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フリーランスの人のためのパーフェクト自己管理マニュアル

しばしば、

「フリーランスでやっていきたいんですけど、上手くできるか不安です!」

と聞かれることがあります。確かにそういった懸念は本当にその通りで、マジ正鵠を射る質問です。なぜならば、フリーランスという働き方は、実は会社に所属している給与所得者よりも過酷な側面が多いからです。

 どういった点が過酷なのかというと、まず、何もかもを自己管理しなければいけません。しかも、誰からもなんの指示も受けずに、自分の仕事や生活の管理を全部を自分でやる必要があります。

 もともと自己管理が得意で、黙っていても週ごとのタスクをリスト化して効率よくこなしていける人であれば全く問題がないのですが、そんな人間は少数派です。私も自己管理どころか、そもそも人間としてまともにできることがほとんどないというかなり終わっている人間でした。
 
 信じられないかもしれませんが、私はかつてOLをやっていたことがあります。当時は、かなり大変なことになりました。具体的には、靴を販売している会社の本社ビルのオフィスで全国の百貨店の在庫と通販部の在庫を管理する業務を担当していたのですが、私のせいで社内便が大混乱をきたし、全国の店舗の全ての在庫が縦横無尽に意味不明な移動をしまくった上、最終的には全てのデータを消してしまいました。私にそんな重要な仕事を任せる方が悪いと思ったのですが、仕方がないのでそれからしばらくはブランディングに関する論文を書くよう指示されて書いていました。論文はかなり褒められましたが、思うにそれは皮肉の可能性が高いでしょう。

 若い女ということで、社内の飲み会で社長の隣に配置されたこともありましたが、その際も良かれと思って経営理念の前時代性を唱えてこっぴどく叱られました。社内の人は全員ほぼ服装と髪型と雰囲気が同じなので名前と顔がどうしても覚えられず、もう開き直ってその場で思いついた適当な名前(亀田さんとか)で呼んだり、無能すぎてやることがないので余った靴の箱で立体テトリスを作って遊んだりしていました。今思うと、あの箱は余っていた訳ではなかった気がします。2週間くらいでやめましたが、私を採用した担当者はその後相当苦しい立場に追い込まれたのではないでしょうか。私自身は会社の業務に対して、本当に一切の興味がなかったので当時はなんとも思わなかったのですが、今になると、申し訳ない気持ちです。当時は、なんでも『こち亀』の中の話だと考えることで全ての難をしのいでいました。(しのげてはない) これらの愚行、蛮行のオンパレードについては、おそらく今でも語り草になっていることでしょう。

 このように、元々自力でできることがほとんどない分、フリーランスとして自分で仕事をやっていく中で、自分なりに自分でもできる方法を考えて、ほんの少しづつでもいいからできることを増やしていった結果、現在はむしろ人並み以上に生活や仕事のことを管理できるようになりました。こんなことがあるのかと、自分が一番驚いています。もちろん、急にできるようになったわけではなく、かなり低レベルなこと、例えばいつも机の上に出しておくものをどうするか、とか、朝起きて水を飲むタイミングを決める、などの小2レベルの人間活動を一つ一つ解決していった結果、かなり長い時間をかけてできることが増えていった感じです。

 元がかなりダメだったのですが、幸か不幸かそのせいで、生活や仕事への取り組みに対して、常に効率化(というとおしゃれな感じがしますが、実際は常にもうちょっとマシにならないかずっと試行錯誤をしている感じです)できないか考え続ける癖が身についたので、気がついたら標準的にはできるようになっていました。それどころか、今でもできる具合がマシになり続けています。私自身、ある程度マシになった段階でマシになり終わるのかなー、と考えていたのですが、元がまるでダメダメだった分、理屈で考えて根本的なやり方のフォーマットをマシにする技術が身についていたようです。以前も部屋の片付け方について具体的な自分マニュアルを作成したのですが、それ以来驚くべきことに、私の部屋はいつもすごく片付いています。

 これによって得られた知見は、もともと全くダメな人が考えただけあって、とにかくダメな人間に向いています。しかも全てがわかりやすく理屈で説明できるので、ぜひ共有した方がいいだろうということで筆を取りました。実際に私が10年くらいかけて地味に積み重ねた知見のオンパレードという感じなので、自己管理にまだ自信がない方には相当役に立つんじゃないかと、元ダメ人間の代表選手として自負しております。

