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トレーニング・モンタージュ

『ロッキー4』のサントラに、『トレーニング・モンタージュ』という曲がある。

有名な『アイ・オブ・ザ・タイガー』みたいに無理矢理テンションを上げる曲ではなく、「青白い闘志がゆっくり燃えている」ようなこの曲が好きだった。
稽古前の車の中や、試合前の控え室で、よく聴いていた。

「ポール・サイモンは、いい曲作るなぁ」と思いながら。


僕は結構最近まで、この曲はサイモン&ガーファンクルの曲だと思っていた。

中学の時の英語の先生のせいだ。


薄情かつ記憶力の悪い僕はもうその先生の名前も思い出せないけれど、天パでメガネでラーメン好きそうだったので、小池先生ということにしておく。
なんかそんな名前だったような気もしてきた。

小池先生は、授業でいつも古い洋楽をかけてくれた。
ビートルズ、ビリー・ジョエル、カーペンターズなどなど…。
僕は60分テープを先生に渡しては、スタンダードな洋楽のアルバムをダビングしてもらっていた。

その頃の僕は車酔いがひどくて、車で遠出したら必ずベロベロ吐いていた。
しかし、小池先生にダビングしてもらったビートルズをかけるようになってからは、ピタリと車酔いが治った。
洋楽ならいいのかと思って他のアーティストもかけてみたが、やっぱりベロベロだった。
ビートルズでなければならないようだ。
ジョンやポールの歌声なのか、ジョージのギターなのか、意外にもリンゴのドラムなのか、何が僕の三半規管をサポートしてくれたのかはわからない。
誰もこのことに共感してくれる人はいなくて、僕だけが特別なのかと思っていたが、意外な仲間がいた。
「ビートルズを知ってから、車に酔わなくなった」
と、インタビューで発言していた。
ブルーハーツのヒロトが。

科学的な根拠があるなら、知りたい。


小池先生に、サイモン&ガーファンクルのベスト盤をダビングしてもらった。
『サウンド・オブ・サイレンス』に始まり、名曲『明日に架ける橋』で終わる、素晴らしいアルバム。
しかしそのアルバムには、ボーナス・トラックがあった。

『明日に架ける橋』が感動的に終わり、その余韻に浸っていると、もう一曲始まった。

出だしは静かで美しいメロディー。
しかし、徐々に盛り上がっていく。
いつまでたっても歌が始まらないので、どうやらこれはインストゥルメンタルのようだ。
ということは、この曲にはアート・ガーファンクルはまったく関わってないということだな。
しかし、ポール・サイモンはこんな曲も作るんやな。
このアルバムの趣旨にはまったくそぐわんと思うけど、これはこれでええ曲やな。

この曲を聴いていると、ポール・サイモンに
「お前みたいなガキは、音楽聴いてまったりしてんと体鍛えんかい」
と言われているような気がした。
とりあえずスクワットをした。


その後、『ゴールデン洋画劇場』で放送された『ロッキー4』を観た時に、この曲がかかっていて驚いた。

ポール・サイモンは、『ロッキー』の曲も作ってたんか…。
そう言えば、『ボクサー』っていう曲もあるしな。
ボクシング好きなんやな。

「この曲、サイモン&ガーファンクルの曲やねんで‼︎」
「そんなわけあるかい」

父親は取り合ってくれなかった。
母親は『ロッキー』に興味が無かった。
弟たちは、サイモン&ガーファンクルを知らなかった。


小池先生は、なぜサイモン&ガーファンクルのアルバムにこの曲を入れたのか?
「ボケ」だったのだろうか?
「最後『ロッキー』ですやん」とか、言わないといけなかったのだろうか?
ボケだったのなら、小池先生、気づかなくてすみませんでした。
普通にサイモン&ガーファンクルの曲だと思ってしまっていました。

今思えば、その頃の僕があまりにモヤシだったので、「もっと強くなれ」という意味を込めて、あの曲をこっそり入れたのではないですか?
確かに、あの曲を聴くと体を動かしたくなり、スクワットが習慣になりました。
成長期にスクワットをやり過ぎたせいで、お陰様で身長が止まりました。

結局スクワットでは飽き足らず、格闘技を始めました。
そして驚くことに、いまだに格闘技の稽古を続ける羽目になってしまっているのです。

格闘技は、僕の人生にとってかけがえの無い物となりました。
格闘技に出会わなかった自分が、想像できません。
きっかけを作っていただき、本当にありがとうございました。

本当にただのボケだったのなら、それはそれで、気づかなくて誠に申し訳ありませんでした。
















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