「MOTHER3」というゲームに描かれたもの


「あるとしか言えない」



とは糸井重里氏がかつて出版した著書のタイトルです。

糸井重里氏は現在ごきげんを作る中くらいのメディアこと「ほぼ日刊イトイ新聞」の主催者としてよく知られていますが、そのほかにもコピーライター、ゲームクリエイター、バスフィッシャー、埋蔵金ゲイザーなどかなり多様な側面があります。

『埋蔵金』


30代より上くらいの人でないとあまりピンとこないような気もするのですが、氏は一時期「埋蔵金発掘ドリームおじさん」のようなキャラクターとしてお茶の間に広く親しまれていました。

今放映されているバラエティ番組で言うと「池の水全部抜く」のような感じでしょうか。

そんな実録ドキュメンタリーのもっとゴージャスでバブリーで「マジ」っぽいものという雰囲気で半年おきくらいに不定期に特番放送されていました。されていたようです。

実のところ、わたし自身当時は幼少だったのではっきりとした記憶はありません。

それでもしかしなにかしら著しい興奮とともに穴を掘るという一種の狂乱。「ロマン」などというカジュアルな形容では折りたためない程にオカルティックにも関わらず未来に発生するはずの資本が今目の前にある物体よりもずっと強固に存在の光を放ち未来と現在の時間軸が逆流した、あの時。

「埋蔵金」という徳川時代の遺物は、
逆説的に「未来」の時間軸を漂っていました。


それは単に

「土地の値段は(未来永劫)上がり続ける」

という、ごく限定された社会状況下に発生したあり得ない振り返ってみれば信じられないような誤解に基づく現実の解釈なのですが、そういう時があった。

未来の資本が確実なのだから、今(の資本)は未来よりも確実ではなくて、過去あったものはもっと不確定である。
確実に今、ここにある(と約束される)未来な資本を使って不確定なものを求めていくのだから

掘って未来にタイムトラベル。そんな感じの空前絶後。


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ほとんど記憶が無い。というよりは幼少すぎてテレビバラエティーというものを文脈として解釈することもなく目撃していただけなのだが、それでもなおあの時テレビジョンの中にあった得体の知れない熱情がプールで窒息しそうになった瞬間の息継ぎの様に認識の切れ目に刺さるしおりの様にふっと蘇ってくることがある。窒息さながらの呼吸という点でその二つは符合する。

過剰にリアライズされすぎたフィクションが、全ての現在を置き去りにする。
予め残骸になった現在という渦中で、鉄腕アトムの開発はシャーマニズムであってそんなことは俯瞰できなくても感知はしていたからシステムを破壊しない程度に射程距離の短いSFは発掘でしかなかった。

分厚い百科全集や葛飾北斎のリトグラフ、高級な素材で作られた地球儀なんかも色んなところによくあってそういったものは大抵36回払いだったりした。そんなんだから現実に対してずっと周回遅れでいる。退廃。加速すればするほど凄まじい速度で荒廃する私たちの集落。早く光が欲しかった。

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埋蔵金の発掘は糸井氏の個人的な情熱によって行われていたものだと当時多くの人が信じていましたが、そうではありませんでした。

冒頭に挙げた

「あるとしか言えない」

の著作中、糸井氏は埋蔵金が実際にその場所にないと言うことがほぼ明らかになりつつも「あるとしか言えない」と言うジレンマを吐露しています。

「あるとしか言えない」


その態度に罪を問うのは

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