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2−1 音源流通ビジネスが縮小する3つのファクター

❶ 画商は、ピカソの絵画が贋作であれば、それがどれだけ精巧なスーパーコピーだとしても、価値を著しく下げるしかない。一方、レコードメーカーの商品は、コピーでも価値は下がらず、むしろコピーを本物として売っている。しかも、どんな天才アーティストの音源でも、ピカソの絵画の贋作をつくるよりも遥かに容易にスーパーコピーをつくれてしまう。本や新聞も同じくで、作家の手書きの原稿を百億円で売る文化は一般的ではない。高利個売ではなく薄利多売を前提とした無形(非物質的な)商品を扱う権利ビジネスだ。

❷ インターネットでの送るは、これまで我々が経験してきた送るという概念とは全く別物。「送る」であろうが「贈る」であろうがだ。インターネットでの送るという行為は、同時に、世界中に・簡単に・無限に複製を生み出すという副作用を持っている。誰かに手紙を送った時、その原本が手元に残ることはない。電話で話した内容も、録音という別の意図的な複製行動(手紙であればメモ)をわざわざしなければ、やはり、手元にオリジナルは残らない。ただし、誰かに送った電子メールのオリジナル(のデータ)は、必ず、送り手側の手元に残る。あるファイルをインターネットを介して10人に送れば、世界に1個のオリジナル + 10個のスーパーコピーが生まれる。今、私がPCで書いているこのテキストも、インターネット上にアップすれば、瞬く間に、世界中に無数の複製を生み出す可能性を孕んでいる。

❸ インターネット普及後の現在社会において、特にビジネス面では、視聴覚情報とそれ以外(嗅覚・味覚・触覚)の感覚情報との間には大きな隔たりがある。前者は、インターネットで容易に送ることが普及しており、後者は、技術的にも文化的にも経済的にも、まだまだコモディティ(一般)化していない。

【まとめ】
❶ 音源流通業は複製を売っている
❷ インターネットでの送るは同時に容易に複製を生む
❸ 視聴覚情報を持つ商品はインターネットで送ることが可能
(誰でも世界中に容易に複製を頒布できる状態にある)

レコードメーカーという音源や映像など原盤(レコーディングされた作品)の流通業は、録音された音源や印刷された歌詞、撮影されたミュージックビデオやライヴ映像などのメディアに固定された視聴覚情報の企画・制作・宣伝・販売をビジネスにしている。そして、売り物となる精巧な複製は、今の時代の誰にでも容易に精巧に複製できるという構造こそが、今の原盤流通業界の根本的な弱点。

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これが、物流があろうがなかろう(インターネットで流通させよう)が、音源流通ビジネスが縮小する根本的で大きな理由のひとつではないでしょうか。

インターネットの普及によって、音源の物流が必要とされなくなった音源ビジネスにおいて「インターネットで送る=デジタライズ流通」という新たな流通の副作用(複製機能)が、複製を売るというビジネスモデルを陳腐化させたのです。

結果、新たな価値が求められています。

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