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「コンサルティングの仕事を生む想像の余白」- 新拠点チームメンバーINTERVEW① 後藤裕一[前編]

301新拠点プロジェクトのチームメンバーと、301代表の大谷によるインタビューシリーズです。第一弾は、キッチン部分を中心に飲食視点から場の全体の空気感やコンセプトの設計をサポートしてもらっている後藤裕一さんです。

これまで301と数々のプロジェクトを実行してきた後藤さんは、お店の経営とコンサルティングの仕事を両輪で成長させていっている、まさにこのプロジェクトが飲食パートで目指す姿の体現者でもあります。そんな後藤さんに、コンサルティングの魅力とこのプロジェクトの可能性について話を聞きました。

店という枠組みを超えて視野を広げる

大谷 自分のお店を持ちながら、同時にコンサルティングという仕事も広げていく。後藤さんはそういう働き方を実現していますが、働き方という視点から、実際にやっている中で感じる理想と現実を、現時点でどう捉えていますか?

後藤 PATHというお店の名前が広がっていくだけじゃなくて、コンサルティングの仕事をすることによって、後藤裕一という名前がいろんなところで出ていく。そこから、実はPATHっていうお店やってるんだ、と知ってもらって新しくお客さんになってもらったり。自分がお店の外に出て行くことで、コンサルティングとして関わるお店も、自分がやっているお店も、両方がハッピーになれるのがいいと思ってる。

あとは、パティシエとしての新しい職業の選択肢をつくりたいっていうこともあって。コンサルティングという働き方の選択肢を持つことによって、現場に立って店をやっていくという選択に縛られずに仕事ができるようになるし、色んなレストランやお菓子屋さんに入っていくことができるので、自分の引き出しが増えたり、視野が広がっていくような感覚がある。

大谷 確かに、1つの店の中で働いていると、その枠組を超えて自分の引き出しを増やしていくって難しそうですよね。

後藤  そう、それが仕事としても成立しちゃうっていうのが、コンサルティングの面白さだと思う。

大谷 後藤さんがあまりにも色々なプロジェクトを手掛けているから、みんなによく「後藤さんは何人いるんだ!?」って言われてますね(笑)

後藤 最近も幹ちゃん(サーモン&トラウトのシェフ)に言われた(笑)でもコンサルティングの仕事が増えてくると、やっぱり考えることも増えてくるから、今は自分の中でいかに頭がパンパンにならないようにするかが一番の課題かな(笑)

中と外の二面性、本質的なコンサルとは

大谷 クライアントとの仕事の関わり方という視点では、理想と現実をどうとらえていますか?

後藤 コンサルティングってあくまで"外"の人間として関わるわけだけど、飲食ってやっぱり中の現場の人間が大切で。その子たちがいないとそもそも飲食店って成り立たない。だから、自分たちが現場に入っていって、現場の子たちと一緒に試作を重ねたり、オペレーションの改善点を見つけたり、「内側からの視点」でコンサルできたらいいんじゃないかっていう考えが、最初に描いていた理想としてあった。

実際そういう考えで、コンサルティングの仕事を二年近くやって、理想に近い手応えを感じている部分もあれば、逆に中(=現場)と近すぎて、クライアント(=会社)が求める数字的な目標と、現場のやりやすさや効率を考えたときに何がよいかという点が違っていてぶつかる場合もある。

自分たちとしては現場に近い立場で、中の人の満足度を気にしてたけど、あくまでも仕事を受けているのは会社からなので、そこは線引きしないといけない、割り切るべきところがある。現場の子は誠意を持ってレシピなど教えなきゃいけない対象ではあるけれど、あくまでも仕事を受けているのは会社であって。そこの線引きは最近やっとわかってきた感じ。現状でもまだできていない部分もある。

大谷 その線引きの仕方っていうのは、具体的にはどう実現していくんですか?

後藤 例えば、つくってほしいメニューや、変えてほしいこと、チェックしてほしい内容とかを、現場のスタッフから直接聞くのではなく、一回会社に上げてもらって会社から聞く。現場の子たちから直接聞くと、感情が入り混じってくる可能性もあるから。

大谷 それによって、本質が隠れてしまうことがある。

後藤 そう。現場に入ることは、その子たちのリアルな感覚を知るという意味では大切だけど、実際のコンサルティング内容のリクエストっていうのは、会社からもらって進めていくほうがいいと思う。当初は自分たちとしては、現場の顔を持って入っていくことが大事だと思っていたんだけど、実際は、現場に寄り添うスタンスと、聞くところは聞くし聞かないところは聞かない、というドライに判断するスタンスと、その二面性がこの仕事には必要だなっていうことに最近気付いてきた。

最小の関わり方で最大の効果を出す

大谷 具体的にはコンサルティング内容としてどんなことをやっているのか、もう少し詳しくおしえてください。

後藤  もちろんケースバイケースなんだけど、最初は商品と仕込みの状況をみて、例えば、8工程の仕込みで2商品できていたところを5工程で2商品できるようにする、とか最終的にラインナップする商品と実際の仕込み量との組み合わせ方を効率化したり。あとは仕込みのやり方をチェックして、もっと簡略化できる部分がないかの考えたり。

大谷 結構オペレーションに近い部分から入るんですね。

後藤 うん。ただ、やり続けていくと現場のスタッフもそういうスキルを身に付けてくるから、そのあたりからクリエイションの部分をお願いされるようになることが多いかな。

大谷 後藤さんとしては、どんな入り方が理想的なんですか?

