながら労をねぎらう上司。

みんなで一緒に食べては飲み、話に花を咲かせる。


飲み会では、職場にはない一面を垣間見る。

お酒が進むうちに、自分の第一印象を聞いてしまったり、実は好きな漫画が同じだと知ったり、上司のお子さんの写真を見たりする。

大盛り上がりの話をよそに、こっそりと
「絶対に言わないでくださいよ!……部長に片思いしてるんです」
「実は先週、彼氏と別れました」
なんて貴重な恋バナも聞ける。

お酒って力強い。奥にあるはずのいろんな扉を、バタバタと開けてしまう。

私もつい、「実はお笑い番組めっちゃ見るんですよ」と暴露したことがある。普段どちらかといえば地味で静かなので、「えー!意外!!」と驚かれ、とても楽しい。



グラスやお猪口を片手に、朗らかな時間が過ぎてゆく。
仕事中では絶対に見せない顔が、絶対に聞けない話が、飲み会にはある。

だから飲み会が好きだ。

いつもは険しい顔の人がつい笑顔を見せたとき、「参加してよかったなあ」と密かに思う。お酒は心も表情も柔らかくしてくれる。強くて、やさしい。


私は職場の飲み会で酔うと、話をほどほどに耳へ入れながら、お酒を飲む。

仕事中はいたって真面目だからか、話をたまに聞いていないと笑ってくれる。楽しい。ここの軟骨の唐揚げ、冷えても旨いなあ…なんてぼんやり考えている。



宮崎は芋焼酎の『黒霧島』をはじめ、数多くの焼酎が作られている。麦焼酎やそば焼酎、なんと栗焼酎もある。

飲み会では1杯目にビール、2杯目は芋焼酎が私の定番だった。決してお酒に強いわけではないため、芋焼酎はちびちびと飲む。「コスパいいなあ」と何度か言われた。確かにそうだ。

でも、日本酒しか飲まない人もいるし、カクテルだけ好きな人もいる。

幸い、何かを強要するような飲み会に参加したことはない。それぞれが好きなお酒やソフトドリンクを飲みながら、ときには笑い、ときには声を潜める。



外で飲むとき、家では作らないような料理を味わえるのもいい。

たとえば、宮崎名物の『チキン南蛮』。
鶏肉に小麦粉をまぶし、卵をからめて揚げ、甘酢に漬ける。お好みでタルタルソースも準備する。工程が多く、家で作るには気合いがいる。チキン南蛮はお店で食べたい。

家で作ると煙が充満しそうな『地鶏の炭火焼き』は、豪快に踊る炎と炭火が美味しさの秘訣。舞い上がる炎を家で扱うのは、なかなか難しい。

焼き鳥も天ぷらも、やっぱりお店で食べるのが美味しい。月見つくね、揚げ出し豆腐、山芋の鉄板焼きは絶対に頼みたい。

居酒屋で最初に出てくるキャベツも、店内が似合う。あのキャベツはシンプルながら、どうにも箸が進む。実に旨い。



宮崎では飲み会のことを『飲み方(のみかた)』と言う。

「今日飲み方やから晩ごはんいらん」
「飲み方行ってくるー」
で宮崎の人には通じる。


帰省すると、必ず誰かしらが飲み方を開いてくれる。初めて帰省したとき、前の職場のみんなが集まり、飲み方をした。

友達や職場の方々、イベントで仲良くなった人など、飲み方に誘ってくれる人がたくさんいる。本当に本当にありがたい。



いつも、いっつもそうだ。
何か大きなきっかけがないと、ありがたみに気づかない。

こんな状況になってようやく、お店に大人数で集まって食事するのはありがたいのだと気づいた。

100人規模の忘年会は、同期メンバー数十人が集まった飲み方は、30人近くが参加した私の送迎会は、あれは、ありがたいのだ。


どうやら、しばらくは宮崎に帰れない。
帰っても、大人数での飲み方は叶わないだろう。



毎週のように通った居酒屋も、新年会があった老舗ホテルの大宴会場も、お腹がはちきれそうになった食べ飲み放題の創作料理店も、ぐわんぐわんと駆け巡る。

ボジョレー・ヌーヴォーのイベントで商店街のアーケード下にテーブルをずらーっと並べ、仕事の関係者とワインを飲みまくった日も思い出す。数少ない、悪酔いした日だ。

飲み方の帰りに初めて釜揚げうどんを食べた日、「わー、これは大人!」と噛み締めた。時計の針が重なる頃、つゆに卵を割り入れて混ぜ、うどんをくぐらせる。これがまあ美味しくて、〆のうどんは病みつきになった。



京都には歴史の深い料亭も、日本酒の品ぞろえが豊富な居酒屋もたくさんある。「ホソ」を知ったのは烏丸の焼き鳥屋だ。ぷりっぷりの脂身にはビールが合う。



だけど、心底美味しいチキン南蛮も、真っ黒な地鶏の炭火焼きも、卵を割って食べる釜揚げうどんも、レタス巻きも、京都ではなかなか出会えない。
ニシタチも、恵屋も、ぐんけいも、京都にはない。

〆をラーメン、辛麺、うどんのどれにするか悩む会議もないし、メニューの『マンゴー』の文字は定番ではない。



そこに行かないと味わえない料理が、ある。
そこでしか聞けない話が、ある。

ともにお酒を飲んだ、あのかけがえのない時間よ。

ああ、宮崎が、飲み方が、とてもとても恋しい。


宮崎に帰ったら、また飲み方しましょう。



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