 タイトルには「パーフェクト」とあるので、さぞかし厳格な、チトー体制下の旧ユーゴスラビアのような著しい自主管理制度をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、全然そんなことはないのでご安心ください。むしろ、ダメな人でも自己管理ができるという意味でのパーフェクトを標榜しているので実態はかなりマイルドな、人間という存在のアヤフヤさ・出鱈目さ・混沌を否定せず成り立つシステムになっております。どうぞ、安心してお読みください。

【目次】
・「忙しい人=すごい」という思い込みの弊害
・どうして頑張ってしまうのか
___________________
・超シンプルで簡単! 誰にでもできる水野式30単位法
⑴ まず、一ヶ月に稼ぎたい金額を決める
⑵ 決めた金額を30で割る
⑶1週間に【8】単位の仕事が進行するようにスケジュールを割り振る
⑷2種類の休日を設定する
⑸交渉をする
___________________
・本当の勝利条件
・楽しくてOK(苦しみはNG)


・「忙しい人=すごい」という思い込みの弊害

 つい先日、NHKで放送された『クローズアップ現代 自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で』(2022年5月18日放送)によると、リモートワークの増加などにより日本国内のフリーランスの労働者人口が急増し、現状ではおよそ13人に1人(500万人)がフリーランスとして労働をしている実態があるそうです。驚くべきことに、2020年から2021年の1年間で、およそ200万人程度増加しているとのことですが、今後さらに増えていくことが予想されます。

 ところが、我々は真面目で実直な給与所得者としてやり過ごしやすい人生設計を基本理念においた義務教育を受けているので、実際のところフリーランスってどうやるのか誰もよく分かっていません。基本的な開業届の出し方や経理や納税の知識だって、自発的に調べなければ何も知らないという状態です。その一方、雇われて働く訓練は全般的になんとなく施されていますので、どこか企業に就職ができれば複雑なことを考えたり、自分のやり方を疑って試行錯誤しなくても大体定年までやっていける(かもしれない)という雰囲気があります。私は企業に勤めた経験が、ほぼないので勤め方に付いては分かりませんが、フリーランスのやり方についてはジワジワ分かってきたところがあります。

 最も重要なことはなにか。それは、意外かもしれませんが、「働きすぎてはいけない」ということです。フリーランスをやっていると、つい不安なので働きすぎてしまうのですが、そうなるとあんまりいいことがありません。フリーランスをやっていると、社会から孤立しているような感覚がある上に、世間的にも忙しければ忙しいほど偉いという風潮が根強くあるので、ほとんどの人が不安と功名心から過剰に頑張って働きすぎてしまうのですが、そうするとこのようになります。

常に仕事を積載量限界までギチギチに詰めて人にも合わず、映画一本観る時間もなく、ろくに袖を通す時間もない高級な服や、銀行マンに勧められた利率の低い証券を買い、常にしんどそうにしている。目の前の仕事に追われて、新しい趣味や技術に手を付ける暇もなく、学生時代に蓄えた知識や興味を小出しにしてやっているが、このままだといつまで仕事があるのかも分からず日々が不安。不安から余計に目先の仕事を詰め込んで、破綻しそうになっている自己矛盾に気がつかず、忙しさで判断力が常に低下しているので、やらなくてもいい仕事まで何でも引き受けて頑張ってやり通してしまう。自分から始める仕事よりも、請け負ってこなす仕事の方がずっと多いので、少しずつやりたい仕事像と自分の働き方がズレていっていることを実感しているが、余裕がないのでままならない。高速で日々が過ぎているので、気がついたらもうベテランの年齢になっている。それでももう引き返せない、この道しかないという、はっきりしない懸念に包まれながらめまぐるしさの中で朦朧とする日々。

 かなり具体的な感じですが、この記述には特定のモデルがいるわけではありません。そうではなく、この感じってすごくあるあるなんです。よくあるOL像やサラリーマン像と違って、今までは数が少なくまだ社会一般にあまりよく知られていないために、上記のような典型的フリーランス像が語られていないだけなのです。これからもフリーランス人口は増えていくと思われるので、いずれはドラマやCMの作中でこういった人物像が語られるようになるのかもしれません。

