大統領

デジタルツールが壊した人間力とは? #154

携帯電話のない時代、突発的な事件が発生した時はどうしていたのか。

目の前で起きたことに対応するには、誰かの指示を待っているわけにはいかず、マニュアルを開く時間もなく、ましてやググることもできません。

そこで人間は「判断」していました。

素早い判断を下すために、もっと五感が敏感だったり、知識と知識を結び付けて考える力があったりしたのではないか。そう考えると、インターネットやデジタルツールが壊したものの中で、実は一番大きいものは人間の「判断力」ではないかと思います。

ジェフリー・アーチャーの小説『大統領に知らせますか?』を再読して、そんな思いを強くしました。

わたしが海外エンタメ小説にはまるきっかけとなったのは、ジェフリー・アーチャーの小説でした。『ケインとアベル』の次に読んだのが『百万ドルをとり返せ!』、そして『大統領に知らせますか?』の旧版を読んで、すっかりファンになったんですよね。

『大統領に知らせますか?』は、日本では1978年に出版されています。その後、1987年に新版が出ました。もちろん、携帯電話もインターネットもない時代のお話です。

物語のプロットは同じですが、旧版の大統領はエドワード・ケネディ、新版ではフロレンティナ・ケイン(ロスノフスキ)になっています。

『ロスノフスキ家の娘』の主人公だったフロレンティナは、大統領としてこの小説に登場しているんです。現在は旧版新版ともに絶版だそうなので、古本屋で見かけたらぜひ手に入れてください。

『大統領に知らせますか?』の主人公、FBIワシントン支局に勤めるマーク・アンドリュース捜査官は「大統領が暗殺される!」とおびえるギリシア人のウェイターに会いにでかけます。勤務時間は過ぎてるし、美人とのデートもあるし、証言ははっきりしない。報告は明日でいいよねーと考えていたのですが、その後、ウェイター、同僚、上司がいっぺんに殺害されてしまうという事態に。

さすがにヤバイと震えるマーク。開始数ページでこのスピード展開です。一気に引き込まれちゃうんですよ。ここでマークは「判断」するんです。情報が洩れている以上、誰に相談するのがいいか、信じられるのは誰か、自分の身の安全を守るにはどうするか。悩んだ末、ペーペーの捜査官がとった行動は「すげー!」でした。

暗殺計画の背後にあるのは、大統領の悲願である「銃所持規制法案」なようですが、はたして?

というストーリー。アメリカの政治のダークサイドが感じられるとともに、人種問題、セクシャルマイノリティと、さまざまなトピックが入っています。

陰謀のストーリーテリングだけでなく、上司にも恋人にも振り回されるマークというキャラクター設定は、さすがジェームズ・ボンドの国の作家だなーと感じます。

でも、時代やツールが変わっても、人間て変わらないんですよね。こういう非常事態に放り込まれた時こそ、頭の良さや、一か八かの勝負勘など、「判断力」が必要になります。そして自分の判断を信じて行動する覚悟も。

マークは、目の前の美人に惑わされず、親切な先輩に騙されず、大統領暗殺を止めることができるのか。手に汗握る、疾走感のあるサスペンスです。

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