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資本主義の再構築【Yuの本棚④】

レベッカ・ヘンダーソン氏の著作である「資本主義の再構築」を拝読したので、読書メモを以下に残します。

サマリー


2018年1月、ブラックロックのCEOラリー・フィンクは、企業に社会的目的を果たすことを求める手紙を送った。企業は財務目標を達成するだけでなく、株主や顧客、従業員、地域社会といったステークホルダーに貢献しなければならないと述べている。このメッセージは、現代の資本主義が直面する課題を指摘し、その再構築の必要性を示唆している。

市場が本来の機能を果たさなくなった理由として、外部性の適切な価格付けの欠如、機会の自由を得るためのスキル不足、企業が自社に有利なルールを作り替えている点が挙げられる。利益最大化が自由で公正な市場でのみ繁栄をもたらすとされるが、現状ではそれが実現されていない。外部性に対する価格がつかず、機会の自由も夢物語であり、企業が自己都合でルールを変更しているため、株主価値の最大化は破滅に繋がる可能性がある。

問題は、完全に自由な市場そのものではなく、制御されない市場であり、社会的・道徳的義務が欠けた社会が問題視される。多くの資本家は経済のパイを適切に分ける術を知らず、社会主義者はパイを拡大する方法を知らないため、現状では協力しなければ対立や革命に陥り、経済が縮小するリスクがある。

資本主義を再構築するには、企業が単に収益を追求するだけでなく、持続可能な社会や地球環境の中で繁栄を目指すべきであると強調される。この考え方は広がりつつあり、企業は株主だけでなく、社会全体に対しても責任を負うべきであるというデラウェア州の法律がその一例だ。取締役は、長期的な成功を見据えた意思決定が求められるが、短期的な利益最大化を目指す必要はない。

さらに、資本主義を再構築するためには、安易な道を避け、革新と生産性を重視することが重要である。自主規制の取り組みは、企業と第三セクター、政府の協力を通じて強力な解決策を生み出す力を持つ。物事の変革にはリスクが伴うが、企業は存在意義を掲げ、その意義に基づくビジョンを持つことで、変革を推進する勇気を得ることができる。

投資家にとっての価値を創造しながら、企業は社会への責任を忘れてはならない。共有価値の創造が企業にとって経済合理性を持つことが明らかにされており、環境負荷を軽減し、人材を尊重することで、風評リスクが下がり、サプライチェーンの安定が確保される。さらに、競争相手に差をつけ、コスト削減や新しい事業の創造にもつながる。

共有価値を創造するには、企業が従来の枠組みにとらわれず、想像力を働かせることが求められる。組織が共有目的を持ち、それを全員が受け入れることで、企業は公正で持続可能な社会を築くことができる。目的主導型企業は、利益最大化を超え、社会全体のために価値ある商品やサービスを提供することを目指すべきである。

共通目的を掲げる企業では、従業員が一体感を持ち、内的動機に基づいて働くことができる。これにより、生産性や幸福度、創造性が向上することが期待される。良質な雇用は、従業員の健康と幸福に直結し、社会的地位や連帯感を高める要因となるため、企業は良質な職場環境の提供に取り組むべきである。

また、現代の企業リーダーは、利益と社会的意義の両立を意識し、新たなビジネスモデルを発掘する必要がある。これには、目的主導型のリーダーシップが不可欠であり、短期的な利益追求だけでなく、長期的な視点で社会全体に貢献することが重要である。

さらに、企業はESG(環境・社会・ガバナンス)指標を活用し、長期的な価値創造に取り組む投資家とのマッチングを強化する必要がある。適切に設計されたESGデータは、企業の社会的責任が財務的にもリターンを生み出すことを証明する手段となり得る。また、顧客所有型や従業員所有型の企業モデルも、資本主義を再構築する有望な方法として注目されている。これにより、より公平で持続可能な経済が実現される可能性が高まる。

最後に、産業界は自主規制を強化し、集団的な共有価値の創造を後押しする必要がある。政府との協力を通じて、業界全体が共通の目的を持ち、制度的な安定を確保することが求められる。資本主義の再構築には、企業が自己利益を追求するだけでなく、社会全体の利益を考慮する姿勢が不可欠であり、そのためには産業界と政府が協力して新しい制度を構築することが重要である。

このように、共有価値、目的主導、金融回路の見直し、自主規制といった取り組みを通じて、企業は資本主義の再構築に貢献し、公平で持続可能な社会の構築に寄与することができる。






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