後藤 それは結構迷っている部分もあって。自分がクリエイションの根幹となるアイディアを決めて、実際につくっていくのは現場のスタッフというのが理想かもしれないのだけど、スタッフのみんなにも力をつけていってもらいたいから、意見を出してもらいながら試作を重ねて一緒につくっていくような形かな。

大谷 後藤さんがクリエイションのアイディアを出す場合、現場のスタッフからするとモチベーションはどのあたりに置くことになるんですか?クリエイションは自分たちでやりたい!みたいな意見は出ないんですか?

後藤 出てくるよ!アイディアを出すのは現場のスタッフでも自分でもどっちでもよくて。最初に、実際につくる人や現場の子と話して、その上でこういうのやろうか、というのを決める。そこに向かって試作してみて、また話す場面があって、それがブラッシュアップされていく。この話し合いを持ちながら、アイディアを決めていくのが自分の仕事かな。

大谷 なるほど。僕たちの領域で言うと、クリエイティブ・ディレクションのような役割かもしれませんね。

後藤 つくる部分までを自分でやってしまうと、現場に入り込み過ぎちゃって、それはコンサルじゃなく、もはやその店のシェフみたいになってしまう。自分が経営している店と、コンサルとして入っている店は、スタンスを分けたほうがいい。現場のスタッフが、クリエイションしたいならできるという、発言権を持っている状況になっていることが重要だと思う。「後藤さんが監修しているから自分たちはつくるだけ」とは思われないように。自分たちのやりたいことを言えるという空気感をつくるのも仕事だと思う。

大谷 マストで関わる部分を最小単位にしながら、最大の効果を出せる方法を見つける。あとは人間的な繋がりのための余白として、現場のスタッフとのコミュニケーションの時間を増やすっていうことですね。実は今僕もちょうど月一でコンサルティングのように関わる仕事を始めたところなんですけど、きちんとやろうとするとどうしても入り込み過ぎてしまうというか…時間をかけ過ぎちゃいませんか…?

後藤 そうなんだよね。ただ、時間かければいいわけでもないし、かけないのがいいわけでもなくて、関わっている時間に対しての効果がより大きい方がいいかなとは思う。

コンサルティングの仕事を生む想像の余白

大谷 コンサルティングの仕事を生み出していくためのポイントは何だと思いますか?

後藤 一番大切にしているのは、聞くことと、感受性を鋭く持っていること。自分のことじゃなく、そのブランドのことを理解した上でものをつくるという考え方ができることかな。

大谷 ただ店をやってるだけだとコンサルティングの相談は来ないと思うんですけど、その入り口やきっかけはどうやって生まれていくんですか?そのために何か意識的にやっていることはありますか?

後藤 意識してやったことではないけど、今思えばPATHというお店が色んな要素があって成立している場所だったからかもしれない。太一(PATHの共同オーナー)と一緒に料理人とパティシエでやっているとか、ブレックファーストとディナーがあるとか、ブレックファーストのメニューだけ見ても料理や焼き菓子など色々なメニューがあるとか。そういう色んな側面がある場所だったので、イベントとかに呼ばれるようになったり、キッチンの中にずっといるという感じではなくなっていって。そういう流れの中で、コンサルティングの相談が来るようになっていった。

大谷 間口の広さというか、その先に色んな世界を想像できる余白がある、ということですかね。

後藤 例えば、イベント出た時なんかも、PATHで出しているものを売らなかったんだよね。ファーマーズマーケット出たときは、そこに出店している生産者さんの卵でつくるプリンを出すとか、パンのイベントのときには、PATHの設備ではパンを大量につくれないから、じゃあ普段やってないジャムをつくって出してみようとか。単純にPATHが出店するのではなくて、色んなシーンにおいて色んなことができる人たちなんだって思ってもらえるような動きをしてきたとも言える。

大谷 アレンジできることが伝わるっていうことですね。

後藤 でもつくる側の立場からしてみると、それってハードルは低くないので、難しい部分もある。だからこそ、それができるっていうのは、同業者からも外の人からも武器だと思ってもらえるよね。

大谷 ハードルが低くないからこそ、逆にそれを楽しめるかどうかっていう気持ちが大事ですね。

後藤  うん、お店の営業しながらっていうのは、やっぱり大変は大変なので。そこを楽しめないと、現場とコンサルティングの両立っていう働き方は難しいかもしれない。

後編に続く。

後藤 裕一 Yuichi Goto
「オテル・ドゥ・ミクニ」、「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」を経て渡仏。ミシュラン三ツ星レストラン「トロワグロ」にて、アジア人初となるシェフパティシエとして活躍。帰国後、「Bistro Rojiura」の原シェフと共に「PATH」をオープン。オーナーパティシエとしての仕事を続けながら、メニュー開発や店舗コンサルティングを手掛ける「Tangentes Inc.」を仲村和浩氏とともに設立。「Blue Bottle Coffee Japan」のMenu Development Consultant、「Megan bar&patisserie」のアドバイザー、「ESqUISSE」シェフ・パティシエを兼任するなど、パティシエという職業の可能性を広げる活動を続けている。
301は、新拠点立ち上げに向けて飲食チームとして参画してもらえる仲間を募集しています。インタビューを読んでこのプロジェクトに興味を持っていただけた方は、HPのフォームから応募いただくか、301メンバーや飲食チームメンバーへ直接ご連絡ください。

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