・どうして頑張ってしまうのか

 なんでフリーランスの人はこんなに頑張ってしまうのかというと、それはやはり頑張らないとやっていけないからです。裏を返せば、頑張ればやっていけるので、どんな職業であっても(スポーツ選手やモデルといった極端に生まれ持った資質に左右される職業でなければ)頑張ればやっていけます。これは、本当です。だから、例えばイラストレーターになりたい人、漫画家になりたい人、小説家になりたい人、自営業でレストランを開業したい人など、ご安心ください。なれます。確実に。ただ、頑張らないとどれもやっていけないので、頑張らないといけません。ちょっと才能がある人よりも、頑張れる人、頑張り続けるだけの動機を持っている人の方がよっぽど珍しいのです。だから、頑張ると大体、よっぽど向いていないことを選ばない限りは、なれます。頑張れている時点で、ある程度向いているので、続ければなれちゃうんです。今技術がなくても、頑張ってやっているうちに技術なんかは明らかに付いてきてしまうので、心配しなくても大丈夫です。

 私なども、文章がもともと上手だったのに比べて、絵が相当下手で、美術予備校ではまっすぐ線が引けないことを怒られていたくらいでしたが、流石にずっと描いているとある程度はやはり上達します。勝手に上達します。量は質を担保するので、自動的にそうなります。むしろ、私は自分の絵が中途半端にうまくてもつまらないから、絵なんか全然上達しなくていいと思っているのですが、それでもやった分上達します。だから、毎回いまの下手さで絵を描けるのは、この一回限りなんだなと思って大事に描いています。続けているって、実はすごいことだから、勝手にそうなっちゃうのです。

 だから、なにかを始めたい、やっていきたいということを考えている人は、技術の問題よりも、それを自分が本当にやりたくて、続けていけるのかという心配をした方が絶対にいいのです。何かに憧れている方も、実際に自分が日々取り組んで、それで幸せで快適かどうかを気にしてください。他人の目を気にしている場合ではありません。やるのは自分だし、いっときの見栄を優先した結果本当は苦痛な作業を何十年もやり続ける人生になったら最悪です。

・頑張れてしまう

 このように、フリーランスの人は、特にそれだけで生活をしているような人はほぼ全員「これだったら頑張れる(頑張れてしまう)」ということを職業にしています。だから、基本的には頑張り過ぎてしまうのです。一人でやっていると誰にも何も言われないので、頑張っている自覚が全くない方が多いのですが、私は一人一人にどれだけ頑張って頑張って頑張り通してその実態に無自覚であるか、力説して回りたいくらいです。フリーランスでやられている方、もしお読みでしたら、ものすごく頑張っていると思います。すごいですね。こういった頑張りすぎ問題も、やはり我々の企業勤を前提とした「フリーランスリテラシー」の低さに起因しています。頑張っている人は当然出世してより社会に広く認めてもらいたい気持ちがあると思いますが、実はがむしゃらで盲目的な頑張り方では出世とは違う方向に向かってしまうのです。なぜでしょう。理由は前述した「頑張り過ぎて仕事に振り回されている人」のケースを見ていただくとよくわかると思うのですが、頑張りすぎると単に「便利な人」になってしまうからです。働いた分お金は稼げるのですが、それは出世とはまたちょっとニュアンスがちがいます。「重宝されている」状態。もっと悪くいってしまえば、便利屋のように思われている。

 もちろん、便利だと思ってもらえるのも大変ありがたいことではあるのですが、出世をしたい気持ち自体はもっとこう、世の中から大切にされたい、自分の仕事を貴重なものとして扱ってもらいたいという想いから湧き上がってきていると思うので、便利だと思われ過ぎてしまうと、逆の方向に向かってしまいます。じゃあ、どうすればいいのか。というと、働き過ぎないことが肝心なのです。もっと言えば、仕事量をコントロールする物差しを作ること。難しそうに聞こえるかもしれませんが、すごく簡単に仕事量をコントロールする虎の巻のような手法を開発したのでどうぞご安心ください。


・超シンプルで簡単! 誰にでもできる水野式30単位法


 見出しが受験の参考書みたいになってしまいましたが、やり方は非常にシンプルです。目次に書いてある内容を見てやればいいのですが、詳しいやり方のコツがいろいろあるので細かく解説していきます。

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