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Behind Design 「ANTCICADA#1 思いの根本を伝えるデザイン ロゴ編」

301のクリエイティブ制作の裏側をお伝えするシリーズ第一弾は、レストラン「ANTCICADA」のクリエイティブについて。「ANTCICADA」は、地球少年として活動する篠原祐太氏を中心とするチームが、昆虫食をはじめとする地球上のあらゆる生き物の可能性を追求するレストラン。今年秋にOPEN予定です。301はこのレストランのVIとコンセプトメイキングを担当しています。

今回は、「ANTCICADA」のクリエイティブを牽引したデザイナーの宮崎悠にインタビューし、どのような思いのもとに制作を進めたのか、その経緯を聞きました。


ーーまず、「ANTCICADA」がスタートした経緯を教えてください。

宮崎 もともと、まちづくりが行われている「日本橋馬喰町」を盛り上げるプロジェクトの企画が301に参加することになり話し合っていて。その中で地球少年称される篠原くんがプロジェクトに入ることになり、昆虫食のレストランを開こう!と始まったプロジェクト。

昆虫食に関しては、個人の意見だけど、最近欧米で流行ってきている文脈はあんまり面白いとは思ってなくて。
食糧危機とかのためのスーパーフードというのはどうも欧米特有の価値づけの文化の一貫ぽいと。それはどうかなぁと思っていたんだけど、篠原くんに会ってみたら全然違って。篠原くんのモチベーションは、ただ純粋に虫が大好きで、それが故に昆虫を食べるに至ったというクレイジーな人だった(笑)。


ーー301は誰かの強い思いに共感し、プロジェクトに関わるということが多いと思いますが、ANTCICADAでは篠原さんのどんな部分に共感したのでしょうか?

宮崎 共感した部分は、彼はピュアに虫が好きで、真剣にそれと向き合っているところ。虫への愛を全身で表現しているじゃない、毎回ミーティングのときに着ている虫柄Tシャツといい(笑)。そして彼が本当にレストランにチャレンジしたい、という思いが強く伝わってきたから。

301が何かプロジェクトに関わる際、大切にしているポイントがいくつかあるんだけど、

・企画者(クライアント)に信頼に足る「熱意」はあるのか。
・関わる人全員がそのプロジェクトに「意味」を見出しているのか。
・対して世の人々が「共感」できるポイントがあるのか。

篠原さんの思いは、301が大事にするこれらのポイントとも重なっていたし、実際取り組んでみてもとても301らしい仕事ができたと思ってる。


ーーでは実際の、クリエイティブ制作の話に。篠原さんのチーム『ANTCICADA』を象徴するクリエイティブにおけるポイントはなんですか?

宮崎 「虫を美しくみせる」というのが全体のクリエイティブコンセプト。人間の好みに合わせて、虫をデフォルメして可愛くしたり、シンプルなアイコン化したりするのではなく、虫のありのままの美しさを感じられるようにする、というのがスタート地点だった。

ーーそこにフォーカスしたのはどうしてですか?篠原さんたちの親しみやすい雰囲気とはまた違うものになっていますよね。

宮崎 クリエイティブとして「虫は美しいし、カッコいい」という篠原くんの考えの根本が、正しく伝わることが重要だと思ったから。感覚的な言い方だけど、見る人にも実際の虫のパーツが「形、見え方」として美しいことで「カッコいい」と思ってもらうための方向性を探ったんだよね。

世の中的には、虫に対して「気持ち悪い」とか「怖い」とかネガティブな印象を持っている人たちが多い。でもANTCICADAはそういう人たちにこそ、虫の見方を変えてほしいという思いを持っている。だから篠原くんが虫を「美しい」と捉えているように、見る人にも「よく見ると虫ってすごく美しいんだな」という発見があればと思って。そのためにロゴやフォントの制作ではグラフィックとしての完成度の高さにこだわり続けた。

ーーロゴとしては、『ANTCICADA』の『A』がアイコンになっていますよね。これはどうして?

宮崎 当初は、コオロギがそのままお皿に乗っているくらいの「そのまま感」があってもいいかなというイメージから始めたんだけど、そこからやっぱり「虫を虫たらしめているものとは何か?」という発想に繋がった。その中で文字に手や足をつけたり、虫の触覚をつけてみたりとか、虫じゃない、文字なんだけど虫に見えるというポイントを検証したかな。

これはフォントの話にも重なってくるんだけど、例えば「豚は豚のまま食べない」じゃない?篠原くんは虫もそうあるべきだと思っていて、チャレンジとしてコオロギの太ももの部分だけを集めたりとか、パーツごとに料理をしていきたいと話してくれた。じゃあ、虫の手や足、パーツにフォーカスして、文字に組み合わせていくことがふさわしいのではないかと。


ーーこのロゴに最終決定するまでに、篠原さんと密なやりとりをしていたと思うのですが、その中で印象的なことはありましたか?

宮崎 最終的に何案か絞った時に、ANTCICADAの『A』をロゴにする方針がたって、『A』が他の文字よりも象徴的に外に出ていくものになると思ったので、フォントの中でも先行して作っていった。『A』に使用する虫のパーツには、「コオロギラーメン」はじめ彼らに思入れのあるコオロギを使おうかという提案もした。でも今実際に『A』のパーツに使っているのはオオクワガタ。クワガタのフォルムがやっぱり素晴らしくて少年たちのアイドルになる理由が分かるな、と。僕も作りながらクワガタってものすごく綺麗なんだなと久しぶりに少年の時を思い出した(笑)。

オオクワガタやコオロギ、そのほかの案と一緒に提案して、選んでもらうことになったんだけど。その時に篠原くんは「コオロギにも思入れはあるけれど、そういうことをひっくるめて、僕らはもっとフラットに虫を見なければいけないと思う」と話してくれた。そう考えると完成度して強いオオクワガタを使うという決断になった。

ーーそれはなぜ印象に残ったのでしょうか?

宮崎 これは結構正解だと思っていて。思い入れのある虫だから、ではなくロゴとして伝えるべきは『意味』。彼らのストーリーも大事だけど、それだけじゃなくて「昆虫は美しいんだ」という変換を見た人に起こすこと。ANTCICADAは世の中では当たり前ではないことを当たり前にしていくチャレンジの場であるし、その第一歩として毛嫌いなく昆虫を好きになってもらうことが大事。そのためには、パーツとしての「美しさ」が圧倒的に高いオオクワガタを選んでよかったなと。

次回はフォントの裏側編です。


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