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極限状態を支える信頼のチカラ 「トンネル 闇に鎖された男」 #264

コーチングでは話を聞いている相手に対して「がんばれ」とは言わないようにします。コーチにできることは勇気づけて励ますことだけで、目標に向かって歩くのは本人。「がんばる」がどうかを決めるのも本人なのです。

4年に1度の祭典に向かって照準を合わせてきたアスリートや、病と闘う人、年度末の激務に追われている新人を見ると、「がんばれ」と言いたくなる気持ちも分かります。

わたし自身は「がんばる」を使わない理由として、執着心を生みそうだからだと考えています。「~しなくてはいけない」という気持ちが、自分を縛ってしまいそうだから。

でも。

崩れたトンネルに閉じ込められ、救助まで1週間かかると知らされた人に、「がんばれ」以外、なんて言えばいいんだろう。

韓国映画「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」は、風刺の利いた社会派ストーリーなのですが、人の不安をおさえるには何が必要なのか、考えさせられる映画でした。

<あらすじ>
自動車ディーラーとして働くジョンスは、大きな契約に成功して意気揚々と妻と娘の待つ家へ車を走らせていた。トンネルを通過中、異音を聞いて振り返ると、トンネルの天井がどんどん崩れ落ちていた! 崩落事故は全国ニュースとなり、救助活動も開始されるが、作業は難航し……。

生き埋めになったものの、奇跡的に無傷だった男ジョンスを演じるのは、演技派俳優ハ・ジョンウ。その妻をペ・ドゥナが演じています。監督はNetflixオリジナルドラマ「キングダム」のキム・ソンフンです。

生き埋め状態から腕を伸ばして携帯の電波をキャッチ。ようやく電話がつながった救急センターは、状況をまったく理解してくれません。まぁ、トンネルが崩れて埋まったと言われても、「まさか」と思いますよね。

でも、主人公の悲劇はまだまだ序盤。手元にあるのはミネラルウォーターのペットボトル2本とバースデーケーキのみ。これで救出までの1週間をもちこたえるはずだったのに、再度の崩落によって事態は悪化してしまうのです。

そこに、真っ暗闇の中から足音が聞こえます。

(これ、ホラー映画だったの!?)

と思いきや、なんと生存者がもう1人いたのでした。運転席で完全にコンクリートブロックに挟まれてしまった若い女性とワンコです。「水が飲みたい」という女性。ペットボトルの残りを気にする主人公。

究極の選択です。

あなたは、正直に「お水があるよ」と言えますか?

一方、地上では、特ダネを狙うマスコミと、パフォーマンスに忙しい政治家がウロウロ。ひとりの命と多額の経済損失が比べられたり、豪雪の中の作業に愚痴が出たり。テレビの検証番組で、空虚な解説を並べるコメンテーターもいる。

誰も悪い人はいないのに、ものすごく居心地の悪い会話が続きます。ブラックな面をユーモアと共にサラリと見せるところは「キングダム」にも通じます。キム・ソンフン監督、恐るべしだなと感じました。

どんどんと状況が悪化し、悲観的になる夫に、妻がつい、言っちゃうんですよね。

「がんばらないでどうするの」

「オレにがんばれとか言うな!!!」

主人公を支えたのは、時にフランクに、時にシリアスに、救助の長期化や作戦ミスなど、状況を正直に伝えた救助隊長でした。当初はマヌケにしか見えなかった隊長だけが、生存者を数字ではなく人間として見ていることにハッとしました。

言葉にウソがないことは、信頼を得るための一番の条件なのかもしれません。

アクション俳優でもあるハ・ジョンウが、半径1メートルくらいの空洞でモゾモゾと動く姿は新鮮でした。生きるために、あがき続ける。あきらめたら、その場でジ・エンドなのだなと思ったのでした。

「トンネル 闇に鎖された男」は、現在、Amazonプライムで配信されています。お家映画館の1本にいかが?


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